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聖刻の乙女

 

アイリスは目を閉じてじっとしている。

ふと目を開いてシェレイラを見た


「母様。アリスいま、ひとりだよ」

「そう………ねぇアリー。あそこにあなたの好きなお花飾ってみたのだけれど、何が見えて?」


それはシェレイラは先ほど楓のアイリスに示した、花瓶の愛らしい花々。

アリスはニコッと笑って


「赤い小さな妖精さんがいるよ。チョウチョさんみたいなキレイな羽!

アリスを見て笑ってる。あっ!こっちへ飛んで来た!」


ふたりの視線は同じ動線を辿り、やがてアリスの肩に落ち着いた。


「妖精さん。メチュリチちゃんって言うの。いま教えてくれたよ。わたしのほっぺぷにぷにつついてるよ」

「そうね、とっても可愛らしいわ!」


シェレイラは輝くばかりの笑顔をみせた


「アイリス。お帰りなさい!

さあ、母様にハグをしてちょうだい!」


ふたりはガシッと抱き合った


「もうホントに心配したわ。もうお庭を走り回るのはやめてくださるかしら?」

「うん、やめる。歩き回る」

「うふふ。まあいいでしょう。

でも、階段を飛んで落ちるのはもうよしてね……生きた心地がしませんでしたもの」


シェレイラはアイリスの目を見て続ける


「アリー教えてくれる。あなたの中には誰がいるの?」


「カエデ」

「カエデ?女の子なの?どんな子」


「カエデは女の子よ。わたしと同じ誕生日なの。ひとつ上の16歳だよ。ふたりはひとりなのに、わたしのこと、妹みたいに思っているの」

「そうお姉さんなのね……どこからきたの?」


「に……ほん?ってとこから。

凄いんだよ。お馬さんがいない馬車がいっぱい走ってるの。人もたくさんいる!それとね、大きな鳥さんに人が一杯のって空を飛ぶの!えっとね、えっとね、黒い大きな板の中で、可愛いい女の子がお歌を歌ったりしてる。そこには、動物さんもたくさんいるの。海の中でクジラさんが泳いでたり、でも、すぐ消えて、なんか絵みたいな人や動物さんも動くの!てれびって言ってた!」


「不思議な世界ね。母様にはとても信じられないわ……でも、アリーはホントの事言ってるってわかってよ。

楽しそうな所ね!」


「見たことない美味しそうな食べ物がいっぱいあるの。カエデね、こんびにってとこに良く行くんだけど、そこね、袋に入った食べ物がいっぱいあるの!上も下もみんな食べ物!ケーキやクッキーもしゅーくりーっていうのもあるの!

でも、おこづかい無くなるからあまり買えないって言ってた。

カエデね、ぷりんっていう黄色と茶色のぷりぷりが大好きなの!いつもねお風呂からあがったら、ぷりぷり毎日食べるの!寝っ転がって食べるの大好きなの!」


「そう。美味しそうね」


微笑ましく見守るシェレイラ


「ねぇ母様」


うつむき少し泣きそうなアイリス


「何かしら?アイリス」

「母様はアリスのこと、大好き?」


「もちろんよ。(わたくし)はアリーが大好きよ」

「なら、カエデも大好きになってほしい」


「ええ。そうなりたいと願っているわ」


「わたしはあなた。あなたはわたし。ふたりはひとり。アリスとカエデは同じなの。元は一つの心で、ちがう世界に生まれて、またひとつになっただけなの」

「……そうなの?」


「でもね、カエデね。ひとりぼっちって思っているの。

ちがう世界で死んじゃって、カエデの父様や母様、ゴリ様とお別れも出来なかったの。大好きなお友達とももう会えないの……だからね」


アリスは目を大きく見開き、涙した


「母様もカエデの母様になってほしいの。

アリスにギュてするようにカエデにもしてほしいの。

カエデ……壊れそう。

もし壊れたらアリスもダメになっちゃう。

ふたりはひとりだから……同じだから……」


アリスは母様に抱きつきギュとする


「カエデね。アリスと同じって判ってないの。

頭では知ってるよ。でも、アリスとカエデ、全然べつの人と思っているの。

そしてね、ひとりぼっちで寂しくて壊れそうなのに、アリスのこと守る!ってがんばってるの。

アリスの心と体をキレイなまま、絶対守るって!

それが、このイセカイにカエデが来た意味だって!

嬉しいけど、全然ちがうの。

カエデはアリスにならなくてもいいのに、アリスになろうとしてる。

アリスがアリスのままでいいなら、カエデとひとつになることないもん。

カエデはカエデらしくいてほしいの」


シェレイラはアイリスを優しく引き剥がし、その瞳をじっと見た


「その事、カエデさんには伝えられないの?」


「伝えても、伝わらないと思う。いまのカエデいっぱいいっぱいだから……ガレキのようにもろくて……不安が風船のように膨らんでいて……それでいて、自分がとてもちっぽけな存在だと思っているの。

庶民のカエデが、おとぎ話のお姫様みたいに生きられないって。だからアリスがいないとき、アリスになればいいと思っているの。

どんどん自分を消して無くしていくのが一番良いって信じている」


シェレイラは


─ふうっ


とため息


(わたくし)は……母としてはアリーがアリーのまま居てほしいのが本音よ。

カエデさんがカエデさんらしく生きたらあなたはどうなるのかしら?カエデさんが心も体も乗っ取って、アリーが消えてしまうのではなくて。

せっかく命が助かったのですもの。

アリーの心が消えてしまうなら、カエデさんが自分を失くしても仕方ないと思ってしまうわ。ひどいことを言うようだけれど……。

だって(わたくし)は、愛くるしいありのままのアリーでいてほしいのですもの」


「大丈夫だよわたしは消えない。ずっとこのまま。それが大切なの。

アリスがいるから妖精さんや天使さんも見えるから。

それに天使さんが言っていたの。

アリスはコンゴウセキだって。

誰にも傷つけられない宝石だって。

でも、アリスだけならジダイに埋もれてしまうって。

誰も変えようとせず、アリスも変わらないから。

でも、カエデがあるからその流れの中でも、光っていられるの。

コンゴウセキのアリスがいるから、ちがう世界を生きて、この異世界に来たカエデは変わり続けても自分らしく光れるのだって!

アイリスとして、世界の真ん中でしっかり立っていられるって!

それが『セイナルトヲキザムモノ』だって!」


「……それは……」


シェレイラは瞑目した。

この娘は間違いない。


あの伝承の《聖刻の乙女》に違いない。


《聖刻の聖女》ともいわれている。



 滅びや破滅の淵ではなく

 安らかなる岸辺に(いざな)う者  



《聖なる(とき)(きざ)む者》だ。



代々、その血の濃い女だけに伝えられてきた伝承。

先代の聖刻の乙女が失くなってから、100年事に生まれ、世界に変化をもたらす者《聖刻の乙女》が現れる。

ピンクブロンドの髪にバイオレットの瞳。

どの時代の聖女もそんな共通の特徴を持つ。

シェレイラも伝承の乙女と目された時もあったが、自身がそうではないとハッキリと自覚していた。

そして娘が生まれた。

伝承に曰く……


 乙女は隠れている

 人の世から隠されている

 心は幼子のままで隠されている

 2つの世界を生きるものなり

 誰もしらぬ3つの世界を知るものなり



そして彼の国へ行く。



彼の者と出会い。



彼の国へ行く。



強烈な運命に翻弄されるままに……。










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