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奇跡


「なっ……何だあれは……」


聖女を一目見ようと港に集まった群衆達は、聖女達が乗り込んだ馬車が一向に動かない為に痺れを切らしかけていた。


20分何の進展もなく、ザワザワと人々がザワつき出したころ、キラキラと空が輝き出したのだ。


それは慈雨の雨。


粒が見えないほどの霧雨。


そして空に幾つもの虹が出現した。


丸い虹。二重、三重の虹。

数え切れない程の無数の虹!

人々の目の前にも小さな虹が現れた


「奇跡だ……」


人々はその不思議さと美しさに心奪われた。


更にそれだけでは無かった。

しばらくして、空に異変が起こった


「て……天使だ!」


空に天使が現れたのだ。

それも複数体の天使が優雅に空を舞っている。


その天使が発生した中心には、もちろん聖女の乗る馬車があった。




☆☆☆




もちろん奇跡はわたしが起こしたの。

というより女神マーリア様の提案を、最上位の上位精霊でアイリスを守護する大精霊達に頼んで丸投げしたというのが正解よね。


呼び掛けに応じた水の大精霊アリアと光の大精霊アマテルが虹を出現させてくれた。

いつくも虹が出現するようにお願いしただけで、何故複数虹を作れたのかわたしには分からないわ。


その虹にも群衆が飽きた頃を見計らって、天使を出現させた。

というよりもこれも大精霊達に


『天使を空にいっぱい出して!

偽物でいいから!』


ってお願いしたのさ。

すると光の大精霊アマテルが頷くと、馬車をすり抜けて空へ昇っていった。


でね。


自分の姿に羽根を生やした天使を、他の大精霊の力も借りて肉眼で見えるようにしたみたい。


それも複数体ね!



──どうやって天使を作ったかって?



そんな理屈!多分聞いても理解できないわ!

わたしはね!

だから難しいことは考えないことにしているの。


この異世界を生き抜く為の処世訓ね。


ただ人々の目には実際そこに天使が現れたとしか、思わないでしょうね


手前の天使は等身大より大きく、奥にいく程天使は更に小さくしたようで、

奥行きがあって臨場感がある!


わたしはね。馬車があるけど、空を実際飛んでいる天使のイメージが頭に浮かぶの。


きっと大精霊が見せてくれていると思うわ。


わたしは両殿下に手を握ってもらった。

片手づつね。

そしたらイメージ動画を共有出来るみたいで……


「「天使が飛んでいる!奇跡だ!!」」


なんて驚いてくれたけど、奇跡というよりイリュージョンね。


誤魔化しだけど、みんなが喜んでくれたから嬉しいわ!


そうこうするうちに六頭立てで、屋根がオープンタイプの馬車が現れた!


──いや!ちょいと!これ!派手すぎでしょう!


座席に赤い布が掛けてあるのは、まあ分かる。

でもさ。

馬車の表面を覆う白い花々は何?


白馬に白い花で埋め尽くされた馬車!


──これに乗れと?


言い出しっぺが言うのもなんだけど、恥ずかしい。

でもみんな聖女をお待ちかねだから、乗りますよ。


わたしはデュークのエスコートで馬車に乗り込む。

新しい馬車の座席は二段に成っていて、前方の低い座席には両殿下が乗り込み、一段高い目立つ座席にはもちろん聖女様のわたし!


虹も天使も消え失せ、今わたしはみんなの注目を浴びているのです!


花は近くで見ると全部造花だった。

馭者も白い服装しているけど、こちらをチラッて見てニヤリと笑う黒い顔!片耳には五個の金のイヤリング!


クラウド・カーマイン!


デュークもレイン殿下も存在に気付いて、ヤツの背中を小突いている。


そして馬車は出発した。





道中。

道には途切れること無く人だかりが出来ていた。

もちろんわたし!聖女を目当てに来た人々!


長い道中には兵士の守りもない所もあるけど、誰も矢なんて飛ばして来なかった。


いや。この熱狂的に聖女を迎える状況で暗殺を試みるのは勇気がいる。もし依頼主がバレたらこの群衆に襲われて滅亡する未来しか見えない!


わたしは笑顔を振り撒いて手をひたすら振っておる。

右を見て、左を見て、一方に偏らないように注意してこのピンク女の美しい顔を拝ませている


──みんなホントに拝んでおるのよ!


わたしの姿を見て突然泣き出したり、地面に伏せて祈り出したり見ようによってはカオスを作り出しているのですよ!


で、わたしはこの道中、密かに奇跡を起こしたの。


人々のオーラが見えるから、くすんで辛そうに見える影のようなオーラを見つけては神聖力を飛ばしていた。

彼らに共通するのは病気持ちってこと。


でもいきなり治っちゃ騒がれるから、3日後に完治するように調整したわ!


──調整ってどうやるかって?


そんなの決まっている


『みんな三日後に治ってね』


そう念じるだけ。

治癒能力にも特化している女神マーリアの十八番(オハコ)に頼りきって、わたしは難しい理屈は丸投げしてるの。


マーリア様。わたしのいい加減な言葉を聞いて嬉しそうに笑っていたわ


『ヤッパリほどほど馬鹿じゃないと、聖女なんて務まらないわよね!』


きっと褒め言葉ではないと思う。

頭がいい人はついつい理屈で考えてしまうので、わたしぐらいのいい加減さが丁度いいらしいわ。

今際の際のここぞって時に、いちいち質量とか風力とか計算していたら、間に合わないかもしれないでしょう?

人を治すのにも人体構造やら、人体を構成する成分やら考えていたら時間も掛かるしね。

でもさ


──アリスは制御不能らしいけどね


ただ本能的な危機察知能力は優れているから、優柔不断な流されやすいわたしには必要なピースらしいわ


──つうか……ホントわたしに冷たい……


女神様。わたしを褒めていないよね、絶対!




☆☆☆




聖女御一行様は帝国民の熱烈歓迎を受けて、今日の宿泊場所のサーラント伯爵邸に着いた


「ようこそおいでくださいました聖女様!」


出迎えてくれたサーラント伯爵は褐色の肌の素敵なおじさん。

でも初めて会った筈だけど、どっかで見たことあるような親近感がある


──何処だっけかな?


なんてわたしへの美辞麗句を聞き流して物思いに耽っていると、疑問は直ぐに解消した


「アドラーもナーシェもお役目御苦労!

これからも命を賭して殿下を支えるのだぞ」


──あっ!そういうことね!


デュークの護衛アドラーとわたしの護衛もしているナーシェ兄妹のお父様ね!

道理で見たような気がしたわけだ!


二人が美男美女なのは、家系もあるのね。


アドラー様もナーシェさんも、何処と無くホッとしているわ。我が家は格別だからね。



元の世界のわたしの家族にも、会いたくなっちゃった。






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