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茜のあの日

 

女の子女の子した部屋。


ぬいぐるみやファンシーな雑貨が可愛らしく並べてある。

ベットの上。タオルケットを一枚顔まで覆って寝ている女子。

タオルケットに体のラインが浮かんでいる。

胸の膨らみがちょっといやらしい。

はみ出た髪はボサボサで爆発している


「あっついぃ~。死むるぅ~」


タオルケットの中で口がモゴモゴ動いた。

カーテン無しで窓からベットに容赦なく照りつける太陽。暑そうに身をよじる。


「う~辛抱ぅためませぇん。がばぁ」


上体を起こし腫れぼったい目をしてボーッとしているのは、野霧茜16才。むちむちの女子高生だ


 ムフフフフ


急ににやけた顔になり、頭をブンブン振る。

今朝までの出来事に脳内支配されかけ、それを振り払ったのだ。

茜にはコウ君という恋人がいる。幼なじみで家も一軒はさんで隣組。気心が知れた仲で将来はお嫁さんになると決めている。

初めて体を許した相手であり、生涯彼だけに許し続けるつもりの同い年の男子だ。

昨夜もこの部屋を窓から抜け出し、コウ君とにゃんにゃんしていたのだ。


コウ君の両親は別の所に住んでいる。仲が悪い訳ではなくて単身赴任の父親の元へ母が行ったまま帰って来ない。夏休み中は行きっぱなしだろう。

必然的にコウ君の家はコウ君一人きりになり、茜は早朝まであられもない姿で過ごしていた。

そしてまだ空が白む前にコウ君と別れて、この部屋に舞い戻ったとこ。

部屋の前のドアノブには

《朝まで勉強!今寝てる!開けるべからず》

の札を掛けてある。

で、早朝から今まで御就寝様してた


「今ぁ何時ぃだろぉ?」


枕元のスマホを手に取った。

昨日の夜のにゃんにゃんタイムを邪魔されないように、電源を切ったそのままだ。

電源を入れる。


「うっわ!もうぉこんな時間ぅ!」


12:55分。もうすぐ13時になる……当たり前だけど。

つらつらスマホの機能が回復してくる。

夜からのメールや着信が並ぶ。

そして

《涼風楓 ちょ~マブだよ》

からの着信が朝の8時からズラーっと10本位履歴を占拠している。


「えっ楓から……なんだろぅ」


すごいイヤな予感がする。

なぜか分からない。

ただすごいイヤな予感がする。

冷や汗が止まらない。

留守電が入っている。

なんだろ体が震える。

聞きたくない。


本能が拒否ってる。


でも聞かなきゃ。

震える指先で画面をおす。

スピーカーで流す。


「茜ちゃん」


声が流れてくる。

楓の声じゃない。

聞き覚えはある。


「私。楓の母です。こんなに電話してご免なさい。

茜ちゃん。いつも楓と仲良くしてくれて有り難う。

ずっとバタバタしていて、本当はもっと早く知らせたかったけど……忘れていて。

今日急に茜ちゃんのこと思い出して……楓のスマホから履歴を探して電話しました。

ご実家の電話番号知らなくて……。

その……虫の知らせっていうのでしょうか……どうしても来てほしくて……。」


 虫の知らせってなに?

 来て欲しいってなに?

 歯がガチガチなっている。

 ぜんぜん噛み合わない。

 ガチガチガチガチ。

 震えが止まらない。


「あっ。茜ちゃん。楓に乙女ゲームくれたでしょう?

しろばら……そうそう白薔薇姫!あのゲームすんごく楽しそうに遊んでいました。

私にも色々話してくれて……アラン優しいとか……涼とは全然違うとか……涼って私の息子……楓はゴリって呼んでて……弟なのにひどいでしょう?……それと……王太子嫌いとかね……ホントに楽しそうで……あの日も夜中まで……最後まで……白薔薇姫していたみたいです……」


 最後ってなに?

 最後ってなに?

 最後ってなんなの?


「ご免なさい話が逸れちゃって……。

今日。

午後1時から。

楓のお葬式があります。

場所は楓の家になります。

よろしければいらしてください。

その……。

楓も……。

茜ちゃんに会いたがっていると思います。

是非。

いらしてください。

待っています」


 ツーーー


静寂。


 お葬式?

 お葬式?

 誰の?

 お葬式お葬式お葬式お葬式お葬式……。

 誰の?

 楓?

 嘘!

 一週間前

 Mのハンバーガー屋さんでペッチャくって

『またアキバに行こう!』って約束したばかりだよ?

 三時間もしゃべくっていたよ?

 明日また会って

 アキバの打ち合わせするはずだったよ?

 なんで?

 なんで?なんで?なんで?

 お葬式?

 死んじゃったの?

 楓が!

 嘘だよ!嘘だよ!嘘だよ!




茜は寝巻き下だけ、上ノーブラTのまま部屋を飛び出した


「お父さん!お父さん!」


居間で寛ぐ父。缶ビールのタブに手を掛けて、今にも開けんとしていた。

茜はそれをひったくると床に叩きつけた!


「なっなんだ?」


あまりの勢いに怒鳴るのも忘れて呆気にとられている父。茜を見ると別の意味で固まる。


「いくら家族でも、その格好はないぞ茜。

もういい年頃の女の子な」

「お父さん!お葬式!お葬式だよ!」

「な、なに?お葬式?だ、誰の?」


説教をぶったぎられて、予想外の娘のセリフにしどろもどろとなる父


「ど、どうしよう!しんじゃった!しんじゃった!

わたし……全然知らなくて!

ずっと遊んでた!

ヘラヘラ笑って楽しんでた!

しんじゃってたのに……、

へラヘラヘラヘラ笑ってたよ……。

お父さん!

どうしよう……どうしよう……しんじゃった……

ごめんなさい。

ごめんなさい」


涙をボロボロ流して、心もボロボロそうな娘の肩をしかっとつかんで父は


「茜。しっかりするんだ。

何があった?

深呼吸して、ほらしっかり。

そうだ。それでいい。

落ち着いてゆっくり話すんだ。

焦んなくていいから。

ゆっくりとだ。

ほら話してごらん」


茜はコクコク頷いて


「楓が……。

しんじゃった……。

今日お葬式だって……。

どうしようお父さん……。

楓が……楓が……。

死んじゃったって!

……どうしよう……お父さん……」


ボロボロボロボロ涙が止まらない娘。


そしてあれ程明るかった空が黒々とし、大粒の雨が窓ガラスを打ち付けはじめた。


今日は午後から雷雨警報がでていた。



 ザーーーーー



雨音が響く



「……楓ちゃんが……。

……嘘だろ……。

茜!

お葬式は何時からだ。

お父さんが連れて行くから。

準備できるか?」


「午後1時から……」


父は時計を見る。

13:10分。

もう始まっている。


「いいか。茜。

学校の制服でいいから着替えてくるんだ。

髪は梳かした方がいいだろう。

だが急ぐなら楓ちゃんの家まで20分位掛かるから、その間に身だしなみは出来る。

父さんも喪服に着替えるから。

傘は車の中に入っているから用意しなくていい。

香典も準備するからそうだな……13:40に家をでる。

シャワー浴びれるなら、体だけでも流した方がいい。

汗がすごいぞ。

それとちゃんと顔も洗うんだ。

わかったな茜。

ほら行動!」


茜は弾かれたように居間を出て、着替えの制服をもって浴室にいった。


父さんの母さんを呼ぶ声がする。

手伝って貰うのだろう。


茜は浴室ですぐさま裸になると、髪を結い上げシャワーを浴びた。


冷たいシャワー。


冷水が流線型の体を流れていく。


「……楓……」


本当は頭からシャワーを浴びたい。


でも髪を乾かしている時間はない。



「遅くなってごめん楓……。

 今から行くから……。

 会いに行くから……」



シャワーの音と雨音が混ざり合い。




茜の嗚咽を隠した。














なんでもない日常が崩れる様を

描きたかった

親友を突然失った茜の胸中を絶望を

今回と次回で雷雨で表現してみました

とにかく楓を想いながら

再生していく茜を見守ってほしいです

あと2話あります

本編とはリンクしつつ独立してますので

ひとつの物語として続きも見ていただければ

本当に嬉しいです


そのあといよいよ学園編に

突入しますよ!



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