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野霧茜【下】


妖精が飛び回り、その中に世にも美しい大人の姿をした半透明の6体の精霊が彼女を守護するように宙に漂い取り囲んでいる


『あれはね。じょうい精霊なの。ひかり。やみ。みず。つち。かぜ。ひ。の6大精霊王が聖女アイリスを守るのに付けた分身なの』


アリスの声が頭にダイレクトに聞こえる。

目の前のアイリスが手を胸の前で組んで、祈りのポーズをした


「もしかして……茜?」

『やっ!やっぱりぃ~楓なのぉ?』


目の前の超絶美少女がアイリスこと楓に間違いない


「どうしてここに?」

『分ぁっからない。でもこれってぇ~。夢だとぉ思うんだぁ!』


『ゆめじゃないよ!わたしが連れて来た!』


アリスが得意気に胸を張る。

アイリスは船の甲板の上。

アリスと茜は海の上空に浮かんでいる。

肉体はなく半透明の精神体だ


『茜ちんがずっと会いたがっていたから、連れて来たんだよ!今日はアッチの世界とのゲートが大きく開いて行き来しやすい、特別な日なの!』


アリスはさらに得意気に『フフフーン』と鼻を鳴らす。

音は聞こえないけど、擬音が頭に響く。

アイリスは口から言葉を話しているけれど、茜もアリスも思った事が相手に伝わるみたい。

アイリスがアリスに


「すごいね!初めて知ったよ!ところでゲートってなに?」


なんて聞いてる。

アリスは


『どこでもドア!みたいなもん!』


それで楓も納得していた。

それにしてもアイリスの姿はキラキラと美しい。

乙女ゲームの一枚絵よりも遥かに綺麗で見惚れてしまう。

以前葬式の日に見せてもらった姿よりも、数段女振りが上がったようだ



『ほぇ~。楓ぇ。ヒロイン振りが板に付きましたのぉ!』

「いやいや!ぜんぜんっすよ!マジで!

ヒュークライ君にはさ

『君は黙って立ち尽くしている姿が一番美しいと認めるが、動き出すとボロがでる。

君は口を利かない方が良い』

なんて言われる始末ですよ

『馬鹿が移るから寄るな!』

ってひどくないですか?」


『おっ?冷血宰相は伊達じゃないでぇすなぁ!

その美貌に靡かぬとはぁ!なんとぉ無礼なぁ』


「うふっ!うふふふふふふふ!」


アイリスは突然笑い出した


「やっぱり!茜ちゃんと話すと楽しいや!

なんか涙出てきちゃった……」


『楓……』


茜は声にならない言葉を放ち、楓なアイリスを抱き締めた。けれど精神体だからアイリスの体を突き抜けてしまう。だから形だけでも抱き締めている風にした


『どぅなのぉ~楓ぇ。異世界上手く生きてるぅ?』

「ぼちぼちかなぁ~・・・ではないか……。

茜。わたしね断罪されて集団リンチにあったんだよ!

ヒロインなのにおかしくない?」


『すんごーく。おかしい。で!大丈夫ぅだったのぉ?』

「どうにか助けられまして……何とか命は繋いでおりますよ」


茜と楓が会話を始めると、割かし深刻な事でもポンポンと口に出すことが出来る。誰にも話せない辛い想いも悲痛に落ち込まずに、茜の明るい波動で流せてしまう。

楓はこの異世界で起きた様々な出来事や想いを、前後の脈略もなく話した。


茜は楓の話をウンウンて聞いてくれた。

楓はこの世界で日本の事を話せる相手がいない。

アランとは二人きりに成れなかったので、留学してからは茜と楓が生きた世界の事は誰とも話せていない。

だから堰を切ったように、止めどなく言葉が……想いが溢れてくる。

楓はアイリスの姿のまま、泣きじゃくった。

そして……


「ごめんなさい茜。せっかく会いに来てくれたのに、自分のことばっかりで……」

『ううん。いいんですよぉ。茜はぁ。楓の親友ですからぁ~!この豊満なのに(精神体で)スカスカの胸をいくらでもお貸しますよぉ~。

それにしても楓ちゃんもぉ。ずいぶんとぉお育ちになりましたのぉ~』


茜はジロリとアイリスの豊かな胸を見る


「ちょっ!あんまり見ないでよ!借り物感が半端ないんですから!」


アイリスが両腕で胸を隠す。

茜はニヤリと笑い


『ところでぇ。攻略対象者のお話ぉを詳しくぅ!

話しやがれぇ~』

「えっ!まあ。さっきもチロチロお話したけど、改めてまとめてみるね」


そう言うと楓は茜に乙女ゲームの攻略対象者達のアレコレを話した。

先ずはアーサー王太子殿下!

楓曰く

「ビジュアルそのままクリスタルなキラキラ王子アーサー。女滴しは間違いないけど、意外と真面目で誠実」

らしい。

テーブルマナーやダンス。それに勉強も教えてくれたみたい。その間1度も誘われたり色目を使って来なかったという。初めのキス以外は!


次いでフォークライ公子。

とにかく真面目で秀才。アイリスとは犬猿の仲。

ただアリスには保護欲が沸くらしく、餌付けされたり可愛がって貰ったらしい。


そんでレシェルド候子。

ゲームそのまま。女滴しのクズ。

王太子命でダンスの講師にならなければ、関わらなかった!


ジェイド見習い騎士。

乙女ゲームではちょっとおちゃらけた癒し系男子だったが、どう間違ったのか融通の利かない堅物になった。

ただ恋人loveなので気を許して色々話せた。


それと未登場の攻略者が1人いるけど、多分もう会えないと思っていた。白薔薇学園でも見かけなかったという。



そしてアラン…………。



「茜。わたしね。アランと恋したんだ。

人生初めての彼で、両想いだったの。

学園を卒業したら当たり前のように結婚するって信じてた。ううん。『夢見てた』っていうのが正しいかな?

でもね。彼が留学したの。

たった3ヶ月の留学。

でもそれで全てが変わってしまった。

わたしに新しいパートナーが出来て、アランにもその国の凄く可愛くて素敵なお姫様の婚約者が出来たの。

そのお姫様ね。

アランが好きになっちゃって……恋煩いになって……そして食事も出来ないくらい寝込んじゃったの。

それでお姫様の家族が、お姫様の秘めた恋心を叶えてあげたの。

わたしね。そんな……わたしと同じような思いをしたお姫様を憎んだり出来ないよ……。

でも……心からお祝いなんて言えない……。

わたし……。

自分もアランに黙って別の男とパートナーになったのに……アランのこと責められないのに……

まだ出会った頃からやれ直せないかな?

なんて時々思うんだ……

わたし……すごい嫌な女だと思う」


楓は涙を拭って茜を見た


「こんなわたしが聖女なんて笑っちゃうよね。

わたし。世界平和も。人助けも。

ホントはどうでもいいの!

いきなり聖女だって言われたって……だから何?って感じなの!

もし運命の【聖女】じゃなかったら、アランと添い遂げる未来もあったのかな?って未だ考えてるの。

わたしのパートナーのデュークはとても優しくしてくれる。わたしの事を一番だって言ってくれる。

未來の皇帝なのに全然偉ぶらないし、わたしだけを愛するって誓ってくれた。

なのにわたしはこんなだよ……自分で自分が嫌になる」


『楓ぇ。相変わらず贅沢な悩みしてますなぁ。

未來の皇帝なんて、そうそう会えるものでも有るまいし。そんな男にぃ愛を誓って貰うなんてぇいい塩梅じゃないですか?

アラン様のことはぁ。変にぃ蓋をしなくてもいいと思うよぉ。どうせ帝国とぉやらに行くんでしょう?

アラン様とはぁ道端でぇバッタリ会うことないからぁ。

暗黒大魔王がいない時を見計らってぇ、思い切りアランとのぉ思い出に浸っているとぉいいとぉ我はぁ思うぞ!』


「誰よ!暗黒大魔王って!

まあ。言いたいことは分かるけど……」


楓はクスッと笑った


「茜。ありがとう。

少し……ううん。とっても楽になった。

アランのことはもう諦めてるよ。

元サヤに収めるつもりも全くないし。

わたしもね。その暗黒大魔王に情も沸いちゃったから、今さら何もかも御破算にして、彼と別れるつもりもないよ。

ただね。『アランへの想いもある』って聞いて欲しかっただけだと思う。

誰かに話したかったんだ。

でもそんな事話せる相手が誰も居なかった。

元々わたしは日本生まれの日本育ち。生粋の日本人だからね。こんなパツキンばかりのファンタシーの世界で、どこか現実感がなかったのだと思うの。

でも今。茜に会えて。話を聞いて貰えて。

こんな半透明な茜なのに、反って現実感が沸いてきたの。

茜わたしね。つべこべ言いながらこの世界で生きて行くよ。愚痴も言うし。文句も垂れるし。時々聖女もボイコットして逃げ出してやろうかと思うわ!

肩肘張らずに生きてみますよ」


『さっすがぁ~!それでこそ楓ちゃんだよぉ!

良い顔してますぜぇ旦那ぁ!

ということで、ここからはわたしのターンだねぇ』


ここで茜は急に真面目な顔を向けた


『楓。わたしね。お母さんになるの。

お腹に赤ちゃんいるのよ。

もう4ヶ月になるわ』


「えっ?えーーーー!うっそ!マジでぇええ!

じゃあ!その!晃くんとはキスだけじゃなくて、ナニもしていたってこと?

えーーーー抜け駆け激しすぎて置いてけぼりだよ!」

『実を申せば。

楓が死んだことにも気付かず彼と楽しんでおりました。

御本人を前にして謝罪致します。

ずっと謝りたかった……』


「いいよいいよそんなの!

だってわたし死んだけどこうして別人になって息してるし、茜だってわたしが死んだと分かれば晃くんとナニしてても突き飛ばして駆けつけてくれたでしょう?

其れくらい分かるよ。わたしと茜の仲じゃない!

それに……今の顔見たら、その事で凄く悩んで苦しんでいたって丸分かり。

だって精神体なのに……茜……涙いっぱいでてるもの」


そして二人は重なりあった


『お取り込み中じゃまします!

間もなくデンパが途切れるって!

1分少々ジカンがあるみたい!

別れを惜しんでくださいって!マーリアからの伝言!

アリス伝えたからね!』


アリスに告げられたカウントダウン!

楓と茜は離れてアワアワしてる


「茜!元気で!赤ちゃん生まれたら、わたしの分もいっぱい可愛がってあげて!」

『うん。ありがとう!楓!あのね!

もし女の子が産まれたら楓の名前を貰うの憶えている?』


「うん忘れてないよ。わたしも女の子に恵まれたら茜って付けると約束したよね!」

『うん!だからね!この子!女の子のような気がするから!楓って名前にするね!』


そして茜と楓は手を合わせた。

もちろん茜は精神体だから、ビジュアル的に手を合わせたように見える


『楓!わたしぃ!応援しているからぁあ!

日本で毎日エールを贈るから!

楓はこの異世界で足掻いてみてぇ!

今日会えて良かったよぉ!楓ぇえ!』

「わたしも茜に会えて嬉しいよぉ!また……あかね?……茜ぇえええええ!!!!」


茜は忽然と消えた。

アリスもいなかった。


ただ満月に照らされた大海原が広がっていた……。










これで外伝が終わります。

あの人もこの人もと欲張ったら2ヶ月以上も続いていました。

元々歴史が好きで中国の【史記】という歴史書の中で、歴史上名を成した個人の伝記を集めた[列伝]というのが有ります。『そんなの書いてみたい』と思っていたので、なんとなく夢が叶った感じです。


最後は茜ちゃんで締めるのは決めていました。

もっと色々書き足りませんが、また茜ちゃんの外伝を書いてその穴を埋めたいと思っています。



次回からいよいよ帝国編です。



それに合わせて題名を変えます。

というより、付け足します。


【伯爵令嬢アイリスはボッチなヒロインですが、どうやら聖女のようなので不本意ながら成り上がります】


にします。

何だか恋する学園生活みたいな感じで始めたのですが、思いがけず聖女になってしまったので、改名します。

結局学園生活は四ヶ月だけだった。

今後ともよろしくお願いいたします。



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