大キライな王子二人
午前1時。
室内灯の消えた部屋
勉強机の上に19inchのテレビを置き、ポチポチと乙女ゲームに勤しむ天下無敵のJK。
画面から漏れる青白い光に浮かぶ、馬鹿みたいに真剣な顔。
背もたれ付きの椅子に座る涼風楓。
「ハッピバースディ♪わたし」
本日零時をもって16歳に成ったばかりだ。
左足を体育座りのように抱え込み、膝上にアゴを載せている。椅子の前脚は宙ぶらりん、後ろ脚二本だけで支えている。それを右足でシーソーのように揺らす。
闇に浮かぶ白い素足が妙に艶かしい。
服装はノーブラT姿、下はホットパンツ。
ちなみにバストサイズはさほどではないので、字ズラから連想するほどエロくはない。
というかズボラっぽい。
ゲームのコントローラーは左足の脛あたりで操作している。
ぽいっじゃなくてズボラ。
食い付くように見いる画面には、金髪碧眼超絶美形二次元王子が天使の眼差しで、ボイスってる。
「アイリス……今から君に大切な話しがあるんだ。
少し時間を僕にくれないか?」
字幕と共に甘い声色。
キターーーっ!!!
20時の夕食から宿題までをマッハでこなし、21時から4時間耐久ゲーム。
やっとキタ、王子のニ度目の告白ターイム!
一回目は二年目終了間際の告白
『君が気になっている、もっとアイリスが知りたい』
は現実時間で一週間前の事だ。
そこから、自作攻略ノート《王太子を虜にする方法》(攻略サイトを見るとシークレットキャラがまるわかりなので、地道に書いた)を駆使し、茜にアドバイスを貰いつつやっと漕ぎ着けた。
《白薔薇姫と七人の虜》のゲームを初めてからは一月以上かかっている。
☆☆☆
「かっえでぇ~、ばっかなのぉ~」
と茜。
これは楓がまだ、ゲーム開始後間もない頃の話
「かっえでさぁ~!ふっつうぅ~、いっちばん初めはぁ~、ちゅうとぉ~りぃあるぅ的なぁ、養子でぇ弟のぉ次期伯爵ぅアラン攻略がぁじょ~おせっきでしょぉ~!
なんでぇ~それぇすっ飛ばしてぇ~、いっちばん激ヤバムズのぉ王太子にぃいっちゃってんのぉ!!」
楓がアドバイス求めた時のちょとイラってる茜を思い出す。
アランは家屋敷や学園でもいつも一緒にいて、優しく丁寧な甘い言葉でゲームの流れや概要、攻略のヒントを教えてくれる。
白薔薇姫までこぎ着けるにはそれなりの工夫はいるが、チュートリアルに添えば、アランと舞踏会イベントは楽に見ることができる。
「いや、だって、リアル弟いるし。なんかアイツがちらついて恋人気分になれないんだよね」
「かっえでのぉおとおと~ってぇ、はっげぼうずぅのぉ~
ゴーリラだよねぇ~。
アッラン様とぉ~似ってもぉ似っつかないんですけぇどぉ~。
あっりえなぁ~い。あっほなのぉ~?
アッラン様にぃたぁいするぅぶっじょっくぅ~」
確かに野球坊主頭日焼けゴリラのリアル弟とアラン様は月とカミツキガメぐらい差があるけど
──ちなみに月がアラン様──
養子だけど《弟》ワードでゴリ坊主がちらついて気分がだだ下がりする、楓の気持ちも分かってよ!と思ってしまう。
今となっては懐かしいやり取りだ。
☆☆☆
なんやかんやで王太子の告白間近の楓。
さぞかしテンションが上がっているかといえば、そうでもない。
王太子を攻略しつつ思う事
『こいつないわ~』
確かに顔は金髪碧眼超絶美形クリスタルな感じだが、心が伴っていない。
王太子
アーサー・ジュエルク・フォラリス
とにかく偉そうでいつも上から目線なのだ。
まっ王子だかららしいっちゃらしいけど、モテて当たり前みんな自分の虜ウェルカムウェルカム!
モテるから色んな令嬢に迫られ、皆に甘い言葉を囁き、気を持たせる。
まぁこいつ現実世界じゃホストっぽい。
いや、それじゃ、ホスト様に失礼だわな。
とにかくチャラいチャラオくん。
さらに女滴しのタラオくん。
ミックスしてみてチャタオくん。
『うん、やっぱ
アチキコイツキライ』
何より許せないのは、カップリング相手の公爵令嬢をないがしろにし過ぎなこと。
ソフィア・ローレンス様
プラチナブロンドの髪で瞳はサファイア。
容姿端麗、眉目秀麗、彩色兼備。
美辞麗句を並び立てても飽きたらない、もう完璧星人。
ヒロインアイリスにも優しく、人望ありまくり。
唯一の欠点、母の出自が低いこと。母は平民出身でローレンス公爵に見初められ男爵に養子入りした後、結婚。側室となる。
その一人娘がソフィア様。
ヒロインはその出自の低さを突いて、ソフィア様に身を引かせるのだが、楓にとってはいくらゲームとはいえ、罪悪感半端ないのだ。
何処の悪役令嬢だよアイリス。
王太子とソフィア様は物心付く前から、婚約していた。
なのに、王子は平気で取り巻き令嬢達とソフィア様の前でいちゃつく。
ヒロインもいちゃつく。
ヒロイン自分ながら、自重しろ!空気読め!とつっこまざるを得ない。
それなのに健気に笑顔を振り撒く。
マジ聖女天使ガブリエル様!
とにかく人望半端ないので、周りが彼女を盛り立てる。
密かにソフィア様の評判を落とそうと画策しても、倍返しで周りがフォローして、ソフィア様の評判が上がる。
実はソフィア様。原案ではヒロインであり、《白薔薇姫》の衣装も彼女の為に描かれたもの。
あまりに完璧過ぎるため、少し緩くて天然なアイリスになったという経緯がある。
ラスボスと検索して、ソフィア様と検索ワード上位に来る《白薔薇学園の白百合》である。
そんな大キライな王太子と尊敬するソフィア様の仲をぶっ裂いて、ようやく辿り着いた告白タイム。
『さぁクソ王太子、さっさとアチキの軍門に下りやがれ』
カオスな心で半眼で見つめる。
いい加減、キライな王太子と一月も付き合ってあげたのだ。さっさと告白されて別れてあげようではないか!
もちろん舞踏会で《白薔薇姫》になるまでは、付きまとってあげよう
「……アイリス」
金髪碧眼超絶美形クリスタルくそったれ王太子が、アイリスの頬に手を添える。
アイリスはうっとりと瞳を閉じる。
『仕方ないアイリスの唇をあげるわ』
正に二人の唇と唇がふれ合う瞬間
「アイリス待たせたね!」
突如割り込んできた、得体のしれない声。
いや、知りすぎてトラウマになってる声。
『てかさ、なんであんたがここにいる!』
画面に写し出されているのは、黒髪で黒い瞳の美男子。
切れ長の目、長い睫毛、大理石のような白い肌、唇は薄く艶かしい。王太子とは対極の絶対的美貌の持ち主。
オーギュスト帝国からの留学生
オーギュスト帝国第三王子
デューク・ミカエル・オーギュスト
カタっ
あまりにショックで現実世界でコントローラーを落とす楓
「この男!この男はまた!
なにしてくれちゃってるの!
黒モブサイコ野郎アイリスストーカー!!!」
画面では、デュークが当たり前のようにアイリスの肩を抱き、その場から連れ出して行く。
残され王太子がなんか憐れだ。
わたしがもっと憐れだ。
王太子 アーサー・ジュエルク・フォラリス
公爵令嬢 ソフィア・ローレンス
帝国第三王子 デューク・ミカエル・オーギュスト
これら異世界でも最重要人物達です!