恋煩い
やっぱりダメージはデカかった。
わたし楓なアイリスはベッドの中で、さめざめと泣いている。
もちろんアランの事……。
午前中に父母のユークラリス伯爵夫妻から、アランの婚約話を聞かされた時は自分も驚くほど冷静だったと思うの。
でも夜こうして寝床に入ってみると寂しさが募り、アランの事を思い出してしまった。
次から次へと思い出が頭の中を駆け巡っていく。
わたしはきっとまだ諦めきれていなかった。
だからアランの婚約話を聞かされた時、自分の中で育んできた想いに蓋をして隠してしまった。
けれど一人になりもう隠す必要も無くなったので、こうしてみっともなく泣いている。
けれどよりを戻そうなんて考えていない。
シェリリー姫の事は受け入れるつもり。
わたしも陥った恋煩い。
あの切なくて苦しくて胸の奥にぽっかりと穴が開いたような、それでいてアランを想うと熱いマグマのような感情が吹き出しそうになる
─マグマは冷やすと固くなるでしょう?
その想いを隠そうとすればする程に心が固く強張り、自分が壊れていく。
シェリリー姫もお姫様という立場もあり、恋しても誰にも言えず心に抱え込んで寝込む迄になってしまった。
でもきっとシェリリー姫の想いは本人は隠しているつもりだったのに、周囲には筒抜けだったと思うの。
だから周りが婚約話を進めて、こうなってしまった
─お姫様かぁー
敵わないよ。
本来なら嫉妬でブリブリ怒るとこかも知れないけど、わたしにはそんな資格ないな……。
だってこちらも皇子だし……未來の皇帝だし……
─アランの方が驚くわ!
もしかしたらアラン。
シェリリー姫と婚約して、わたしの事を気にしているかもしれない。
わたしが『裏切った』と罪悪感に晒されたように、アランも悩んだり苦しんでいるのかも知れない。
だってアラン。
真面目だし。
融通利かなそうだし。
無かったことには出来なそうだし。
勉強とかはそつなくこなせるけど、恋愛関係はわたしと同じく初だしね。
そんな想像すると、アラン今頃本当にわたしへの罪悪感に押し潰されそうになっているかも。
ユークラリス伯爵家からのシェリリー姫との婚約を受諾する返事は、数日のうちにエルパニア公国へもたらされる。
距離的に丁度届く頃合いかも……。
一応ユークラリス伯爵家がokした時点で、婚約したことにはなるみたい。
フォラリス王国にエルパニア王国の使者がいて、形式的だけど婚約の手続きを済ませたと言っていた。
そのまま使者はエルパニア公国へ報告するだろう。
アランとシェリリー姫の婚約式はエルパニア本国で行われるという。
シェリリー姫の回復を待って、来年式をあげるらしい
─わたしもするのかな?婚約式……
フォラリス王国では男子が15歳に達すると、愛の女神マーリアの教会で式を挙げるのが決まり。
相手の女子は同じ年頃か、年下が多い。
だから男が15歳で相手が一桁の年齢なんてこともあるらしい。
お兄ちゃんと妹とみたいで、想像すると微笑ましい。
それにしてもマーリア様。
人気者だね。
式でちゃんと立ち会ったりするのかな?
『もちろん立ち会いますわ』
─うっわ!神出鬼没女神健在!
突然出てこられると心臓に悪い。
それに……
起きるの億劫だけど、寝たままでいいのかな?
『ええ。そのままでどうぞ。
いちいち畏まられると、お互い難儀でしょう?そのままの姿勢で楽にして頂戴』
マーリア様が言うには婚約式で立ち会う神父様を依り代に降臨するみたい。
もちろん他の人には見えないし、気付かれない。
神父様も知らないらしい。
そしてちゃんと立ち会って、神の祝福を授けるみたい
『ねえマーリア様。
エルパニア公国にいるアランがどうしているか分かりますか?』
『もちろん分かるわ。熟睡してるわよ』
─そりゃそうだろ!真夜中だしね!
『わたくしの分身であるワケミタマは今アランの側にいて、彼の人生や想いがワケミタマを通してわたくしに流れ込んでいるわ。
でもねアイリス。これは他人に教えてはいけないのよ。
ただこれだけは教えてあげる。
帝国へ行く前にアランとは会えるわ。
後はそう……貴方の運命は貴方が紡いでいくのよ。
わたしが言えるのはここまでね』
『有り難うマーリア様』
会えると分かっているだけで、心構えが全然違ってくる。色々シミュレーション出来るし、覚悟も違ってくる。
アランのことはアランのこと。
わたしのことはわたしの事。
割りきって、冷静になれると思う。
お互いの婚約の事を棚に上げて、感情的になって罵り合うような真似は避けられるだろう。
それだけでも本当に有り難い。
そしてわたしは眠れぬ夜を……と言いたいとこだけど
……気が付いたら朝だった。
爆睡していて、ララにユサユサ揺すられて起こされた。
ポーっとしたまま部屋で朝食頂いて。
ポーっとしたままお風呂に入れられて、ついでにエステもされて。
ポーっとしたまま昼食になって。
ポーっとしたまま1日を終えるのかな?
って思っていたけど、午後になってエリザベス様が訪ねて来てくれた。
フォラリス王国からの使者の役目も勝手出てくれたみたい。
もちろんわたしを心配して、わざわざ足を運んでくれたのでしょう。
お友達って有り難いね。




