カルマ
わたしはおじさんに聖女水……本名[風呂の残り湯]を飲まれたので意気消沈していると、双子のラッチェが一人フラフラしているわたしの元へ寄ってきた
「聖女様。お探し致しました。
いくらピンクの御髪の美しく御綺麗で目立つお方で直ぐに見つかるといっても、一人でウロウロされたら困ります。是非わたくし等と護衛騎士のナーシェさんを伴ってください」
はい。尤もです。ごめんなさい
「皆様。朝食を共になさりたいと聖女様をお待ちでございます。御案内いたしますので、急ぎ参りましょう」
わたしは案内されて食堂に着いた。
そして使用人によって開け放たれたドアから中を見て愕然として、その場に思わずへたり込んでしまった。
何故なら……。
デュークとレインの両殿下。更にはサーラント伯爵とそのご子息でナーシェの兄のアドラー様、おまけに日焼け野郎のクラウド様が、腰に手を当てて聖女水を飲んでいたから……。
わたしの風呂の残り湯を顔見知りの者に飲まれただけで、これ程ダメージがデカいとは思ってもいなかった。
慌てて駆け寄るデューク殿下
「聖女様!何かご気分が悪いのか?」
──いや。気分というよりも気持ちが悪い
けどここでバラせば恥の上塗りだから
「大丈夫です。少し目眩がしただけです。
昨日の疲れが残っていたのだと思います」
「それなら良いが……。
そうだ!この聖女様が作られた聖女水を飲んだらどうだろう?私も飲んだ途端に眠気も気だるさも体調も元に戻ったら。いや、とても元気になった!
何本か貰ったから、一本飲んでみたら?」
なんて青いポーションのビンを渡されたけど
──飲めるか!
誰が好き好んで自分の入った御風呂の残り湯を飲むというのだ!あのバスタブの中で隅々まで洗われたのだよ!
無理ですわ!
「いえ。お気持ちだけ頂いて置きます。
それに……聖女水という代物はわたしには効き目がないのです」
嘘も方便。こう言えばもう勧められる事もないだろうからね!
「そうか……。
大丈夫か?寝ていた方が良いのではないか?
今日は大事をとって休んだ方が良いのではないか?」
「心配なさらないでください。
本当に大丈夫ですから……。
それに……わたしを一目見たくて街道に続々と人が集まって来ていると聞きました。
この御屋敷の周りにも沢山の人々が集まっていて、今か今かとわたしとの出会いを楽しみにしていると、メイドの噂話で耳にしました。
だからその方々の為にも、時間通りに出立したいのです。余りお待たせするのも何ですから……」
アイリス単体でもそれなりに目を引くけど、そこに聖女というワードが乗っかるだけでこんなにも、多くの人々に愛されるとは思わなかった。
わたしも聖女になると決めたからには、そんな事も受け入れてこの帝国で生きていかないとね!
という事で!聖女水阻止はきっぱり諦めて朝食を頂き、準備も終えて出立!
束の間の家族の再会を果たしたアドラーとナーシェの兄妹ももちろん同行。騎馬で格好良さげに護衛しとる。
わたしはあの白い馬車に両殿下と乗り込んで出発したのよ。
まあ。想像していたけど、想像以上の歓迎ですわ!
何かね。
わたしが調子に乗って奇跡のイリュージョンを演出したでしょう?それがあっという間に広まって『本物の聖女で間違いない』なんて噂がされて、日より見していた人達も集まったらしいの。
街道の両脇が途切れる事なく人々が手を振っている。
何処から仕入れたのか、白い百合の花を持っているのです。百合は聖女のシンボルらしくて、多分季節的に造花で間違いないと思うんだけど、其をフリフリしている者も多数いるのですよ。
わたしを見て泣いてる人もいるし、大声で聖なる言葉らしき文言を唱えている人もいるの。そして今日もくすんだ焦げたようなオーラを持つ人には
『病気や心の病が治りますように』
そんな願いを込めて神聖力を飛ばしているのです。
今日はちょっと変化球!
昨日は『三日目に治ってね』なんて祈りを込めたけど、それだと聖女の力だとバレバレで聖女頼りになってしまうから、今回は
『これから十日の内に良くなってね。お医者様に治して貰える裕福な方は除外して!』
つまり今日より十日以内に病気とか怪我も含めて治して欲しいと……。それと医者に見て貰う余裕のある家の人は、お医者様の仕事を奪ってしまうから今回は対象外にしたのよ。
この世界の医療費が馬鹿高いし、保険制度も無いから庶民には病気=命の危険的なところがあるから、医者に掛かれない経済事情の方のみ大盤振る舞いで治すと云うわけね。
本来病気には体や家族の大切さや、人と人が助け合う有り難さを知ったりとか、色々それぞれ個人的な意味合いもある場合も有るみたい。でも聖女は特別みたいね。
それらも含めて治せる者は治す方針で良いみたい。
女神マーリア様曰く
『人には魂があって幾度も生まれ変わりを繰り返すの。
その人生で人の基準で善行や悪行を行うけど、それらは何らかの形でその魂に行いが帰ってくるのね。
それはカルマともいうけれど、カルマは信賞必罰というのではなくて、あくまで魂を磨いて元は神様と同じ光を持つ貴重で尊い存在であると再確認するシステムみたいなものね。
聖女は多くの人々を物理的にも精神的にも癒して導く存在として生まれて来ているから、あなたの存在に出会い癒される事もカルマの内なの。
だから貴方は難しい事は一切考えないで、貴方のしたいようにしなさい』
だって!
というか!
今の教え自体。難しすぎてサッパリ理解できないんですけどね!




