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楓……馬車なかの気まずい恋心……

 

『なんでアラン様とふたりきり?』


気まずい。

王都に向かう馬車の中。

この狭い車内でふたりきりは、すごくすんごく気まずい。


リリとララ、そしてアランの付き人ティークとタックは、四人別の馬車に乗り合わせている。

同じ年頃の男女四人、とても楽しそう。

それにその中にはリリの……いいなあ。


青春だね。


昨夜リリとララ3人で同じベットに寝た。

楽しかったな!

色々ガールズトーク交わして、おんなじベットで寝て、

三人抱き合って……。

中学校の修学旅行思い出しちゃった!

高校生では残念ながら行けなかったけど……。


もし誰かとお付き合いとかしていたら、二人きりでプチ旅行とかしていたかもしれないね。



 もしこの世界でアラン様と付き合っちゃったら……



チラッとアラン様を見たら思い切り目が合ったよ!



アラン様相変わらず素敵な微笑みを返してくれる。

今の自分の思考が顔から火が出るほど恥ずかしい。


 まだ見られてる

 こんな顔やだよ


長椅子の奥で向かい合っていたのを、入口の方へと腰を滑らせて移動しちゃった。

わたし、アラン様と目が合うとどうしようもなく挙動不審になるよ。



──恋なんだよねこれ──



分かってんだ


アラン様とお話しするととても楽しいし、ずっとこの時間が続くといいなぁって思っちゃう。

でもすぐ『わたしは楓じゃないアイリス』って考えるんだ。

アラン様は楓のわたしではなく、アイリスとして接しているって。

だからねすぐに、無邪気なアリスを演じるの。

アラン様がいつも見ているのはアリスだから。

分かってるんだ。



 でも辛いよ

 悲しいよ


 だってわたしが好きで好きで好きで


 恋しくて

 一緒にいると


 とてつもなく嬉しいのに


 その人がわたしを

 楓を見ていないと思うと


 絶望的に切なくなる




だから、アラン様にはいつものアリスを見て貰うの。

楓を消して、わたしを消して、アリスになりきるの。

それがアラン様の望みだから……。



 わたしなんていらない

 楓なんて誰も知らない




 ☆☆☆




 ある日の夕方

 リリの案内で屋敷を歩いて

 母様に会いに行く途中

 忘れ物をしたリリだけ戻った


 わたしは置いてけぼりをくった


 沈む夕日が綺麗で思わず見とれてた

 夕焼けは日本とあんまり

 変わらないんだなぁって思ったら

 わが家を思いだしちゃった


 このお屋敷より随分ちっぽけなお家

 でも大好きなお家

 そして家族

 父さん

 母さん

 ついでにゴリ

 犬のタロジローも

 学校の友達や親友の茜


 茜今頃どうしてんだろ?

 みんなどうしてんだろ?


 会いたいよ……

 涙が出たよ

 泣いてばかりだよ

 元気が取り柄の楓ちゃんの名が廃るよ!

 もう、廃っちゃってるね



 楓なんて誰も知らない

 わたしなんていらない



そしたら急に引っ張られて、気が付いたらアラン様に抱かれていた。


 ?????


『?どういうこと?』


思考がおっつかなくて戸惑ったけど、余りに優しい温もりに思わず身を任せた。

甘えてもいいよね。

頑張ってるわたしへの御褒美だよね。

泣いてもいいよね。

ありがとアラン。姉様を慰めたかったんだよね。

でもわたしを見てほしいよ。



アリスじゃないわたしを……



「……寂しいよ……わたし……ひとりぼっちだよ……」


『ほら、アラン。姉様をもっと慰めて……』

そう思った時、信じられない言葉を聞いた


「君は……誰?」


─なにをいってるの?


アリスよ

あなたの大好きなアイリスよ!



── そして唇を奪われた ──



あの時わたしは一瞬で夢の世界へ連れていかれた。

『このままわたしを連れ出して!』

そう願い、抱き締めた。


でもすぐガシャンと心のシャッターが落ちたよ。

ホント音がしたよ。

虹色の夢世界がまるで墨汁が滴るように真っ暗になっていった


「わたしはアイリス。あなたの姉様。

 アランが大好きな無邪気なアイリス」


わたしはそれを絞りだすのがやっとだった。

さっきのは幻聴だ。

アラン様に〈楓というわたしを知ってほしい〉という思いが、幻聴を生み出したんだ。

わたしはその場を去った。

もうアラン様の近くにいるのが切なすぎる。


─心が壊れてしまう


─ただ知ってほしい


あなたにホントのわたしを知ってほしい。

わたしの気持ちを知ってほしい。

そう願い去り際に心の中でアランに向けて言った



『わたしは楓。

あなたに恋をした、あなたの知らない女の子』



この想いはあなたに届かないと



誰よりわたしは知っている




 ☆☆☆




─はぁ~


あの夕暮れの出来事を想うと、ため息でるよ。

楓にとってはいいイベントだよね。

夢の世界に行けたよ。

ほんの一瞬だけど、いい思い出。


 

あれからアラン様は、何事も無かったように話しかけ、微笑んでくれる。

そうだよね。

姉様アイリスに向けてだよね。


アリスいつまで隠れてんだよ。

いい加減アラン様の相手してよ。

その方がアラン様も喜ぶし、アリスのふりするのもう辛いの。


この馬車の中でも同じ。


相変わらず話しかけてくるし、目が合うと微笑んでくれる。

胸がキュンとして、同時にギュッとなる。



─ふたりきりはイヤ!



寝る。

無理くり寝る



─超気まずい



寝るしかない。


わたしはうつらうつらの演技をして、話しかけられないように眠る事にした。

座席に身を委ね、目を閉じた。



いつの間にかホントに眠っていた。




 ☆☆☆




 ザー




 雨が降っている

 夢?

 夢かな?

 周りに黒い服を着ている人が沢山いる

 黒い傘


 白い服を着ている人もいっぱい

 学生?

 楓と同じ学校の夏の制服

 色とりどりの傘




 ザー




 雨が降っている

 わたしは立っている

 ここどこ

 見覚えがある

 わたしの家だ

 わが家

 懐かしい


 でも人が一杯


 わたしは立っている

 傘も差ささずに立ち尽くしている

 ブレザーの夏服

 全然濡れていない

 玄関と外への門の途中

 田舎だから結構ある

 長い長い

 石畳の上

 わたしの隣をたくさんの人が

 通りすぎでゆく


 わたしはただ

 ボーっと

 それを眺めている


 知ってる人もいる

 先生だ

 クラスの担任

 今時黒ぶちメガネの七三分け

 化石のような先生

 でも真面目で一生懸命

 わたし友達と馬鹿にしてたけど

 ホントは好きだった

 もちろん恋愛抜きね

 泣いてるよ

 先生泣いてる

 なんで泣いてるの?


 友達もいる

 クラスメイトも沢山

 色とりどりの傘が重なって

 女の子同士抱き合って泣いている

 肩が濡れちゃうよ


 ちいちゃん

 めいちゃん

 さくなちゃん

 はるかさん

 なぎさちゃん


 委員長


 はるくん

 りゅうとくん

 じんくん


 みんないる

 もっといる

 なんで泣いてるの?

 なんでみんな泣いてるの?


 ひかるちゃん

 さりなちゃん

 りささん


 まだまだいる

 クラスメイトがわたしに目もくれず

 通りすぎてゆく

 みんな泣いている

 なんでなんで泣いてるの?




 ザー




 雨が降っている

 わたしだけ

 傘も差さずに立っている

 外の門の前に白いワンボックスカーが止まった

 スライドドアから

 女の子が飛び出してきた

 違う学校の子

 髪がボサボサだよ

 傘も差さず濡れちゃうよ

 楓

 楓

 楓

 楓

 楓

 その女の子がわたしを呼んでいる

 口が動いてない

 心の声?

 楓

 楓

 楓

 楓

 楓

 悲しい響き

 胸が詰まりそう

 走ってくる

 楓!

 茜?

 茜だ!

 どうしたの茜?

 目が腫れてるよ?

 髪が爆発してるよ!

 あんなにおしゃれ好きなのに

 そんなんじゃコウくんに嫌われちゃうよ

 化粧もしてないよ?

 制服濡れてるよ

 下着が透けてみえちゃうよ

 『楓!』

 茜がわたしに両手を前倣えのように伸ばしてくる

 茜!

 わたしも手を拡げた

 茜!

 久しぶり!

 さぁ!ハグしよ!

 茜!!

 ちょっ、止まって茜!

 危ない!

 ぶつかるよ!


 茜!!!!!




 ザー




 雨が降っている

 

 わたしは手を拡げたまま


 ひとりきりで立っている








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