ずっと一緒だと思っていた
青薔薇騎士の先導で、アランが学生の先頭でこちらへ歩いて来る。
紺色のブレザー。襟元には銀色の縁取。
ネクタイは青。
ズボンはグレー地チェック柄。
アランも体型に合わせて立体縫製!
足長!
身長175㎝くらい。
白銀に近いグレーの長い前髪からアンバーの瞳が覗く。
アイリスと目があった。
爽やかにやさしく微笑む。
キャー
後方から黄色い悲鳴があがる。
『わかるわかるよ!みんな!
アラン格好よすぎ!身長も高いし。
よだれでそう!』
ユークラリス家は伯爵家筆頭扱いなので、自然と列の中央になり、当然アイリスと隣どおしになる。
アランは颯爽と歩みを進め、アイリスのすぐ傍に立つ
「姉様。お元気そうで」
「アランも変わらずに(格好いい!)……」
ここでも馴れ合わない。
あくまで姉と弟。
それと一応客観的にはパートナーだからね
でも手とか握りたい
キスもしたい
二人だけになりたい
─残念!それはお預け
アランは隣に腰を掛け、真っ直ぐ壇上を見つめる。
わたしももっとアランを見ていたいけど、周りの目もあるし、やっぱりユークラリス伯爵家の人間だから好き勝手も出来ない。
ここはアランに倣って、前を向く。
何度かラッパがなり、皆客席に着いた。
公爵家の面々も揃っている。
ちなみに公爵家以上は王族扱いで、入学式とこの新学年進級のご挨拶会?みたいな行事にはほとんど出席するみたい。
ロイヤルファミリーって大変だね。
そして主賓というかなんなのか、王太子殿下がご登場!
─流石に絵になって素敵!
と言いたいところだけど、やっぱり嫌い
─なんだろ?
髪は黄金でサラサラ。顔は王子顔で超絶美形。透明感がありクリスタルな感じ。足も長くて、小顔で、九頭身くらいあるんじゃね?って思うほど完璧!
でもね
─ほっんと嫌い!
たぶん性に合わないんだと思う。
それに無理くりキスされたしね!
それも婚約者のソフィア様の前で
─ありえない!
あれ?今、殿下と目が合ったような?
微笑みかけてる?
──わたしに?気のせい気のせい。
見なかったことにしよう……。
そして殿下は壇上にそのまま上がり、なんだか爽やかな声で祝辞をのべると、青薔薇騎士と白薔薇騎士に伴われて座席に着く。
着座する前に後ろの全校生徒に向かって、微笑みながら軽く手を振る。
サービスだろう。
後方でキャーキャー悲鳴があがっている。
─カッタルイ
わたしアイドルとか苦手だった。
嫌いじゃなくて、苦手。
でもドラマの撮影に居合わせて、元アイドルだった人が真面目に台本読んで取り組んでいるところみてから、表の華やかな世界を維持する為に凄い努力してるんだ!ってそこは素直に感心した。
この王子様もそれなりに努力してるんだろうな~。
なんてどうでもいい思考に取りつかれてると、視線を感じた。
クリスタルがこちらを見ている。
目が合ったら微笑まれた
ゾワッ!
背中に悪寒が走った。
でも、流石にここは無視出来ない。
とりあえずホワホワアホみたいに微笑んどく
『聖女も天使も貴方には微笑みたくはないってよ!』
それで満足したのか、大人しく席に着く
いちいちこっち見なくていいからねクリスタル!
あっ。殿下のあだ名『クリスタル』にしました!
クリスタル=アーサー王太子殿下ってわけね。
透明感あるし、美男だし、王子様補正でキラキラ輝いているからねクリスタル!
─ぴったりね
まあそれから頭に年季が入って綺麗なツルツルになった学園長のごあいさつやら何やらおわり、学園生で構成された合唱隊が壇上で美声を披露したりなんなりして、この会合は終わりました。
ご退場は王族から順に……
─またクリスタルチラッてわたしを見たぞ!
微笑んでウィンクまでしてる!
ホワホワで返したけど、ホント止めて!
周りの視線が痛い!
特に上級下級問わず貴族のご令嬢がアイリス見せる眼差しは嫉妬と憎悪に彩られている。
─何考えているんだろ?
もしかしてハーレム要員になれってこと?
なったらなったで満足して、釣った魚にはエサはやらないとばかりに無視されそう。
ホントにわたしに構わないで!クリスタル!
わたしにはアラン様という現在進行形で相思相愛の素敵な彼氏がいるのです。
彼氏!
─やった!
わたしに彼氏出来た!
考えてみれば初彼氏だ!
─嬉しい!
それがアラン様だなんて!
こんなに格好いいなんて!
まあわたしも見た目もアイリスだから
超絶美少女のピンク女だから
【ヒロイン】だから
釣り合うっていや釣り合うんだけど……
─ちょっと複雑……
でもぜいたく言えない!
付き合っているのは事実だし!
─お付き合いしてるの!
この響きもいい!
「あの姉様。もう行きますね。
姉様もお元気で。
また教室で会いましょう」
アランの問いかけに我にかえる
「そうねアラン。また会いましょう。
それではアランもお元気で」
ふたりは見つめ合い、軽く頷き合うと別れた
『逢い引きしたい。今度の休みとか外出したいな』
そんなことを想いながら、来たときとは逆でわたしをツンツンした伯爵令嬢の後をついて行く。
椅子の列を抜けたら赤薔薇騎士のお姉様が護衛で最後尾に着く。
先頭にもいるからね前後を挟まれているのね。
「ご苦労様。素敵なお姉様♪」
すれ違い様にそんなことを言ったら、赤薔薇騎士のお姉様ちょっと頬を赤く染めて嬉しそうに頷いた
「護衛はお任せくださいアイリス様」
なんて直立不動で言われちゃって
「よろしくね。これでわたしも女神の懐に抱かれた安心感があります」
「ありがたき幸せ」
なんて今まで想像したことなかった言葉を並べ立て、アイリスは堂々となんだか気合い漲る赤薔薇騎士様を後ろに従えて大講堂を後にする。
アイリスは知らなかったが、アイリスの株が赤薔薇騎士の間で急上昇していた。上級貴族でありながら偉ぶらす、いつも気さくに声をかけてくれる。
そしてその仕草から、赤薔薇騎士を本当に尊敬して信頼しているのが見て取れる。
アイリスがソフィア様の秘密のお茶会に行くとき、ちょっとアリスがからかったあのやり取りの詳細が……。
チョコを口の中でデロデロにして『ばぁ』と口を開けて赤薔薇騎士のお姉様に見せて
『キスしちゃダメだよ』とのたまったやつ。
あれが広まって
『アイリス様なんて可愛らしくてお茶目』と赤薔薇騎士団から好意の眼差しを向けられていること……。
─アリスはただアホなだけ
楓はそのフォローしただけ
何が幸いするのかわからない。
それに楓はホントに庶民平民普通の子だから、未だに護衛してもらうことに慣れないし、当たり前とも思えない。そしてこれからも当たり前とは思いたくない。
そして素直に『赤薔薇騎士のお姉様ステキ!』とミーハー気分に浸っている。
そんなこんなの相乗効果だね。
そして二階の教室に着いた。
三十人でひとクラス。
三学年だけで十クラスあり、アイリスは教室に張り出している区分けの名簿を見ていた
自分はクラス3と事前に教えて貰っていたから、ちゃんと名前があるか?その確認。
─ん?
あれ?
わたしの名前あるけど……おかしいな?
アランの名前がない
─え?何で?
いつもふたりはセットだったよね?
楓は教室に入らず他の教室を覗きに行った
─いた!
アラン
最後の教室。
クラス10
遠く離れた教室にアランがいた。
覗きにきたアイリスにアランが気付き、教室の外にでた。廊下で向き合って話す
「なんで離れ離れなの?わたし不安だよ。
てっきりアランと一緒だと思っていた」
「僕もだよ姉様。そのつもりでいたから驚いている」
ホントに知らなかったらしい。驚いた顔をしていた
「でも仕方ないよね……。ビックリしちゃったけど……。放課後会えるよね……」
「その事なんだけど姉様……」
なんだか歯切れの悪いアラン
「どうしたのアラン?」
「僕。その……生徒会の一員に選ばれたんだ。今聞かされて……だから暫く放課後生徒会室に通わなくちゃいけなくて……」
「えっ……」
アイリスは絶句した。
そしてなんだかすごくすんごく嫌な予感がした。
そしてそれは近い将来。
現実のものとなる……。




