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ジェイド・エマーソン


「ほら!次!どうした!もう終わりか?」



オレはジェイド・エマーソン。

エマーソン侯爵家。王宮近衛騎士団長の父アルマの長男だ。少し複雑だが、父アルマの兄でオレの叔父に当たるのが現エマーソン侯爵。

父とその子の自分の代まではエマーソン侯爵家の籍にはいるが、もし自分に子が生まれればエマーソンの姓は名乗れない。

それもあるのだろう。成人の日に紐付けで、叔父エマーソン侯爵から男爵位と騎士爵位を貰った。


幼い頃から厳しい父の薫陶を受け、剣技を磨いてきた。

以来鍛練を1日も欠かしたことはない。


ここはは白薔薇学園の修練所。

長期休暇中で人数は少なくなったが、学園に通う騎士見習いの者達の指導をしている。


教えているオレも騎士見習いだ。


このフォラリス王国では騎士になれるのは18歳になってから。だからオレも当然騎士見習い。

だが家系と父が騎士団長であるという実績から、オレが白薔薇学園在籍の騎士見習い達の指導と訓練を任されている。

もちろん授業の剣技には専任の教授がいて、自分はその時は手も口も出さない。



カランカランカラン



学園に併設されている教会の鐘が正午を告げた。

今日の自主訓練は終わり、後は騎士見習いの学生達は思い思いの時間を過ごすだろう。

十数人いた学生達は悉く消え去り、ジェイドは誰もいない修練所の中央で汗を拭う。


そこへ1人の少女が駆け寄ってきた。

見習い用の騎士服を着た婚約者のフェリスだ。

髪が短ければ少年に見えたかもしれない


「ジェイド!やっぱりここね。

弁当持って来たの。一緒にいただきましょう!」

「ああ。フェリス。感謝する」


オレとフェリスは木陰で隣り合って座る。

フェリスはバスケットからサンドイッチとスープを取り出すと、敷いたシートの上に並べる。

毎日具の中身も違うし律儀なものだ


「フェリス。今日も旨そうだな。

毎日作るの大変だろう?」

「わたしがですか?

もしかしてジェイド。わたしが弁当手作りしていたと思っていました?」


「違うのか?」


フェリスが固まっている。

そして突然弾けたように笑いだした


「アハハハハ!ジェイド!冗談キツイ!

ここは学園ですよ!調理場以外と寮の各部屋の決められたスペース以外に火の魔石の使用は禁じられているの知ってます?

寮の部屋ではメイドがお茶用にお湯を沸かす以外禁じられているの。

このサンドイッチの中身。ちゃんと調理されているでしょう?このスープも手が込んでいるし。

学園の厨房に弁当を頼んでいるのですよ。

わたしもソフィア様の護衛もありますし、今日もソフィア様が気を使ってお昼時間を自由時間にしてくれたのよ。

ソフィア様も気に掛けていらしてたわ!

だってジェイド。剣の修練にかまけて良くお昼を抜くでしょう?わたしも心配だし……。

ともかくそう言うコトよ!」


少し考えれば直ぐに分かることなのに、考え無しで言葉を発していた。アーサー殿下の護衛としても、そういう知識も必要であろうに……


「フッ。オレもバカだな……。

だが……オレの為に弁当を用意してくれたのは素直に嬉しい……ありがとな。フェリス」

「どういたしまして。

でもジェイド。あなた。随分と変わったね。

去年まではガチガチの頭でっかちだったのに……なんていうか丸くなったわ」


殿下にも「融通が聞かない堅物」とからかわれていたが、最近は「今のジェイドの方が良い。頑なな忠義心は時に主人を貶めるぞ」と褒めて?くれている。

殿下が言う『頑なな忠義心』とは盲目的に主人に忠誠を尽くすこと。主人の将来を考慮せずに、主人の意のままに行動する事を言っている。

護衛はもとかくこれからも友で有りたいなら、時には耳障りな諫言を述べるのも忠義の道だと教えてくれた。


オレが以前よりも丸く成ったのは、たぶん……


「アイリス様のお陰ね……」


フェリスがオレの言わんとする事を先取りした。

俺が驚いた顔をしていると


「ジェイド。あなたいつも任務に必要以上に忠実で普段は誰とも会話しなかったでしょう?

でもアイリス様の殿下からの送り迎えで仲良く並んで言葉を交わしていたじゃない?」


アイリスは変わっている。

まだ新しい人格が目覚めたばかりで仕方がないところがあるが、貴族らしくない。

特に上級貴族は護衛に話し掛けることは殆んどない。

護衛が会話に(うつつ)を抜かして本来の業務に差し障りがある面もあるが、どちらかといえば貴族の矜持というかプライドみたいなものが邪魔をするのだろう。

だがアイリスは


「わたし王子様でもお姫様でもないですよ。殿下は迷子に成らないように案内を頼んでくれているので、きっと護衛対象じゃないから、この安全な学園では仲良くお話ししましょう。

あっ!仲良くって言ってもフェリス様の邪魔をするつもりはないですからね!あくまで友人としてです」


なんて無視をしてもめげずに気安く話し掛けてくる。

初めはオレの頭デッカチで無視したり、会話も儘ならなかったが、勉強を教えだしてからは普通に話せるようになった。

会話の内容は殆んどこのフォラリス王国の仕組みや常識であった。だが以外に知ってるつもりで知らない事が多かった。知っている事でもいざ説明しようとすると窮することが多々あった。

無口であったオレは、人とのコミュニケーション不足で語彙力が低かったのだ。

それでいつしかアイリスとの会話を通して、知らなかった常識やフォラリス王国の事を学び直し、会話も途切れず出来るようになった。


最後の方はお互いに人生相談をすることが多かった。

人生相談って言っても将来に関わる大きな決断を有するものではなくて、簡単な悩みとか生き方とか指針みたいなものだ。それでは人それぞれが違う生き方や考え方をしていると、身に染みて知った。

そして自分がいかに狭い世界に生きて、人の気持ちなど考慮しない人間であったかも……


「ところでジェイド。

良く立ち止まって話し込んでいたでしょう?

友人から聞いたけど顔を赤らめて何か良い雰囲気だったって!

もちろん隠し事出来ないあなたやアイリス様が、二人でコソコソ(よこしま)なことを考えているとは思っていないわ。でも気になるものは気になるのよ……どんな事を話していたの?この際だから白状しなさいな!」


──いや……それは……


ちょっと恥ずかしいから言いたくない


「どうしたの?それとも友人の言うように逢い引きの相談でもしていたの?」

「それはない!断じてない!フェリスを裏切るような事は天地天命に誓ってしていない!」


「じゃあ。話してくれても良いんじゃない?」


フェリスは身を寄せて茶化すように流し目を送る。

オレはドキドキして少し挙動不審になる。

そんなオレにフェリスはフフフと笑い


「わたしに言えないこと?

とても後ろめたい事なのね?」


──いや!違う……あーどうにでもなれ!


「お前の事だフェリス」

「わたしの?」


「ああ。オレはその女心に疎いから……その……何というか……ともかく!アイリスにはお前と仲良く成るにはどうすれば良いか、相談に乗って貰っていたのだ……悪いか?」


──何を言っているのだオレは……


穴があったら入りたい。

フェリスが絶句している。

突然


バン!!!


っって、オレの背中を叩いた


「ジェイド!あなた!良いとこあるじゃん!

そうかそうか!成る程なるほど!うんうんうんうん!

それで『ありがとう』とか『感謝している』なんて可愛いこと言っていたんだ。

ぶっきらぼうで無愛想なジェイドさんが、この頃やけにわたしに優しく成ったのはそう言うことか?

なるほどなるほど……良い傾向だね。ジェイド君!」


ここでもう一度

バチン!

背中を叩かれる


「では……そんな真摯なジェイド君にわたしからアドバイス……というか提案ね」

「なんだ?オレに出来ることか?」


「まあね。どうかしら?

ただ。ちょっと恥ずかしいから……」


そしてフェリスは顔を背けて正面、修練所の方をを向いた。オレも倣って同じ方向を見る。

フェリスは小さな声で言った


「もうすぐ婚約式じゃないですか?」

「ああ。そうだな」


「婚約式でわたしたち誓いのキスをするでしょう?」


ブフォ!

オレは思わずむせてしまった


「それは……決まりだからな」

「その時お互い初めての口付けですよね?

だから……とても緊張して上手くいかないかも知れないでしょう?二人ともそういう事は奥手だから……」


「まあ……そうだな……」

「だから……練習しようか……」


──練習?


「何の練習だ?」

「キ……キスの練習ぅ……」


「キッ!キスだとぉ!」


──なんと破廉恥な!


「ちょっ!声が大きい!バカなの?」


フェリスが慌ててジェイドの口を塞ぐ。

2人の距離が縮まって、なんだか気まずくなり直ぐに離れる。フェリスは背中を向けて俯いている。

何だか可愛いな。


──婚約者がキスをするぐらいで破廉恥とは……


オレも大概に初心(ウブ)すぎるな


「フェリス……」

「何?ジェイド」


フェリスがこっちを向く。

オレはその瞬間に素早くフェリスの額にキスをする。

フェリスは額を抑えて暫く放心していた


「もしかして……今……額にキスをしたの?」

「うん……まあ……いきなり口付けはハードルが高くてな……」


「もう!情緒もロマンスも何もないじゃない!」


そしてフェリスはオレの頭を両手で挟む


「男だったらね!これくらいしなさいよ!」


いきなり口付けをした。

オレは目をシロクロさせるとフェリスは唇を離した



「まあ。あんたらしいっちゃ、らしいのよね」



そう言うとフェリスは何事も無かったように食べ終わった弁当を片付け出す。

そして立ち上がると、固まったままのオレに一言(ひとこと)言った


「これは貸しだから、婚約式前にキチンと返してよ。

男らしく正々堂々と婚約者に口付けくらいしなさいな。

じゃ!そういうことだから!」


フェリスはいそいそと修練所を駆け抜けて消えた。

オレはまだ余韻の残る唇に触れた



「オレには随分とハードルの高い借りだな……」



オレは立ち上がると修練所を横切る。

そして振り返り先ほどまで二人が身を寄せていた木を見つめる



──これまた最難関の宿題を出された



答えを出すまで眠れぬ夜が続きそうだ……









書き始めは二人修練で戦うのかな?

って思っていたけど、キス試合ですか?

ジェイド君の完敗ですが……。

いやはや青春ですね!


過ぎ去った日々を思い、遥か遠い目をしてみる

(  ̄- ̄)



思ったよりも外伝が続いています。

まだ続きます。


あしからず


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