聖女教
皇城のある首都までは港から馬車で五日くらいだけど、今回の旅は聖女の御披露目と有力貴族とのご縁を繋ぐ意味合いもあるので、八日間も掛かるみたい。
それに馬車で移動する時間も短くて、例えば朝10時に出発するでしょう?するとお昼位に誰かの御屋敷に着くの。
直ぐに聖女を迎えて近隣から貴族を集めた食事パーティーが開かれるわ。そこでわたしは休む間もなく笑顔と媚を売って、2時間位でようやく解放されて本当の休憩。
ちょいと昼寝して準備して15時頃出発!
途中小休止挟んで、18時目安にまた領主や貴族の屋敷に到着!直ぐ晩餐会も兼ねたパーティーが始まるの!
21時頃に解放されて御風呂に入って寝て起きて、朝食頂いて準備して10時に出発!
これの繰り返し!
移動中は街道に途切れることなく人々の群れ!
聖女のわたしを歓迎して白百合の造化をフリフリしてくれるので、わたしも負けじと笑顔を振り撒き手をフリフリ!
そして病気で治る見込みや治せる当てもない方に、神聖力を飛ばしてある期間内に治るように治療!
だから思ったよりも遥かに重労働なのよ!
手の振りすぎて腱鞘炎になるかと思ったわ!
デュークとアランの両殿下も手をフリフリしていたから、大変そうね。人々も日に日に多くなるのよ!
そうそう。医者から見放された病気が治ったとか、失明していた子供が目が見えるようになったとか、そんな事実を元にした噂が広がったらしくて、もう凄い事になっているのよ!
そうそう!聖女水も健在で、お昼までバスタブにお湯を張られて待ち構えられてるの。
流石にお昼はまったりする時間がないから、ほとんど浸かるだけだけど、この残り湯が再利用されるのに心の中は何時もカオス状態になっているわ!
もちろん夜はゆっくり御風呂を楽しむけど、バスタブの大きさがヤタラデカくなっているの!そして喜びに満ちた御屋敷の使用人の皆様が、体を集団で洗ってくれるのは相変わらず!
「あやかりたい」ですって!
まるでわたしは御神体状態!
もう!何が何だか……。ずっとひっちゃかめっちゃかなのですよ!
それと初めは気付かずスルーしていたけど、食事や宿泊で各領主や貴族のお家に着くじゃない?
そうすると、そこの家族や集まった一族。そして使用人とかみんな同じような感じなの。
民族的にね。
フォラリス王国の場合は白薔薇学園に通う生徒は殆んどヨーロピアンな感じで、白人みたいな方々が殆んどなのよ。
でもね。ここの領主様とか、てんでバラバラなの。
地球でいえば、白人の方はもちろん。中東の褐色の肌の方々やアフリカ系の黒い肌の人々もいるの。
それが領地毎に固まっているというか、地域によって同じような民族の方々がいるの。例えばアドラーやラーシェさんのサーラント伯爵家の領主一族も家臣も使用人も殆んどみんな褐色の肌の人達なの。
五日目の今日泊まっているある侯爵家の皆様は、わたしの元いた日本のような黄色人種?というのかしら。そういうアジア的な方々が揃っているの。
この事をデュークに聞いてみたらね
「フォラリス王国は厳密には違うけど、同じような見た目の民族が集まっているよね。
けれどこの帝国では元砂漠地帯に住んでいた褐色の肌の民族や、灼熱の地に居住していた黒い肌の者。ほかにも黄色っぽい肌やそれこそフォラリス王国の民のように白い肌の者達もいる。
それは帝国が大きくなっていく過程で多くの民族や種族を取り込み、爵位や領地を与え帝国民としてきたからだ。
各地に肌の色が違う民族が分散しているのは、帝国の方針で反乱防止と各民族の融和の為にバラバラに配置したからね」
初めは先祖伝来の土地を追われ反乱や抵抗もあったと聞くけど、今は落ち着いてそれぞれ新しい土地に一族や仲間を呼び寄せ安住の地としているみたい。
だから例えばサーラント伯爵はサーラントという一族の盟主らしく、その土地には自然とサーラント伯爵と同族の者達が集まったというの。
もちろん元々ここにいた人々とも混じりあって、純血を保つ人々は稀らしいけどね。
だからもし反乱なんか起こして鎮圧したとしても、その爵位を取り上げて滅ぼすのではなくて、同じ一族で帝国との融和や協調を目指す穏健派の者と入れ替えるみたいなの。頭をすげ替えるのね。
もし潰したら一族や同族の行き場所が無くなっちゃうから、その民族の血脈や誇りを保つ方向で調整するらしいの。
その方が後々大規模な反乱に繋がらないらしいわ。
抑圧はしなくて、帝国の一員として一定の義務さえこなして貰えば、宗教の自由もあるらしいの。
その多くの民族や種族の集合体である帝国を統治するのが皇帝で、精神的に結び付けているのが定期的に現れ繁栄をもたらす聖女って訳。
その聖女様が終始一貫、皇室と結び付くから帝国が纏まって行けるというのね。
それぞれの民族はそれぞれの神を信仰しているけど、その神々の中で共通するのが女神マーリア様。
聖女は女神マーリアの化身と謳われ、わたしも公言しているから、その奇跡を目の当たりにして違う神を信仰していた民族も、改めてその信仰する神々の一柱に女神マーリアを加えた所もほとんどなのね。
それで共通するマーリア様を信奉するマーリア教がひろまっちゃったのね。
マーリア教は別名[聖女教]とも呼ばれ、聖女と切っても切れない間柄とされているけど、そもそもわたし聖女だけど聖女教と関わりないんだけど!
というよりも、マーリア様に言われたの
『教義なんて人間の都合に合わせて勝手に拵えたものだから、聖女の貴方が縛られる必要は一切ないわ。
わたしマーリアが信託で巫女に言葉を降ろして教義を作ったなんて公言しているけど、そんなの嘘っぱち!
わたし人をがんじがらめに縛る教義なんて作らないわ!
だからこれから聖女教とやらのお偉いさんにとやかく言われたり、従えと強制されたりするかもしれないけど、無視していいからね!
この女神マーリア様が保証するわ!』
突然こんな事をマーリア様が言い出したと言うことは、わたしに警告をしてくれていると思うのよ
『気を付けなさい!』ってね!
案の定六日目の朝!
マーリア教(聖女教)の大聖堂から、枢機卿とかいう偉いお人がわたしを迎えに来たのよ!
ちょと説明回みたいになっちった




