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聖女の力


──聖女に目覚めたのではないか?──


というレインの反応にどう対処すれば良いか分からず、躊躇する俺。デューク。

だがレインの確信に満ちた眼差しに、言葉を発した


「レイン。何か確証があるのか?

俺もアイリス嬢が聖女である確信がある。

場合によっては秘密を話そう」

「もちろんボクなりにアイリス嬢が聖女であると信じている。

というか……ここへ来て信じざるを得ない。

少し人を外して三人だけにしてもらえるか?」


レインの要望に俺は速やかに応え、この場は三人だけになった。

レインは話し始めた


「いずれ皇帝になるお前に話せば全て筒抜けみたいなものだが、ボクの秘密を話そう。

実はボクは人に見えない者が見える時がある。

妖精と呼ばれる存在だ。

大体は青や赤などの光が見えるが、時折子供の姿の妖精が見ることがある。

何度かその赤や青の光から妖精が生まれた瞬間も目の当たりにしている」


「妖精が見えるのか?」


俺は驚く。

だがレインに限ってこんな嘘を付くような男ではないと知っている


「殿下。わたくし殿下が妖精が見えるのは子供の頃から聞き知っておりますが、光から生まれるのは初めてお聞きしました。

ですがそれが何故。アイリス様が聖女に目覚めたと繋がるのでしょうか?」


エリザベスがすかさず疑問を口にする。

レインは俺に微笑みかけた


「デューク。アイリス嬢はこの部屋から廊下を挟んだ三つ先の部屋に居るのではないか?」

「ああ。確かにいる。

俺はまだ居場所まで話していないが……そうか!護衛の騎士で判断したのか?」


アイリス嬢の眠る貴賓室の扉を、騎士二人が守っている。それで勘づいたのかもしれない


「確かにいるね。

だがそれだけではないんだ。

この大使館へ近付くにつれてその妖精の元となる色とりどりの光が濃くなった。

そしてその光の渦の中心があの部屋だった。

ボクの生きてきた人生の中でもこんなに光溢れる美しい光景は初めてみる」


「それでアイリス嬢が聖女の力に目覚めたという結論に至ったのか……。

そうその通りだ。

あのお前が指摘したあの部屋にアイリス嬢は休んでおられる。

俺も、もしレオンの話しを昨日聞いていたら信じてはいなかったかもしれない。

だが今は信じるよ。

友よ。私の話も聞いてくれ」


光の竜の事は省いて、俺は先程のネックレスから迸る光の話をした


「あの光に包まれて、俺はアイリス嬢を守らなければならないという、強い想いに芽生えた」


俺は流石にこのアイリスを愛おしく思う感情のことは話せなかった。

エリザベス公女が尋ねた


「それでは殿下。

アイリス様をこれからどうなさるおつもりで?

帝国には聖女を認定する試験というものがあるとお聞きしました。

もし殿下がアイリス様を聖女とお思いでしたら、帝国へお連れになってその試験を受けさせるのですか?」


「下らない……」


俺は思わず言葉を漏らした。

目の前のエリザベス公女がキョトンとした顔でこちらを見ていた


「済まない。これは決して公女様を蔑ろにした言葉で無いのです。

帝国の教会が定めた試験とやらが、馬鹿らしくてつい漏らしてしまった……」


帝国は〈愛の女神マーリア〉を信仰する【女神教】の力が非常に強い。

これは聖女が〈女神マーリア〉の化身とされ、それを歴代の聖女も公言してきた。

奇跡を目の当たりにしてきた人々は【女神教】を信仰するに至った経緯がある。


先々代皇帝が異民族の国家をまとめるのに、信仰する人数の多い【女神教】を国教と定めた。

それを先代皇帝が更に推し進め【女神教】教会の力が強くなり、今は皇権と権力を二分する程の力を持つに至った。

そしてその時に聖女が現れたら教会の指揮下の元、本物の聖女か否かの試験を行うと定められた。


表向きは本物の聖女か見極める為らしいが、実際のところは聖女を教団の保護下……というよりは支配下に置きたいのだろう。

もし聖女が本物でそれを教団が異のままに操れるのなら、帝国の様々な意思決定にも絶大な影響力を行使することが出来るから。


だが裏を反せば本物の聖女でも、教団が聖女認定試験で合格を出さなければ、聖女として認められないことになる。聖女になるには教団の意向に従わなければらない。


本来ならば聖女あっての【女神教】であるのに、聖女の上に教皇や枢機卿が君臨することになる。


デュークの本能はアイリスを聖女としている。

女にはさほど興味がなく〈運命の出会い〉とやらも初めは馬鹿にしていたが、今は紛れもなくアイリスを【運命の人】と確信している


「俺とアイリス嬢を包んだ光は、残念ながら他の人には見えなかったようです。

もしあのような神々しい光が多くの人々に視認できるのならば、聖女認定など馬鹿な試験を受けることも無いでしょうに。

聖女様は愛の女神マーリアの化身であると、伝承では記されています。

ですが今の制度では教団が気に入らなければ、その化身を『聖女ではない』と傲慢にも宣言する事が出来てしまうのです」


それが〈聖女認定試験〉通称【聖女降臨の儀】の恐ろしいところ。

聖女認定の基準が教団の胸先三寸なのが馬鹿らしい


「もし聖女に選ばれなかったら、アイリス様はどうなるのですか?」


エリザベートが不安を口にする


『そん時は俺が教団と袂を別ってでも、聖女の宣言をするさ!いくら教団がダダを捏ねても、本物には敵わないだろうからな』


そう思ったが、公女にそう告げる訳にもいかない


「正直分かりません。

相手の出方は予想は出来ますが、実際どう動くかはその時が来てみなければ分かりませんから。

ですが俺は例え教団を敵に回してもアイリス嬢を守るつもりです」


それよりも公女はアイリス嬢の容態が気になって来たのだろう?

まだ気を失ってから目覚めの報告は受けていないが、様子を見るだけでも安心するかもしれない


「公女様。今からアイリス嬢の眠る部屋へ案内致します。一目だけでもご覧になれば、きっと安心されることもあるでしょうから……」

「是非にお願いいたします」


そして部屋に着くと双子の侍女は下がらせた。

馴染みのあるリリ嬢とララ嬢のみが同伴した方が落ち着くだろう。


部屋に入るなり、レインは感嘆の声を上げる


「これは凄い……妖精の光がアイリス嬢の周りを幾重にも包んでいる。

アイリス嬢は聖女の力に目覚めたんだ……。

これはボクが保証する。

アイリス嬢は聖女で間違いないよ」

「わたくしには何も見えなくて残念です。

ですが、アイリス様が聖女の力に目覚めたのでしたら、一体どのような運命を担うのか心配です」


エリザベスはベッドの傍に行き、屈んでアイリスの顔を覗き込んだ


「アイリス様。ごめんなさい。

わたくし貴方様をお守りする事が出来ませんでした。

幾つか根も葉もない噂話を耳にしていたのに、対処を怠りました。

まさか貴族の御令嬢方が集団であのような行為に及ぶなんて、思いも致しませんでした。

今に思えばわたくしにも幾らでも対策のしようがあったのに、申し訳ありません。

貴方を深く傷付けてしまいました……」


エリザベスはアイリスの手を暫く握っていた。

レインがそんな彼女の傍に寄った


「そろそろ行きましょう。

明日は早いですから……。

アイリス嬢がもう少し落ち着いたら、また二人で会いに来ましょう。

さあ……」


レインが手を差しのべ、エリザベスはその手を取った


「わあ!何ですのこれは!」


エリザベスが驚きに目を見開いている


「レイン殿下の手に触れたら、世界が光に溢れました!

そしてアイリス様の体が七色に輝いています!

ああ……わたくしにも分かります。

アイリス様は紛れもなく聖女でございます!」


エリザベスは暫し放心してその光景を眺めていた。














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