女子高生に戻りたい……
ザー。
ザー。
心地好い波の音。
視界は全て青!
青空に青い海!
全周囲見渡す限りの大海原!
そうです!
わたしアイリスは今!
帝国へと向かう船の上にいるのです!
島影一つ見えない海の上。
平行して泳ぐイルカ達。
スゴく可愛いけど、見飽きた
「アイリス。気分はどう?
落ち着いた?」
甲板から潮風にあたるわたしの傍に、デューク殿下が当たり前のように寄り添い肩に手を載せる。
今日で船上生活七日目。
三日間船酔いで死にそうになり、次の三日間はイルカの可愛さにメロメロになり、七日目の今日は代わり映えしない景色に暇を持て余している。
何でこんな事になっているのかというと、わたしの知らない間に事態は動き出していた。
何が何だかわからないうちに、わたしはこうして帝国へ向かう船の上にいる。
時が立つのも早いもので、もう二月も半ばを過ぎてしまいました。
☆
ちょっと箇条書き。
まずは両親のユークラリス伯爵家とフォラリス王家が話し合った。そこで色々条件を擦り合わせて、帝国と王家の交渉に移った。
内容はこう。
わたしアイリス・ユークラリス伯爵令嬢と帝国の第三皇子デューク・ミカエル・オーギュストの婚姻は認める。
でも条件がついた。
直ぐに婚礼をせずに学園卒業まで婚約を維持すること。
わたしは白薔薇学園を退学するのではなくて、今回の帝国行きはあくまで留学扱いとなること。
一年半帝国の学園に通って、その後フォラリス王国へ戻り一年間卒業まで白薔薇学園に在籍する事。
つまりは今の三学年生途中から四学年生までは帝国の学園に通学して、最終学園の五学年生は白薔薇学園で卒業まで過ごす。
そして最後に王宮で王国と帝国の平和を祝う祝典のパーティーを開くみたい。
これだけ変な予定を組んだ理由は、わたしが目覚めてからまだ間もなく世間知らずだからね。その教育も兼ねて帝国の文化や風習を学ぶみたい。
もちろん皇太子妃としての教育期間も必要ということね。
デューク殿下は帝国へ帰ったら、正式に皇太子に就任するみたい。
その後にわたしとの婚約式を行う予定だけど、その前に〈聖女降臨の儀〉なるものが行われるらしい。
何か良くわからないけどね。
それとわざわざ留学にしたのは、わたしの白薔薇学園での最後があのような集団暴行事件で終えるのは対外的にもマズいみたい。
それで帝国の皇太子の婚約者としてVIP待遇で白薔薇学園で過ごして貰って、良い思い出を持ったまま帝国へ旅立って欲しいみたいね。
というのは建前らしい。
えっと。王国との折衝を終えた後、シェレイラお母様とまた二人きりでお話ししたの。
その時にアリスに聞かされた事を話してくれた
「アイリスが学園にいる間はそれは起こらない」
何かしら起きる可能性があるので、せめて卒業までは学園に引き留めたかったらしい。
何が起きるかも分からないけど、王国側はそれに備える時間が欲しかったみたい
─でもそれって滅びのこと?
確かな事は分からないから聞かなかったけど……。
もう一つの理由はデューク殿下としても帝国でのわたしの立ち位置を探ることと、自らの力をつけるためにもう少し時間が欲しかった。
それでこんな変則的な予定に成ったみたい。
デューク殿下も才能はピカ一らしいけど、まだ15歳。
地盤を固めるのはまだまだ時間が足りないらしい。
でもちょっと納得がいかないのは、それならわたしが留学を終えて白薔薇学園に戻った時にデューク殿下も同行すること。
一緒に学園に戻らないで、帝国で地盤をせっせと固めれば良いと思うけどね。何気なく聞いてみたら……本人曰く
「目の前に美味しそうなウサギが転がっていたら、鷹や隼も黙っちゃいないだろう?
鷲はウサギを一人占めしたいのさ」
なんて良くわからない事を言っていた。
それにいない方がハイエナが彷徨くだろうから、炙り出すには都合がいいらしい。
それからわたし……アランに会ったよ。
年が明けた1月20日。
王宮晩餐会。
アランとはね、王宮で再会したの。
お互いのペアでね。
わたしはデュークとアランはシェリリー姫と、お互い婚約者を伴って会ったの。
これは両親と王家がわたしとアランの事を考えて、調整してくれたみたい。
初めは二人きりで会う案もあったらしいけど、もうお互い結婚の約束をした相方がいるから、隠し事をせずに素直に再会した方がスッキリすると考えたのね。
だからわたしはシェリリー姫の情報を知っていたけど、アランも帝国のデューク殿下とわたしがパートナーと成った事を事前に知らされた。
そしてアランが到着後わざわざ冷却期間を置いて三日後に会えたのよ。
アランはその間王宮で過ごしていたみたい。
シェリリー姫が国賓とまではいかないけど、それに準ずる扱いを受けて晩餐会が開かれた。
その席に招かれたわたしとデューク。
主賓席に座るシェリリー姫。
その隣にはパートナーのアラン。
アランね。
スゴく格好良くなっていた。
そしてシェリリー姫。
優しそうで賢そうな美人。
というよりも美少女かな?
艶やかな赤毛で、瞳は金色。
桃色の頬に小さなふっくらとした唇。
アランと目が合う度、シェリリー姫は恥ずかしそうに微笑む
『もしかしてアランの隣……シェリリー姫の位置にはわたしがいれたのかもしれない……』
わたしの胸の奥がキュってなり、刹那さと虚しさと妬ましさ。なんとも言えない苦い気持ちが込み上げてくる。
こんな御祝いの席なのに、わたしの心は暗く沈んでゆく
わたしの膝の上の手に、デュークの手がそっと添えられた。わたしと目が合うと頷き、優しく微笑んでくれた。何かしら察して励ましてくれたのだと思う。
わたしもね。デュークというパートナーがいるのにアランの事で嫉妬したりして、失礼だとは思うよ。
でもね……割り切ったつもりなのにまだ燻っていたみたい。
だってアランのわたしに向ける眼差しも切なそうで……。
終始微笑んではいるけど、まだ色々納得仕切れていないと思う。でも諦めて運命を受け入れている感じはする。
そんなところはわたしと似ているのかな?
だからと言って、わたしはアランとやり直すつもりもデューク殿下を裏切るつもりもないの。
それはアランも同じだと思う。
でもこの心のモヤモヤは時間をかけて薄れさせるしかないかな。
わたし達は御貴族様だからね。
惚れた腫れただけで、生きて行けないのさ。
女子高生に戻りたい……。
エピソードが行き当たりばったり方式になる前は、アランと添い遂げるルートも考えていた。
でも無理かもね。突如降って沸いて出たシェリリー姫に持っていかれたし……。




