表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/176

大親友ってありえない!

 


アリスはそんなベティの頭を優しく優しく撫でている。



そしてベティの想いが流れてくる。


不思議だね


アリスの能力かな?映像も見える。


三才くらいの女の子。

たぶんエリザベス様。

だって目付きが悪い。


お世話係が何人か身の回りのお世話をしている。

ちっちゃなエリザベス様と目が合う。


 

ビクッとして目を背けられる。


 目が怖い


でも、流石の鈍感なわたしでもわかる。

この子。ただ見ているだけ。


ただ目付きが恐いだけ。


そして年を重ねていく。


たった一人お世話係のリンダだけが、目を合わせてくれる。


他の使用人も出会う人も皆。

エリザベス様と目が合うと怯えてしまう。


そしてひそひそと噂話


『目を合わせちゃいけないよ。

呪われるから。

お婆様のエリザベート様と瓜二つ。

エリザベート様に睨まれたら、そのお姿は悪魔のように見えたらしいわ!

皆誰もがエリザベート様に従順になるのも、呪われたせい。

恐怖の大女帝!いいえ!

恐怖の大魔王として君臨なさっていたらしいわ!

エリザベス様もきっと……』



 そんな噂話



それにしてもお婆様のエリザベート様ってどんな人だろう?


─呪われるってあーた


ひどいよね。

恐怖の大魔王って!はてどこかで聞いたことがあるような?


呪いという意味さえ知らないエリザベス様。


怖れられ避けられる日々。

目を合わせるたびに恐怖に震えた形相で怯えられ日々。

微笑みかけても、後づさりされる日々。

使用人はリンダ以外、誰もまともに目を合わせてくれない日々。


鏡で自分の顔を見て、笑顔の練習。

そして、目だけ笑っていない微笑みが一番怖くないと知った絶望。

そしてその顔すら自分で恐ろしいと思ってしまった絶望。

試しに睨んでみると、恐怖に失禁しそうになった絶望。


本当は誰とも会わずに、誰とも目を合わせずに下を向いていたい。


でも自分は公爵令嬢。

しかも生まれてすぐに第二王子


 レイン・オパール・フォラリス


と婚約した。


でも、初めてあったその日。

婚約者に言われた一言


「なぜボクを睨むんだ!ボクがそんなに気に入らないのか?」


気に入らないも何も、一目惚れしてボケーっと見つめていただけ。あまりのショックに流石に泣き出した。

その日から今日まで一度も泣いていない。


そのあと謝罪を受け今は良好な関係を築いているが、あの日のことは一生忘れられない。


地位も名誉も人より遥かに備え、恵まれた者。

人目を避けることも、ましてや下を向くことなど許されぬ身の上。

公爵家を背負い。王家との婚約者を背負い。

その誇りを胸中に、無理に背中にぶっとい杭を刺し貫いて、背筋を伸ばし胸を張って来た。


そしてこの学園でも会うもの会うもの全てが自分を見て、目が合っただけで怯えた表情を見せられる日々。

中には微笑みかけて、その場にへたり込み、本当に失禁したご令嬢も毎年一人や二人いる。


でも、そんなエリザベス様を恐がらない女の子が一人だけいた。アイリスである。


目が合っても恐がらず、恐怖の大魔王の再来とまで恐れられたエリザベスの目の前で、フィアンセのレイン殿下にちょっかいをかける女の子。

半年に一回。ソフィア様とエリザベス様お揃いの非公式のお茶会に呼ばれても、ただニコニコとお菓子を食べる不思議な女の子。

ためしにギリギリギリギリ睨んでも、一切ビビらない稀有な存在。


まっ。アイリス。女の人、シェレイラ母様以外みんなのっぺらぼうだったからね。


その目付きの悪さも全然見えていないだけ。


でも、エリザベス様の顔を見れる今も全然怖れていない。恐怖など微塵も感じていない。

楓のわたしだけだ。恐がっているの……。

人を見てくれで判断して、わたしって最低だ……。


このエリザベス様の凄まじい半生を見せられて耐えに耐えた日々を想って、楓たるわたしはどんな行動をとるべきか?

これからどうエリザベス様に接していくか?

言わずもがなである。

もう答えはとっくに出してある


アリスは決めた!

エリザベス様はマブダチ!

ならば同じアイリスがエリザベス様を怖れてどうするよ!


『楓なイリス!こんどはわたしの番だよ!』


「エリザベス様。わたしイリスです。

実を申しますれば大変失礼かとは存じますが、わたしエリザベス様の目がとても恐ろしゅうございました。

けれど今はなぜか少しも恐くありません。

アリスのエリザベス様への想いが伝わってくるからです。わたしは知っています。

アリスが恐れない者は決して恐ろしい者ではないことを……。

アリスが大好きなエリザベス様をわたしも今どうしようもなく大好きなことを……」

「イリス様……」


エリザベス様は怯えた子供のようにイリスをぎゅっとした。イリスもぎゅっと返した


「イリスたるわたしも、エリザベス様のマブダチに加えていただけないでしょうか?

わたしも『さんこの誓い』を立ててよろしいでしょうか?

わたし。ホントにホントにエリザベス様が大好きてごさいます。これから学園を跡にする事がこざいましても、生涯エリザベス様と繋がっていたいのです」


本心だよエリザベス様。

わたしイリス楓の本心。

もう……不意打ち以外はエリザベス様の目を恐がったりしない。

だって今。アリスが見せてくれているんだ!

エリザベス様の真っ白な大理石のような、オパールのような美しい魂を!

こんなに純真でお優しいエリザベス様に、わたしくるくる巻いて降参していたしっぽを直して、ブンブン振り回したい気分です!


「イリス様。わたくしでよろしいのですか?」


そしてまた言葉を続けた


「わがテイラム公爵家には代々、なぜか女性の中のひとりかふたりこのように恐ろしい目力(めじから)を持つ者が生まれます。特に〈おばあさま〉は凄まじい目力をお持ちでした。見るもの全てを震え上がらせたそうです。

わたくしはその〈おばあさま〉と生き写しと言われてしまうほど、若い頃の姿がそっくりのようです。

そのせいか、幼少の頃より皆わたくしを恐れて心を許してくれません。

そうですね……今は……父様と母様……ソフィア様にそれと……レイン様……リンダもですね……こうして指折り数えてみると結構いるものですね……心許せる者が……」


「お嬢様……」


リンダが感極まって泣いている


「エリザベス様。わたしもその中に加えていただければ、光栄でごさいます」

「もちろん。歓迎いたしますわイリス様。

アリス様とイリス様。御二人が揃ったのですもの。

こんなに素晴らしいことはありません。

ではその『さんこの誓い』を致しましょうか」


イリスとエリザベスは向き合った。

同い年の金髪巻き毛の女の子の瞳を間近でみる。

涙はもう流していない。

そして美しく澄んでいる


『こんなに綺麗な優しい瞳なのに、わたし、なにを見ていたんだろう?』


自分のバカさ加減につくづく嫌気がさす。

でも、すれ違いのまま終わらず、こうして繋がっていける未来があるのはすごく嬉しい!

それにエリザベス様から、公爵家だの王族だの第二王子のフィアンセだのそんなの取っ払ったらまだ15歳の女の子だよ。日本でいえばまだ高校生。わたしと同じJk青春謳歌していたかもしれない。


「イリス様。さんこの誓いは何か云われがあるのでしょうか?良ければ教えていただけて?」

「はい。喜んで……と言いたいところですが、あまりにうろ覚えでそれでもよろしければ……」


「よろしくてよ。続けてくださる?」

「はい。昔ある国で三人の男の人が出会って、仲良くなりました。やがて一人は王となり残る二人は王を支えます。そしてその三人が生涯の友情を誓った話です。

残念ながらその後の話は知りません」


なんか忘れたけど、三人の内の誰かが殺されていたような……いないような……でもそれは野暮と云うもの、云わぬが花でしょ?


「そうですか?三人ですか?」


エリザベス様が思案していまする。

そして顔をあげて


「三人だそうです。リンダ。貴方も入りなさい」

「わ、私がですか?」


リンダが驚いてる


「ええそうです。わたくしの目付きを恐がらなかったのは、側仕えの者で貴方だけです」

「エ、エリザベス様。本当に私なんかがよろしいのでしょうか?」


「よろしくてよ。 わたくしは貴方を手放す気はありません。

一生傍に置くつもりです」

「……エリザベス様」


ここでイリスも助け船


「わたしも、リンダさんには輪に入っていただきたいのです。

『棒も一本なら折れやすくても三本なら折れにくいよ』

という諺もありますし、いかがでしょう?

幸い他の誰も見ていませんし聞いていません。

恥ずかしがる事は無いですよ。

それにそこのリリもわたしと《さんこの誓い》しております。

家族ともひけをとらない生涯の友情の誓いに、身分差など何ら妨げる謂れはありません。

いかがですかリンダさん?」


リンダはエリザベスを見る。

エリザベスは頷き、イリスの誘導で三人手を繋ぎ合い、トライアングルとなる。


「それでは誓いを立てます。エリザベス様。リンダさんよろしいですか?」


「よろしくてよ」

「はい」


イリスは頷き


「では。誓いを……。

『同じ日に生まれなかったけど、死ぬまで仲良くしまーす』

ばんざーい!」


イリスが万歳に合わせて握った両手をあげる。

つられてエリザベス様とリンダさんもそれにならう


 ばんざーい!!

 ばんざーい!!!


万歳三唱した


「これでわたし達三人は……アリスも含めてですが……生涯の大親友となりました!

エリザベス様!リンダさん!

これから例え離れ離れに鳴ろう時があろうとも、私たちは繋がっています!

これから、よろしくお願いいたします」


うん。勝手に楓が作った制度。

他の誰も知らないからね。我が物顔で作った者勝ち!


「こちらこそ。アイリス様。リンダも」

「よろしくお願いいたします。アイリスさま。

そして……エリザベス様。

ですが私は離れ離れになるつもりはごさいません。

エリザベス様には何処までもついていく腹積もりです」


「御二人は切っても切れぬ仲なのですね。

わたしイリスとアリスみたいに」

「そうそう!アリスとイリスみたいに!」


イリスの言葉に、アリスは便乗する



みんな弾けるように笑った!



その後……お茶会を楽しみ、アリスは小さなナイフとフォークの使い方を教えて貰って、解散した。

また月一で定期開催することも決まった。


そして……アイリスとエリザベスは生涯の大親友となった。


楓が今プレイしている異世界乙女ゲームの世界。

プレイ最序盤。まだ新学年の授業の1単位すらとっていない状況で、交わることがないはずだったふたりが強い絆に結ばれたこの日。


プレイシナリオは崩壊し、もはや新たな誰も知らないシナリオを綴っていくこととなった、楓とアリスのアイリス。




だって乙女ゲームのヒロインと悪役令嬢が!




─大親友ってありえないじゃない!





 ☆☆☆




 ここではまだ知らぬ未來……





 ヒロイン

 アイリス・ユークラリス


 悪役令嬢

 エリザベス・テイラム





 方や国を崩壊させ

 方やその片棒を担ぐこととなる






 愛する国でありながら……














【三本の矢】という故事があります


戦国時代。

日本の中国地方をまとめあげた名君の毛利元就公。


彼には三人の息子がいて結束を促した言葉


〈一本の矢は容易に折れるが、三本まとめてでは折れにくい〉


長男は若くして亡くなり、そのその宗家の息子を弟(叔父)が支えます。戦国時代を生き残り、関ヶ原での紆余曲折を経て、明治へ至ります。


そして明治維新での長州藩の躍動へと繋がるのです!



歴史好きなので、ちょいとウンチク語ってしまいました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ