表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/176

アリスとベティはマブダチ

 

「ふわぁー今日から9月だよーわたし三年生になりましたー」


9月1日。昼食軽食後のまったりタイム。因みに昼食は軽食が多い。ガッツリ食っちゃったら午後ティータイムの間食が楽しめない。太るからね。


それと赤薔薇棟上級貴族以上は各部屋で食事を取る。メニュー表があるのでそこから選び、朝食を運んできた赤薔薇スタッフに注文する。

そして昼に軽食が届けられ、また夜食の注文を託す。

その繰り返しだ。朝食は基本パンとサラダとベーコンエッグとスープだ。

スープは三種の中から選べる。


ユークラリス伯爵家は自室の食事の場合は、基本使用人も同じ食事を取る。

夜食はメイン抜きの料理が使用人用の食事となる。

ちなみに食事料金は事前に一年分、ユークラリス家は五年分もう払ってある。

だから何を頼んでもその都度の料金はかからない。


白薔薇学園が始まると、昼食は白薔薇棟で取ることが多く、使用人はその期間は使用人用の少し素朴な食事が提供される。弁当みたいなものだ。


食事は自室では調理出来ない。もちろん火事防止だ。



話は脱線したが、とにかく今日から新学年だ!


わたしがテーブルに突っ伏してまったりできるのは、今日は授業も何もないのだ!8月30日~31日にかけて怒涛のお茶会×2&王太子面接があり、精神的に疲れ切ったわたしにはいい休日になる。


白薔薇学園としては入学式というビッグイベントが午前中行われたが、アイリスは蚊帳の外である。

オマケにアイリスは新一年生の時、入学式は経験していない。自室に軟禁状態であった。


そうそう!今日の午前中アランからお菓子の差し入れがあった。ハチミツたっぷりのパウンドケーキにマカロン。もちろんほとんどアリスが食べちゃったよ!


そしてこうしてまったりとしていると、何だか茜ちゃんをやたら思い出してしまう。


「茜。わたし茜を忘れていないよ。大好きだよ茜……」


朝方とか、寝る前とか、何故か茜のことを考えてしまう。変かもしれないが、茜の声が聞こえてくるのだ。

『楓元気してる?』『ちゃんとご飯たべてる?』『今日学級委員長に立候補するよ』とかね。聞こえてくるんだ。

わたしも『元気してるよ』『お茶ってるよ』『恋してますよ』なんて返事してる。

幻聴かもしれないけど聞こえてくる言葉には、ちゃんと返事することにしたよ。



─何だかそれだけで元気になれるから……。



このまったり時間は、リリとララにも共有して貰っている。いくら使用人だからとて、自分がダラリンしているとき傍であくせくされたらわたしの気も休まらない。


今はソファーで二人、刺繍をしている。ララが教えてとねだったのだ。

自分が欲しい絵柄の刺繍がないという理由だ。

何の絵柄?と聞いたら、カエルやヘビの刺繍をしたいらしい。そら、ないわな。

ただなんとなくララらしいね。



「なんか暇だわ~」



あまりにも昨日との落差が大きくて、何だか手持ち無沙汰だ。リリとララの刺繍の邪魔をするつもりはない。

何か面白いことないかな~。


 ♪タリタリタリラ~♪


おわっと。噂をすればなんとやらだよ。


リリが応対し、一昨日見たような封書をもってくる。

封蝋の紋章を見て、リリが一瞬ビクッとする。

開封してワールドに渡す。


「エリザベス様からです」


─うっわ。予想外!


内容はプライベートでお茶を楽しみましょうという話。

思いの外今日の行事が早く終わったので、もしお時間あったらお話ししましょうという話。

あくまでプライベートで急な話だから先日のような気遣いをせずに、楽な格好で来てね。


─だそうだ


断る理由もないし断れないので速効了承する。

15:00目安にという事であと一時間以上あるが、急ぐに越したことはない。


お土産は念を押されているので、今回は果物のシロップ漬けにした。手ぶらと云うわけにはいかないしね。

ユークラリス伯爵家は商家や貿易商と関わりが深いので、保存の効くこういった嗜好品が手に入りやすい。

この果物も異国の品なので、珍しいだろう。

アランが教えてくれたが、ユークラリス伯爵家は領地はさほど大きくないが主要な港を幾つか管理し、財力が大貴族と比べても遜色無いほどあるという。

そして爵位を伯爵家に止めて王家とも一定の距離を保っていること。


侯爵家ともなれば、軍事的にもある一定の規模を維持しなければならず。軍隊を持つが故に王家や公爵家とも婚姻を重ねて、叛意がないことを示さねばならず面倒だ。

ユークラリス伯爵家は商人上がりで、今も非公式であるが、いくつもの商団や貿易船団を抱えているこの国随一の商人集団らしい。


ただ財力を必要以上溜め込まず、市場に流すのでその関係で多くの商人達から親玉扱いされているらしい。


話が逸れに逸れて申し訳ありません。



エリザベス様に戻ります。


もう赤薔薇騎士の護衛付きでエリザベス様のお部屋の前にいます。

呼び鈴オルゴールが流され、お部屋に招かれました。


ソフィア様の部屋と規模は変わりませんが、あちこちに金と赤の差し色が使われ、より派手で豪勢な感じがします。


エリザベス様は相変わらずです。もちろんドレスは違いますが、赤い色、紅か?髪は黄金で巻き巻きドリドリル。


わたしを見るとそれはそれは恐ろしい笑顔で出迎えてくれました。覚悟はしていましたが心がビビってぶるぶるですわ


「ようこそイリス様。またお会い出来て、嬉しくてよ」

「この度はお招きいただきまして、まことにありがとうございます」


そして簡単な雑談の後。


「実は、甘くて美味しいお菓子が手に入りまして、ぜひアリス様に召し上がってほしくて」

「なに?なに?ベティちゃん!」


「まあ!アリス様!今お出し致しますわね」


エリザベス様は合図をして間もなくお菓子が運ばれてきた。

ワッフルだ!わたしもリアルにたべたい!

綺麗にデコレーションされて、フワフワの生地の上に色鮮やかな果物のシロップ漬けが載っています


「うわぁ!」

「どうぞ召し上がれ……と言いたいとこですけど、アリス様私のマネしてお食べ戴けますか?」


「なんで?」

「この小さなナイフとフォークをお使いになられて、楽しくいただきましょう。お手手で食べられるのも宜しいですが、このお菓子だとベタベタになってしまいますわ。それにナイフやフォーク、そしてスプーンなどお使いになれれば、それに見合った色々なお菓子もお出しできます。

ベティはアリス様ともっと色んなお菓子を、一緒にいだだきたいの」

「うん!わかった!教えて!それと様いらない!アリスって呼んで!」


マジですか?あのアリスが……フォークをぶっ刺すことしか知らないアリスが……もしかして……


「まあ嬉しい!アリス……これでよろしくて?」

「ベティちゃん!良くできました!これでアリスとベティはマブダチだよ!」


─マブダチってあーた


ボスだよ


「まぶだ……ちですか?どういう意味でしょうか?」

「えっとね……しんゆう……よりもすごい……しんゆう!」


「まあ!ベティをアリスの御親友よりも凄い御親友と呼んでいただけるのですか?」

「そうだよ!ベティとアリスは1番のマブダチ!

えっとね……えっとね……さんこのちかい!」

「さんこの誓い?」


「うんなんだっけ」


『同じ日に生まれなかったけど、死ぬまで仲良くしまーす』だよ!アリス!


「そうそう!同じ日に生まれたじゃないけど、死んじゃうまで仲良しだよ!だよ!……ど、どうしたのベティ。いやだった?」


エリザベス様が震えながらその恐ろしい碧眼の眼差しからポロポロポロポロ涙を流しておいでです。

お付きの侍女様たちも使用人の方々も皆、呆気にとられて固まっていまする。

かくゆう、わたしもどうしていいかわかりません

ことわざに鬼の目にもなんとやらというけれど……


「いえアリス。嬉し涙です。必死に耐えようと堪えようといたしましたが、どうにも止まりません。しばらくお見苦しいところをお見せするかもしれませんが、なにとぞお気を悪くなさらずに……」


アリスはおもむろに立ち上がると、そんなエリザベス様をガシッとハグされた。

エリザベス様は姿勢を変えず、スッと背中を伸ばしたまま微動だにせず。ただ、小刻みに震えている


「今までよく頑張ったねベティ。マブダチが胸をかすぞよ」

「……アリス……」


エリザベス様はそうこぼすと、ものすごい形相で使用人を睨み付けた。涙で赤くした目がさらに恐ろしさを倍加させる


「ここにいる使用人を皆呼んで来なさい」

「畏まりました。エリザベス様」


侍女のひとりが奥の方へ消え、直ぐに三人が追加された。

そして部屋の一点を示し


「皆、そこへ並びなさい。貴方もです」


リリも含めて六人が一列に並ばされる


「良いですか皆様。今からここで起こる出来事は他言無用です。父様や母様にも告げ口はなりません。

絶対にです。

もし、わたしくしの言葉が聞けぬようならここから出て行きなさい」


誰も出て行く者はいない


「では皆様。目を閉じなさい」


使用人達とリリはぎゅっと目を瞑る


「後ろを向きなさい。くれぐれも目を開けないように」


皆一斉に背を向け、壁側を向く


「合図したら耳を塞ぎなさい。良いですか?何も聞こえないほどきつく耳を塞ぐのです。

解除はリンダの肩を叩きます。リンダ。わたしくしが肩を叩いたら皆に普通に戻るように指示出来ますか?」


「はい。おまかせください」


20台前半の美しい女の人がこちらを向き、ぎゅっと目を瞑りながら返事した。深々と頭を下げると直り、また背を向けた


「では皆様。いえ、リンダ。貴方だけは見届けなさい。それでは皆、耳を両手で塞ぎなさい。」


使用人達は両手で耳を塞ぐ。リンダだけがまたこちらを向き、せっかくぎゅっとした目をあける


「アイリス様。失礼します」


そういうと、ビザに掛けてあった汚れ防止のナプキンをアイリスに結び胸元を覆う。

エリザベス様は立ち上がると、アリスをぎゅっとハグし見つめた。顔が近い


「アリスはベティを怖くないのですか?」

「ぜんぜん!一回も怖いと思ったことないよ」


「この目に見つめられて『呪われる』とかお思いになったことも?」

「なんで?とってもキレイな目だよ。ベティちゃん。アリス見るときいつもいつも凄く嬉しそうな優しい目をしていたよ……えっと……のろわれるの?」


「わかりません。皆がよく噂するもので……ただわたくしは一度たりとも誰かを呪ったことはございません……わたくしのこの目以外は……」


最後の方は空気にすぐ消えそうなほど、小さな声だった


「ベティちゃん。知ってる?ベティちゃんの心すごくすんごくステキなんだよ。卵のように真っ白でキラキラ光ってて、その瞳みたいに澄んでいてとってもキレイ!

はじめてベティちゃんとあった時、すぐに大好きになったよ。だからね……ベティはアリスのマブダチにするって決めたの!アリスとマブダチ……いや?」


「とんでもございません。嬉しゅうございます。

その……もう限界でございます。

その胸……お借りしてもよろしくて?」

「どうぞベティ。今はあなたにあげる」


そしてアリスはぎゅ~~~っとベティをハグした。

ベティもぎゅ~~~っとハグした。そしてアリスの大きな胸に顔もぎゅ~~~っと押し付ける



 ああああああああああああ!!!!!



それは突然の叫びだった。

空気がびりびり震えるほどの大音量。

慟哭。



それが泣き声だと気付くのに



楓もしばらく時間を要した。













評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ