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シェリリー・シルフィア・エルパニア【下】


なっなっなっなっ



──なんでこうなるのぉ~!



わたしシェリリーは困惑を隠せません。



──直近の休日──



休日午後。


王宮内にある植物園にアラン様を案内致しました。それから温室内に準備して貰ったお茶席でティータイムを楽しみました。


趣味や好みが合うお方とお話しすると何故にこんなにも心が踊るのでしょう!

時間の経つのも忘れるくらいに、お互いにいつになく饒舌になって、植物のお話をするのです。

本来なら可愛げのあるお花の話をすれば良いかもしれませんが、2人とも薬草の方に興味があって、薬草の成分やら効能の話をすれば切りがありません。


それから楽しいティータイムも終わりました。

わたしとアラン様は温室に咲き乱れる花々には目もくれずに、地味な見た目の緑緑した薬草達の前で座り込み会話を弾ませました。


そして楽しいひとときも終わりアラン様の帰宅も近付いたその時、王宮の使いの者が現れました。


アラン様が晩餐に招待されたのです。


急な事なのでそのままの格好で良いとお許しを経て、わたしとアラン様は家族の晩餐に出席したのです。


それで冒頭のセリフ。


ここには両親の公王夫妻を初め、王宮にいる兄弟姉妹がズラリと揃っていたのです。


もちろん家族で食事をする事もありますが、大概何かしら公務で忙しく揃って食事をする事は稀です。

それにアラン様はわたしと向かい合った席におります。


これはまるで……お見合いのようです。


そして食事の前に女神ウェンティーナに祈りを捧げ、公王陛下の簡単な挨拶の後、晩餐会が始まりました。

公王はアラン様に話し掛けました


「アラン君。

君は随分と優秀だと聞いた。

白薔薇学園でも成績はいつも一桁を維持していたそうだな?」


──白薔薇学園で一桁!


あの白薔薇学園でも上位の成績をあげるなんて……。よほど優秀なのでしょう


「はい。運が良かったです」

「そうか……運か。まあ。いいだろう。

それとアラン君。

君はまだ婚約者が決まっていないそうだね。

フォラリス王国では15歳の成人で婚約式をするのが倣いと聞いたが、君のような優秀な者がフリーとは……」

「詮索するようでごめんなさいね」


ここでお母様……マーガレット・シルフィア・エルパニア第4妃が声を掛けたの


「公王はシェリリーが可愛いらしくて、初めてのデート相手の貴方が気になって仕方がないの。

かくいう母親のわたしも気になるわ。

あなたのような素敵な方が婚約者もいらっしゃらないなんて不思議ですもの……」


──デ・・・デートだなんて!


違いますよお父様!お母様!


「私が婚約者が居ないのは、ユークラリス家の家風にあります。

一定の年齢までは成り行きに任せるそうです。

父のユークラリス伯爵も母に一目惚れして、直ぐに求婚したそうです。ただまだ母は成人前で婚姻まで随分と待ったようです」

「そうなの?それはまた自由な気風ですわね。

そういえば……あなたには同い年の御姉様がいらっしゃるわね。何でも去年までは手の掛かる子供のようだったとか?大病を患い目覚めてみたら素敵なレディになっていたそうね。

確か御姉様も婚約者はまだのようですが?

それと随分と仲の良いとか?」


そう言うとお母様はじっとアラン様の目を見詰めていました。母ながら獲物を狙う鷹のような眼差しに、わたしは何だか落ち着きませんでした


「冗談よ!冗談!からかってみただけ。

母としても一人娘のデート相手が気になっただけよ。

でも夢のようだわ!奥手で大人しくて引っ込み思案なシェリリーが、まさか王宮に男を連れ込むなんて!

世の中捨てたものじゃないわね」


──男を連れ込むだなんっっって!


お母様は平民出身を隠しません。

この王宮でも貴族の腹の探り合いや駆け引きをせずに、ズバズバと切り込んでくるのです


「デートだなんて!ただ……アラン様は植物がお好きで……その……」

「でも好きでもない殿方を誘ったりしないでしょう?」


「お母様!」


お母様はまたケラケラと顔をほころばせ、はぐらかしました。それから晩餐会でアラン様は他の(きさき)様や王子や王女達の質問攻勢に合っていました。

わたしを特に目に掛けてくれて学園でも保護してくれる第3王子のお兄様は、ここでもアラン様に「シェリリーを頼む」と御願いしていました



──わたしの何を頼むというのでしょう?



そして賑やかな晩餐会も終わりを告げました。




☆★☆




晩餐会を終えた夜更け。


公王と第4妃マーガレットは閨の蚊帳の中、夜着のまま寝転んで語り合っていた


「で。マーガレット。

あのアランという青年。シェリリーがベタ惚れだが、お前の見立てはどうなのだ?」

「そうですね。是非取り込みたいと。

合格以上の最優良物件です。大陸中巡ってもあれ程の品には巡り会えないかと……」


「それ程か……」


公王は唸る。

マーガレットは意味ありげに笑い


「先ずは客観的事柄からお話致しますわ。

わたくしの父の商会はこのエルパニア公国では押しも押されぬ大商家ですが、アラン君が跡を継ぐユークラリス伯爵家と比べたら獅子と子猫くらいに違います。

ユークラリス伯爵家はフォラリス王国最大の商団を率いる元締めです。父の商会規模の商団も12も抱え、帝国まで販路を広げております。

軍船に代替えできる大型の商船だけでも100隻以上。もはやユークラリス家がなければフォラリス国が機能不全に陥るほどの影響力を持っております」

「なるほどな?シェリリーを嫁がせるには申し分ないな」


公王は満足気に頷く。

だがマーガレットは(かぶり)を振る


「しかし問題もございます。

ユークラリス伯爵家は有らぬ噂をかけられぬよう、王家とは距離をとっております。それは他国との王族でも変わりません。商団の元締めでありながら上手く力を分散させ、弱者に見せて爪を隠しております。

いくらシェリリーがゾッコンだからといって、王家と距離を保ちたい伯爵家からすれば、ただの惚れた腫れたでは断られるのは目に見えております。ハッキリ言えば力関係はこのエルパニア公国よりも遥かにユークラリス伯爵家の方が上です。

公王の権力も脅しも効き目がありません。

ですが、是非とも繋がりを持ちたいところ。

シェリリーと婚姻を結び縁が深まれば、父の商会はおろかエルパニア公国に莫大な利が転がり込むのは間違いありません」


「それを聞いて尚更あの青年が欲しくなった。

で……マーガレットよ。策はあるのだろう?」

「もちろんです」


マーガレットは狐のように目を細めた


「先ずはシェリリーに甘い夢を見て貰いましょうか。

頻繁にアランを招いてシェリリーの想い人であると周りの者に周知させるのです。

もちろん既成事実だけで婚約もこちらからは結びません。

更に年末舞踏会ではシェリリーのパートナーを務めて貰います。

そうですね。続けて2回は踊って貰いましょうか?

プロポーズの代名詞。3回連続のダンスは流石に無理があるので……。

2回連続で踊るのはお互いが認めた近しい間柄のみ。

舞踏会開始でそれを実行すれば、学園中で2人の仲は認知されるでしょう。

そして夢見る乙女のシェリリーも……きっと強く意識してアラン君と結ばれる夢に浸ることでしょう」

「それでどうするのだ?」


「何もしません。そのままアラン君には王国へ帰って貰います。そうですね。王宮で送別会なんか開いてみたら良いのではなくて?

そうなればシェリリーは夢と現実の狭間に立って、きっと心が病んで仕舞うと思うわ!」


公王は1人娘にも容赦なく天秤にかけるマーガレットを、恐ろしくも頼もしく思った。マーガレットは父親の商会を通してエルパニア公国はおろか周辺国の膨大な情報を集めている。だからこそこのエルパニア公国の影の相談役として国の進路を任せられる。

だが……それでは……


「シェリリーが病んだらお前も気に病むのではないか?」

「あら?ご心配為さらずに。

あれくらいの年頃の少女には付き物ですから。

むしろ経験すれば更に絆は強まるかと……。

病は病でも『恋』の病ですからね」


そしてマーガレットは仰向けに寝転ぶ公王の胸に頬を寄せた


「もしシェリリーが恋患いで寝込んでしまったら、あなた様にはオロオロ、ソワソワと親バカ振りを発揮して貰いますわ。

くれぐれも政治向きの御言葉は控えてくださいね。

あくまでシェリリーの幸せを願う、子煩悩な父親に徹して貰います。あなたの演技力に娘の将来……強いてはこの公国の未来が掛かっているのですから!」

「責任重大だな。だが公国を抜きにしてもシェリリーには幸せになって貰いたい」


公王はマーガレットを抱き締めた。

あの心優しいシェリリーには政治に関わらず好きな男と好きな事をして生きて貰いたいものだ。

マーガレットも公王を抱き返して


「そうですね……わたくしも母親として純粋にシェリリーの幸せを祈っているのです。

シェリリーとアラン君を結びつけるには、わたくしにはこれしか思い浮かびませんでした。

お腹を痛めて生んだ子ですもの。

時には心を鬼にしても、シェリリーの幸せを勝ち取るわ」



マーガレットの言葉は宵の闇に消え行き、2人は何もせず朝まで寄り添っていた。










ちょいとこの異世界。

女の人が怖すぎます……。


シェレイラお母様しかり……

ソフィア様しかり……

カミラしかり……


アイリスは……お察しの通り……


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