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茜と楓

 


──ここは日本──



茜色に染まる空

とある高校の放課後の屋上。


向かい合う二人の男女。


高身長で端正な顔立ちの男子は眉を曇らせ、どことなく物憂げな表情をしていた。


一方の女子は、色白でボブカット。

ブレザーの夏服がよく似合う。

美少女にギリギリ入るライン。

黒目勝ちな瞳は真っ直ぐに相手を見つめていた


「──先輩。今、お付き合いしている方はいますか?」


胸の前で手を組み、不安そうな眼差しを注ぐ


「うん、いるよ。幼なじみなんだ。

将来の約束はしている」


 ふ~ 


女子は悲しそうに目を伏せると、一拍おいて、微笑んだ


「お呼びだてしてすみません。

どうぞ幼なじみの()と、その、幸せになってください」

「あ、うん。ありがとう。……なんだかごめんな」

「いいえ。気にしないでください」



 男子は去っていった。



女子は身を翻すと、手摺に寄りかかり、山並みに沈む太陽を見送っていた。


「田舎くさっ。くさっ。くっっさっ!……草」


この風景は嫌いではない。ただ早く大人になって都会に住みたいと、憧れに現実逃避する


『20連敗かぁ』


大台に乗ったときもさすがにへこんだけど、ダブルっちゃた


『いつまで続くんだろう?』


スマホの着信音がなる。着メロから相手がまるわかりだ


「ハロハロハロー(あっかね)ちゃんだよ!元気してたぁ」

()()()()元気してた」

「うっわ。見事更新したねぇ~。ということで、18時半いつものMで!ぷちっ。ぷーぷー」


ご丁寧に効果音まで入れてくれる。

決定事項なのはいつものことだ。

スマホの画面の『野霧(のぎり)(あかね)(激マブ)』の文字をしばらく見つめる。



 腐れ縁も悪くない。



涼風(すずかぜ)(かえで)はそう思うのだった。




 ☆☆☆




いつものMマークの店の窓際の席。


「でぇわ、でぇわ、でぇわ。かっえでちゃんのぜんとぉ~をしゅっくして、くわんぱ~い!」

「かんぱ~い」


コーラで乾杯。

無駄に明るい茜を見ると、ちょっと綻ぶ。

何の前途を祝ってくれてんのか、はなはだ疑問に思うのだが……。


茜は小顔だが各パーツが大きい。コロコロと表情が変わる。なんだかリスみたいだ。

髪は学校仕様のポニーテールをほどいたセミロング。

縛っていたゴム跡が、いい感じにクセになっている。


飲み物を一口すすると、こんどはポテトを物凄い勢いで吸い込みだした。

ポテトを一本だけ口に挟むと、唇をすぼめてシュッと吸い込み、もぐもぐする。永遠繰り返してる


「その食べ方どうにかなんないの?」

「えっ、なんないよ。こうやってペロッてするのが好き。けっこうちょっぱくていけるよ」


シュッとした唇の先に、ポテトの塩気が付くらしく、それをペロッとするのが好きらしい。

ホントどうでもいい。


「はぁ~。なんでわたしって壊滅的にモテないんだろぅ~」

「かっえでぇ。それってさぁ~。なんのじょ~だぁん?」


「え、今さっき振られたばっかじゃんよ」

「かっえでぇ、それ以上ぉ~い~っぱぁい振ってんでしょお!」


「えぇえ!だって好きくないから、しょ~がないじゃん」


実は楓は良くモテる。

ただ、告ってくる男が好みとはかけ離れているだけだ


「かっえでの好っきは、別の意味でぇ『そっちいっちゃだめじゃん』だしね」

「どういう意味よ?」


「見っるからにぃ~『もうお付き合いしてますよ』『相手がいますよ』みったいなぁのにぃ、とっつげきぃ~するでしょぉお。

いっつもさぁあ『なんでそっちいくかなぁ』って思っちゃうわけよぉ」

「だって、なんだか『頼り甲斐』とか『包容力』とかありそうな人に目がいっちゃうのよねぇ」


「えええっ、それっておっじさんでもいけるってことぉ?

しっぶぅう」

「いやいやいや、さすがにないわぁ~。

どっかにわたしを包んでくれるような、若くて素敵な王子様いらっしゃらないかしら?」


 遠い目をする楓


「ふふふ~ん、王子さまねぇ~、かっえでがねぇ~。ロッマンチックゥう」

「な、なによ!ちょっと思っただけよ。

 ……そんなのいないって分かってるわよ。いい加減もう子供じゃないしね」


「おっとめぇ~のかっえでちゃん。いっつ『大人の階段』のぼっちゃったわけぇ。きっもちよかったぁあ?」


茜の言葉に訝しげにしていたが、急に顔が赤くなって


「そっそういうのじゃなくて、わたしたちもう高校生でしょ!年齢的なこといってんの!

あんただってそうでしょう?」

「ふふふ~ん。どぉぉおかぁあしらねぇ~え」


意味深な笑み


「まっまさか。そ、その……もう行くとこまでいっちゃってる感じ?」

「わったしはねぇ、かっえでぇと違ってぇ一途なぁのさぁ。

もうコウくんとぉつっきあっって三年だよぉ。

じゅんちょ~に進んじゃってるわけよぉ。どっこまで進んじゃってるかわ~、あっえてぇ、言っわないでおくけどぉ~~。

ちっなみにぃ、はっつぅキッスゥはぁあ、一週かぁ~んでクゥリアしちゃったよぉ」


「そっそういうこと、あんまり話してくれないから。

まだ……てっきり……」

「もっしかしてぇ~。さっんねんかぁ~ん手ぇ()()()()してぇたぁ~だけってぇ、そぉー思ってたぁのぉ~?」

「……」


楓はさっと目を背ける

茜は目を見開き


「ひっくわぁ~。どんどん、どんびっくわぁ~。マジでぇ~え。うっわ。わっらえなぁあ~いぃ」

「わ、悪かったわね」


「悪くぅはぁないけぇどぉ~。

そういえばぁ、結婚式のぉ教会まぁでぇ~

『ヴァジンロードを突っ走る』

ってぇ言ってたぁもんねぇ~。

じょ~だんだと思ってたぁわぁ~~

まぁじだったんだぁ~」


「ふん」


楓は結婚式まで健全なお付き合いをして、愛を育む。


 そんなことを夢みてた。


お付き合いをしたらきっと楓を大切にしてくれそうな人を、無意識に好きになっていたのだろう。

楓に告白してくる者にそんな気概のある男がいたならば、もしかしたらお付き合いまでは発展していたかもしれない。

でも現実はチャラ男や、楓自身ではなく女やとりあえず彼女がほしいって奴らばかりだった。


楓は彼女なりにオシャレしていた。

鏡とにらめっこして、可愛い顔やちょっとすねた顔など研究したり、目線や言葉使いも工夫していた。

今のところ、使い所が見当たらないが……。

それでも、将来を共に進んで行くだろう誰かの為の努力は欠かしたくない。


でも、なまじ可愛いのが楓にとって不幸かもしれない。

凄く綺麗だったら気後れする馬鹿共も、ちょっと背伸びしたら届きそうな領域にいる楓には声をかけやすいのだろう。

告白を断ったとき

『チッ、楓ぐらいならイケっと思ったんだけどさ』

なんて本人を目の前にして言われたこともある。

だから、楓自身を、楓の魂を見て大切にしてくれる人を求めてハードルをあげてる感もある。


『どっかで妥協しなきゃダメかなぁ~』


そう思う自分がいるが


『でも、今じゃない』


確信的に妥協したくない自分もいるのだ。



「楓はホント純情乙女だね」

「えっ、急にどうしちゃったの?」


いつもの砕けた感じじゃない茜に、ちょっと戸惑う


「いつもと変わらない楓。真っ直ぐな楓。

そんな楓がかけがえもなく好きなんだ。

百合じゃないよ。人として楓が大好きなの。

だから、こんな私だけど、これからもずっと親友でいてくれる?」


何年振りだろう。もはや記憶にない茜の真剣な表情(かお)

射るような眼差しに、胸が熱くなる。


「あ、あ、あったりまえじゃない!わたしたちマブよマブ!ほらっ」


挙動不審になりながら、スマホの画面をいじくり見せる


「『野霧(のぎり)(あかね)(激マブ)』って、ありがと…嬉しい」


涙ぐむ姿にキュンとする。

いま心が凄くあたたかい。


「とぉ言うわっけぇでぇ~、あたしのぉ激マブかっえでちゃんにプレゼントぅを~しんてぇ~いしまぁす」


急変する茜についていけないながら、小さな紙袋を渡された。文庫本位の何かが入っている


「ホントはぁ~売るつもりで持ってたんだけどぉ~かっえでちゃんにピッタリだからあげまぁ~す」

「えっ、そんなの貰えないよ!せめてその分のお金払うよ!」


「なにいっちゃってくれてんのぉ~。お金受け取ったら、プレゼントじゃないじゃぁ~ん!

きっとこぉ~ゆうの好っきだから!

ありがったく、貰ってくっださいなぁ」


そこへ、茜に着信が入る。


スマホから

『待ち合わせ場所に見当たらないけど、イマドコ?』

みたいな、茜の彼氏コウくんの声がする


「コウくん待ってるから行くねぇ~。ダブルクッキングってやつぅ~。

モッてる女はぁつらいのぉってね!

あっ、余ったポッテト食べでちょ~だいなぁ」


茜はあわただしく出て行った。


「ダブルブッキングでしょ!」


今まで茜がいた空間に突っ込みを入れる。

ふと食べ掛けに目がいく。サイズLに残された三本のポテトを見て、苦笑する。


茜は気を使ってくれてたんだ。

振られた楓を慰めたくて、コウくんとのデート前にこの時間を無理に捩じ込んだのだろう。


マブ達ってありがたい


「コレってなんだろう?」


紙袋は意外と軽い。

中に入ってるのは長方形のナニカ。

振るとカタカタ音がする。

紙袋を開けて引っ張りだしてみた。


 それは一本のゲームソフトだった


 【白薔薇姫と七人の虜たち】


そんな題名のパッケージには《白薔薇姫》らしい薔薇をちりばめた純白のドレスで飾った美少女を、七人のイケメン達が囲んでいる。

男たちは学生服を着用しているので、学園ものだろうか?


「いわゆる乙女ゲームってやつ?」


こんなゲームを茜がやっていたなんて、凄く意外だ。


楓は二次元男子には興味がない。

だから、こういったゲームやアニメにはとんと縁がなかった。


「でも、せっかくだから一度位やってみよう。

感想言わなきゃならないしね」


ゲームソフトを鞄にいれ、ポテト三本を同時に口に放り込み、モグモグしながら席を立った。













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