上玉だわ
結局アランとは二人きりになることは無かった。
そうそう!
晩餐会にはアーサー皇太子殿下と婚約者のソフィア公女もいらしてた。
レイン殿下とエリザベス公女も、もちろん参加していた。
その席ではあまり話す機会は無かったけど、挨拶を交わした時にはわたしとデュークの仲を祝福してくれた。
アーサー殿下は何時ものクリスタルな微笑みを見せてくれたけど、晩餐会の席では心なしか切なそうな顔をしていたのが印象的だった。
きっと年末年始はイベントが目白押しだから、疲れているのね。
晩餐会が終わり、次の日わたし達はユークラリス伯爵夫妻に招待された。
招待って変だよね。
自分の家なのに……。
それはパートナー込みで招かれたから。
アランとシェリリー姫。
わたしとデューク殿下。
それぞれのペアで馬車に乗って王都郊外の別邸へ向かった。
伯爵別邸ではまだ未婚ということもあり、それぞれに個室が宛がわれた。
わたしとアランは自分の部屋。
階も違うし離れているから、バッタリ出合う事もなかった。
そしてデュークは最上位貴賓室へ、シェリリー姫はその次のランクの貴賓室へ通された。
ここへ付いてからアランとシェリリー姫には、わたしとデューク殿下の素性が改めて知らされたみたい。
王宮にいた晩餐会迄は、わたしは帝国の三番目の皇子様に一目惚れされて婚約(仮)に至ったと知らされていた。
だからわたしが王国では馴染みがないけど、帝国では超有名な【聖女】らしいと聞かされて驚いたみたい。
更にデュークも只の第三皇子ではなく、実は皇太子と言う事も知った。
つまりはわたしアイリスも皇太子妃を経て皇后になる旨も知らされた。
そしていきなりわたしとデューク殿下は殿上人として厚待遇を受ける事となった。
でも私やアラン達以上に驚いて天手古舞になったのはお屋敷の人々。
次代当主アランの婚約者がお姫様で、つい最近まで手の掛かる子供のようなアイリスが皇子様とパートナーになった。
その歓迎の為に裏方は戦争のような状態だったと後で聞かされた。
シェリリー姫個人だけではなくて、お付きの侍女三人と護衛騎士二人も付随しているしね。
デュークに至ってはアドラーとナーシェという幼馴染の護衛二人に専属侍女三人。更に帝国騎士十名。
彼らの部屋を用意して、世話を焼かなければならない。
それで手が足りず、領地にある伯爵本邸からの応援は日数的に間に合わないから、帝国大使館から人を借りた。
そうそうリッチェとラッチェの双子姉妹はわたしの専属侍女として付いて来ている。
他に帝国大使館からメイドや給仕が合わせて五人が応援として派遣されたみたい。
これは帝国からの要望。
外部から人をいれると暗殺の危険も増えるからと、半強制的にやって来た。
ずいぶん後になって知ったけど、その五人。
武術の心得のある者達で護衛と隠密も兼ねていたんだって。スゴいね。
メイドさんなんか、スカートの中。太ももに貼り付けてナイフとか仕込んでいたみたい
─スパイ映画か!
もう突っ込むしかない。
だからね。わたしにはリリとララにリッチェとラッチェが直ぐ傍にいて、部屋の前では帝国騎士二人が護衛している。
その騎士さん。わたしが部屋から出ると当たり前のように付いて来る。
だからさ。アランを避けていたのではなくて、アランと二人きりになる事が物理的に不可能だった。
これが学園なら人目はあるけど二人で話す事もできたけど、学園には今顔を出す勇気がない。
いくら名誉は回復したと聞かされても、学園と聞くとあの日の断罪がフラッシュバックする。
でも二人きりで会えないのは、今は楽かな?
今更一つの部屋で会ったところでどんな顔で接したらいいか分からないし、やっぱりお互いもっと冷却期間をおい方がいいみたい。
でも二人きりで会わなかったけど、姉と弟として侍女や護衛込みではお茶をしました。
軽い近況報告なんかしてね。
わたしが生徒会に入ったけど、一度も生徒会室には呼ばれなかった事を聞いて笑ってくれた。
アランもエルパニア公国での学園生活を話してくれた。
エルパニア公国の学園は白薔薇学園の半分以下の規模で、寮も貴族寮一棟があるのみで男女同じ寮に住むらしい。
もちろん一棟が男女別になっていて、入口も別らしいけどアラン結構戸惑ったみたい。
なんかいつも寮の前に女子の集団がいて、後からそれがアランの出待ちの追っかけだったと知って驚いたとかね
「何で僕を待っていたのかな?
僕は何の取り柄も無いのに……」
─それ本気で言ってます?
アランね。超鈍感なの思い出した。
白薔薇学園でもキャーキャー騒がれてたのに、全然自分がモテていたなんて気付いていなかった
─あんた!スゲーカッチョエーのよ!
心の中で突っ込みまくったよ。
お洒落にも無頓着で着る物全て、あの万能侍従のティークが段取りしていた。
本の虫だしね。
アラン。背も高いし、髪もサラサラだし、曰くありげな切れ長の目も素敵だし。言うことなしだね。
まあ。その点。わたしのパートナーのデュークも負けてないですよ。
ちょっと顔が老けていて、どう見ても17~8歳にしか見えないけどさ。
背も高し超カッケーよ。
髪も瞳も黒いけど、日本人顔からかけはなれた北欧系の顔立ち。
何かさ。ヴァンパイアの王子様って感じね
─脱いだらバキバキだし
何で知ってるか?って……
えっと。今さ。回想に耽っているけど船の上にいるのね。
晩餐会とか伯爵別邸での出来事とか、全部回想ね。
船旅しているとね。突然スコールみたいに大雨が降るのよ。
そしたらさ突然野郎共が脱ぎ出して、スコールにあたって体とか洗い出すの。
当たり前のようにデュークも……レイン殿下も服を脱ぎ捨ててさ。奇声を上げながら体を洗う訳。
もちろんパンツは履いているよ。
でも船員の中にマッパになるやつがいて、デュークに
「俺の嫁に下品なイモムシ見せるな!」
って半殺しにされていた
─イモムシって何の事だって?
だってその時ね。わたしや侍女は屋根の有るとこでキャーって叫びながら、手をパーにして顔を覆っていたからね。
建前では何も見ていない事になっているのさ。
だからわたしは
─何も見ていないったら!いないんだから!
でもさ。
リリとララがね。帝国まで付いて来てくれることになったの。
もちろんわたしと一緒にスコールに遭遇するのね。
リリは大人しく律儀に指先揃えて顔を覆っているけど、ララさ。
腕組みしてガン見している訳よ
「こいつはB。でもあいつはSランク。上玉だわ」
なんてニヤリとしていた。
きっとララの心臓には剛毛が生えているに違いない……。
これで第5章も終わりました。
大きな流れ的には本編のフォラリス王国の話は終わり、オーギュスト帝国での話になります。
聖女アイリスと聖女を取り込み利用しようとする二つの大きな勢力。皇室と教団。
その狭間でアイリスは聖女としての立ち位置を、デュークと共に築いて行きます。
ですがその前に外伝形式でサブキャラ達の
【それぞれの日々】を描いていきます。




