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チョー暇なんですけど!


聖女と噂されるアイリスは皇宮に籠り三ヶ月もの間、世間から完全に消え去った。


ようやく人前に姿を現したアイリスだが、白いローブにベールで顔も隠し用意された馬車に乗り込むと、[神聖マーリア教団]の総本山のヴァチルへと向かった。


皇宮へ向かう道中は皇太子と共に人前に姿を晒して手を振っていたが、今は馬車に入ったままでカーテンも閉め切りその姿を伺うことは出来ない。


ヴァチルへの工程は三日。


相変わらず道中の街道脇には人が溢れているが、アイリスは馬車から顔を出さない。白ずくめの聖騎士団(クルセイダーズ)が鳩十字の旗を掲げ先導し聖女候補のアイリスを導く。


宿泊所となるのは、各地の教会。

巫女と呼ばれる者三名がアイリスの世話を焼く。


教会でも顔を晒さず、飲食も部屋でするので殆んど人目に触れることはない。


そして……。


大勢の民衆が見守る中、いよいよアイリスはヴァチルへ入場する。護衛聖騎士団はより壮麗にきらびやかになり、馬車の車列も各地の聖職者の要職の者を加え、聖女候補の馬車はヴァチルのと外界を隔てる門をくぐった。


車列はそのまま大通りを進み群衆で溢れ返る大広場を横切り、ヴァチルの象徴たるサンタマーリア大聖堂の前へ到着した。



大聖堂の前には神官達が大勢出迎えていた。





本来はとっくの昔に聖女候補はこのヴァチルへ来る筈だった。だが、聖女候補は体調を崩したという理由で、遅れに遅れて帝都入場から三ヶ月を経てようやくヴァチルへやって来た。


神聖マーリア教団のトップの者達は痺れを切らし何度も皇帝へ聖女候補の来訪を求めたが、なしのつぶてだった。教団内では果てることない議論をし、信者を扇動し皇室へ揺さぶりをかける案も出た。


だがその扇動がバレて聖女候補のヴァチル来訪を拒否されたら目も当てられない。

なんだかんだ言っても、聖女あっての[神聖マーリア教団]であり、聖女がこのまま来訪しなければ教団の屋台骨が揺らいだ可能性もあった。


そしてようやく来訪に漕ぎ着けたが、道中の聖女候補の動きは不可解だった。

ベールを被り顔を見せず、誰とも話さない。

教団としては皇室への道中の時のように民衆へ顔を晒し、手を振り奇跡のひとつやふたつでも起こしてくれると思って期待していた。


ところが蓋を開けてみれば、ただ馬車に乗ってるだけだった。宿泊所となった教会でも朝の祈りを拒否し、用意された晩餐会にも出席せず、食事を運ばせ与えられた部屋に籠って出て来なかった。面会を楽しみにしていた神官長や神官達も、肩透かしを食らった。

何人かの神官はそれでも聖女候補との祈りを執拗に要請したが、アイリスは


「わたしの直ぐ傍にマーリア様がおられるのに、なぜ誰もいない礼拝所で祈りを捧げるのですか?それも人々の平和でもなく、マーリア様へ民衆への奉仕を誓うのでもなく、[神聖マーリア教団]の更なる発展を祈らなければならないのですか?真摯に祈れば何処にでもマーリア様は現れて祈りを聞いてくださいます。

わたしはいつもマーリア様とお話をしておりますよ」


そう言って派手な儀式めいた礼拝はガンと拒否した。


教会へ集った民衆の前にも顔を出さなかった。

その理由は


「[神聖マーリア教団]はわたしを聖女と認めて居ないのでしょう?でも教団の信者の皆様は聖女に会いに来られたのでしょう?

教団にとって聖女でないわたしが、教団の信者の皆様に顔を出したりするのも可笑しい話だと思うのです。

それに教団の聖女になったら、教団の言うことを聞かなければいけないそうですが、わたしはまだ聖女ではないので教団の言うことは聞かなくても良い筈ですよね」


これは[聖女法]という法律の盲点を突いた論理だった。

アイリスと皇室の者達。それにデュークやレインの両殿下、日焼け野郎のクラウド、皇族に連なるビオレッタ公女初め二大大公家と五大公爵家の主だった方々にお集まり頂いて徹底的な[神聖マーリア教団]対策を取ったのだ。

その協議に三ヶ月近い時間を費やしたのだ。


その間皇室は、貴族達へ根回しして教団に招かれてもヴァチルへは赴かないように徹底させた。もちろん教団側と繋がっている貴族達からはその情報は漏れたが、それでも貴族が帝国の要請を裏切ってヴァチルへ行けばそれだけで皇室の心証は悪化するので、動くに動けないでいた。

帝国は踏み絵をしているのだ。


帝国へ付くか、教団側へ味方するのかの……


そしてアイリスの行動は教団にとって都合の悪いものであり、アイリスは皇室の味方であり教団には従わないと態度で示していた。


そして帝国内にある噂が急速に広まった


【神聖マーリア教団は聖女を閉じ込めて自由を奪うつもりである。証拠に運命の皇子と帝都へ向かう道中はあれほど華やかに民衆へも姿を晒して笑顔で接していたのに、ヴァチルへ向かう道中は囚人のように閉じ込められて民衆とのふれあいも拒否されて、聖騎士団に馬車の前後を取り囲まれて自由を奪われた】


そんな噂。

これはアイリスがヴァチルに着いたと同時に、皇室側は人海戦術で撒いた噂。あっという間に帝国中へ広まった。


聖女に会えるのを楽しみに集った民衆も、実際重々しい聖騎士団に挟まれた聖女候補の乗る馬車を見ている。

そして馬車の窓にはカーテンがひかれ、聖女候補は一度も顔を出さなかった。


本当は教団側も奇跡や顔出しを望んでいたのにも関わらず、民衆はその帝国が流した噂を信じた。


さらにこんな噂も流された


【宿泊先の教会でも自由を奪われ、部屋に軟禁され、民衆の為ではなく教団の言うことを聞く操り人形になれと強要されているらしい】


もちろん教団は部屋に軟禁してないし、アイリスが自発的に閉じ籠っていただけだが、民衆は完全に噂を信じた。


そして帝都への道中では病気や怪我が治った人々が大勢いたし、不治の病が完治した奇跡も起きた。反対にヴァチルへの道中では病気が治る人が殆んどいなかった。


これも


【女神マーリア様は帝国と皇室へ聖女を遣わしたのに、教団がそれを我が物にしようとしているので神聖力が発揮出来なくなった。

それは天意に逆らう行為だから……】


後からその噂を知った教団側は必死に誤解を解こうと動き回ったが、噂が広まったのがアイリスがヴァチルに到着した後だったから、修正のしようもなかった。



前哨戦は帝国側の圧倒的勝利で幕を開けた。





まだヴァチルへ到着する前の一時(ひととき)……アイリスが宿泊所となった教会の部屋に閉じ籠っている時の出来事……


「暇暇暇暇暇暇暇暇!チョー暇なんですけどー!

マーリアさんどうにかしてよ!」

『こうして話相手になってるじゃない?』


「ねぇ。スマホとか元の世界から持って来れないの?」

『無理ね。諦めなさい』


「せめて暖かい食事が食べたいな!皇宮では至れり尽くせりで贅沢しちゃったからな~。エステとか毎日して貰っていたからね。あ~あ。あの頃に戻りたい……」

『その為に今頑張っているのでしょう?

それよりもいい加減デュークとキス位したらどうなの?』


「女神様がそれ言っちゃう?

ちょっとね。嫌われてはいないと思うけど、皇宮ではずっと距離を置かれていた気がするな~。

何でかな……マーリア教えて!」


アイリスはベッドで隣に座るマーリアへ声を掛けた。

マーリアは


『わたしが邪魔しちゃ悪いわ。

それが恋の醍醐味でしょう?』


そういうと、アイリスを見て


うふふ


楽しそうに笑った。






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