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旧1話

 アイリス・ユークラリス。


 それが彼女の名前。

 伯爵令嬢。


 髪はピンクブロンド

 長い睫毛に、瞳はバイオレット

 ぬけるような白い肌

 薔薇色の頬

 ぷっくらとした愛らしい唇


 眼差しは憂いをおび、微笑みは天使のよう

 徹頭徹尾、正真正銘の美少女。


 15歳。

 白薔薇学園二学年生である。



 9月から新学年がはじまり、もうすぐ五学年制の三学年生となる。

 8月の長期休暇で、今は帰省中。




 ここは白薔薇学園のある王都からは5日ほどの距離にある、ユークラリス伯爵家の本拠地。

 レデル地方の本屋敷である。


「お嬢様!お嬢様!お待ち下さい」

「おじょぉ!おじょぉ!待っちっち」


 屋敷の広い庭を走る三人の美少女。


 緑の髪、緑の瞳はリリ。16歳。

 アイリスの侍女。

 緑の侍女服。


 舌っ足らずの方。

 青い髪、青い瞳はララ。13歳。

 侍女見習い。

 こちらは青いメイド服。


 どちらもアイリス専門の付き人。

 白薔薇学園にも同行し、寮で共に暮らす。


 追いかけられるのはもちろんアイリス。

 フリル増し増しのピンクのドレスをたなびかせ、青々とした芝生を疾駆する


「あはははは うふふふふ」


 まさにお嬢様然とした笑い声


「わたしを捕まえてごらん!捕まえたら、御褒美に焼き菓子をあげるわ」


 振り返り、美少女な侍女とメイドに挑発的な笑みを浮かべる


「ずいぶんお転婆だな。はしたないではないか」

「よいではありませんか?(わたくし)もあんなでしたわよ。

 思いだすわ。あなた、そんな私に首ったけでしたわね。

 逃げる私を

其方(そなた)のくちびるを貰うぞ』

 なんて血相替えて追いかけて来たのは、何処のどなたかしら」


 日傘を差し口元を扇で隠すのはシェレイラ。

 ユークラリス伯爵婦人

 ピンクブロンドの髪に、バイオレットの瞳。

 アイリスに生き写し。


 そんな淑女の肩を抱くのは、ロベルト。

 ユークラリス伯爵。

 グレイの髪に、瞳はアンバー。

 若い頃は社交界て浮き名を流した、美丈夫。


 ユークラリス伯爵夫妻。

 社交界きっての美男美女カップル。

 二人が寄り添えば、まさに一枚の絵のようだ。


「父様ぁ~!母様ぁ~!アランぅ~!」


 手を振る美少女


「姉様、手を振ってる場合じゃないよ!階段が!」


 叫ぶのはアラン。14歳。アイリスの弟。

 グレイの髪に、アンバーの瞳。

 まだあどけなさの残る顔立ちながら、そこはかとない色気がある。

 こちらはロベルトによく似ている。

 だが実の姉弟ではない。

 他家を継いだロベルトの弟エドガー子爵の次男。

 優秀の誉高く、ユークラリス伯爵家の跡取りとして養子に入った。

 誕生日は明日8月8日15歳となる。アイリスよりたった1日遅く生まれたため、弟に甘んじている。

 姉は今日が誕生日だ。

 背がアイリスよりも10㎝程高く、落ち着いた雰囲気もあり、どちらかというと兄と紹介された方がしっくりくる。

 二人の仲は良好で、学園でも行動を共にすることが多い。


「大丈夫ですわ!慣れてますもの」


 眼前に十数段程の下りの短い階段。

 アイリスは両手でスカートの裾を掴み臨戦体制になる。


 いつものように駆け抜けるつもりだ。


 そこへ(てのひら)ほどもある青い蝶が目の前をふわふわと横切った。


『わぁ綺麗』


 捕まえようと両手を伸ばす。

 自由落下したスカートの裾を踏み、足がもつれる。


「……あ……」


 声になるかならないかの小さな声を発し、美少女は宙空(ちゅうくう)へダイブした。

 ピンクブロンドの髪が舞う。


 十数段をすっ飛ばして、脳天で地面を頭突きした。


 ゴンッ!!!


 嫌な音。


 天頂を地につけ、逆立ちの見事な垂直となる。


 ほわっと(めく)れるスカート。


 白目を向いた美少女は、弧を描くようにゆっくりと仰向けに倒れた。



 !!!£?Ω∀♯☆!§∋♭!*∴&※∽†!!!



 言葉にならない叫びや悲鳴が交錯する。


「アイリス!!」

「アリー!!」

「お嬢様ぁあ!!」

「おじょぉお!!」

「姉さまぁああ!!」


 アイリスに駆け抜ける。

 彼女を呼ぶ声に応じる意識はもうない、深い微睡(まどろ)みの中に潜っていった。


 リリが叫んだ


「大変です!お嬢様が!息をしておりません!!!」



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