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アラン・ユークラリス【上】


ボクはアラン・ユークラリス


恒例の親睦を深める為の短期留学制度。

ボクはその候補生に選ばれてエルパニア公国へと留学した。

突然留学を告げられた時、アーサー殿下の顔が頭に浮かんだ。殿下は何故かアイリスに執着していた。この留学もボクとアイリスの仲を物理的に裂くため仕組まれた物だと思った。


ボクはそうと知りながら、抗うことも出来ずにエルパニアへ旅立った。


アイリスの事は心配で片時も忘れた事はなかったけれど、エルパニアで過ごす日々は悪くなかった。

クラスに気の合う友人と呼べる男子学生も出来たし、彼を通してエルパニアの風習や政治制度を学んだ。


それに養父であるユークラリス伯爵からエルパニア公国の気候風土を学べと指示を受けた。

ユークラリス伯爵家が商売をする上でそれが大切だと言われた。[相手を知り己を知る]それが商人の基本らしい。


ボクはエルパニアの国の歴史から学びたくて、放課後は図書室に通った。図書室は先人達が残した知識の宝庫だ。

同じ事柄でも著者によって見方や考え方も違う。

物事を一から調べると膨大な時間が掛かる。だがこうして先人達が残した知恵や知識を調べれば、学ぶ時間も短縮出来るし彼らの経験も獲得できる。

もちろん生きた経験も大切だ。

けれど本で学んだ知識はその生きた経験を何倍にも輝かせてくれる。


ボクは人見知りで、積極的な性格ではない。

だから人間関係形成にしても、徒手空拳で相手の懐に飛び込んで友情を育むなんて真似はとても出来ない。

だからボクは信頼出来る友を一人作って、その友が信用している者とも交遊関係を築くやり方をしている。

その信用している者達からも人脈を派生させ形成させるつもりだ。


初めは友人と呼べる者も少ないが、信頼出来る仲間といずれ仕事が出来たらこれ程嬉しい事はない。


ボクは友人を見極めている間は図書室で知識を溜め込む事にした。このエルパニア公国の歴史から、国の成り立ちや貴族や国民との関係を学ぶ。気候風土に適した産業や生活も学ぶ。

土地に根付いた慣習も大いに為になる。


服装の違いを知れば、それだけでも商売の種になるだろう。動植物の生態にも興味がある。

このエルパニア公国は森林が国土の大半を締める。

フォラリス王国にはない動物や植物も多く自生するだろう。

そんな違いも図鑑を眺めながら楽しんでいる。


気候風土が違えば、フォラリス王国と人の習性も性格も違うだろう。その差異の中に商売の芽が隠れていると、伯爵はアドバイスをくれた。伯爵は手紙でこんなメッセージをくれた


『ユークラリス伯爵家が商売を基本にしているからと言って学生時代から商人目線で人間関係を作らなくても良い。商人とは卒業すれば嫌というほど関わるだろう。

だからこの学園生活は商売の事は頭の隅にでも常駐させて、アランが好きなように学び楽しめ!』


その言葉に甘えてボクは商売の事は考えず、友人を作っている。


先ほど気候風土が変われば人間も変わるような事を言ったが、ここの女性はともかくも積極的だ。

どういう経路か知らないがボクには婚約者がいないという話が広まっていて、登校初日から何人かの女性からお茶会への招待を受けた。

お茶会に招待されてノコノコ出ていけば、下手をすればその令嬢と交際しているパートナーとして認知される。

世間知らずの自分でもそれくらいは知っているし、気を付けるようにと母様よりも釘を刺されている。


ユークラリス伯爵家はフォラリス王国の伯爵家筆頭で、王国一と言っても過言ではない財力がある。

ボクというただのアランに魅力が有るわけではなく、ユークラリス伯爵家の[後継者アラン]というワードに女性は惹かれるのだろう。


2日目には図書室までも女学生が大勢押し寄せてきた。

その状況を見かねた第3王子セドリック殿下が助け船を出してくれて、王族とその許可を得た者が利用出来る[特別室]の使用を許可してくれた。

というよりは……


「アラン。君が大いにモテるのは分かったから、このままでは図書室の運営にも影響が出る。

君にこの許可証を与えよう。これがあれば図書室の特別室を利用出来る。というか……利用して貰わなければ困る。受け取ってくれるな?」


王子の命令とあれば仕方がない。

ボクは有りがたく許可証を受け取り、特別室を使用することとなった。


それから十日もしないある日。


ボク以外誰も利用していなかった特別室に、綺麗な女学生が現れた。珍しい鮮やかな赤毛の髪に黄金の瞳


『黄金の瞳を持つ者は妖精に愛される』


フォラリス王国にはそんな伝承がある。

アイリス……というよりアリスの瞳はアメジストのようだけど、妖精やら天使やら女神様に会っているようだ。

俄には信じられないけど、アリスは嘘を付いたり駆け引きなんてまどろっこしい事はしないから、そういう世界もあるのかも知れない。


彼女はボクを見て口を半ば開けた驚きの表情でこちらを見ていた。

ここを利用出来るのは王族とその許可を貰った者のみ。


ボクは彼女の特徴から第4王女のシェリリー姫と目星をつけた。病弱で学園を休み勝ちだという情報はある。

もしシェリリー姫が王族なら彼女の方が身分が高いから、声を掛けて貰うのを待っていたけど、彼女は放心して固まったまま動かない。

こうして見詰め合っているのも不敬だから、此方から声をかけた。


人慣れしていないのだろか?


王族としては落ち着きがなく控え目で、彼女は慌ててシェリリー姫と自己紹介した。


ただ何となくだけど、同じ人種の香りがした



──これはオタクというやつか?



アイリスが言っていた訳のわからない言葉を思い出した。

外で活動するよりも、引きこもり好きな事をする者をオタクというらしい。

それに当てはめればボクはオタクだろう。


そしてきっと彼女も……。


もしかしたら王族だからと肩肘張らずに交流出来るかも知れない。


アランは知的好奇心を満たす仲間に成れるかも知れないと、シェリリー姫と言葉を交わしてそう思った。

王族との身分差や男女の垣根を越えて、仲間に成れれば更に留学生活も有意義に過ごせるかも……。


アランはモジモジと落ち着かない姫を見て、そう思った。








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