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アイリス・ユークラリス伯爵令嬢

乙女ゲームの異世界へ女子高生の楓が転生するお話です。

異世界に戸惑いながらも恋に青春に学園生活を送ります。

そしてイロイロあって成り上がっていきますよ!

よろしくお願いいたします。



日木─22:00 投稿です。


#その時間には投稿済みです!

ペーぺーなのでその前の時間帯、手動で投稿してます。




 

色とりどりの花々が咲き乱れる庭園

緑鮮やかな芝生をドレスのまま疾走する美少女


「リリ!ララ!さぁ!アイリを捕まえてごらん」


弾けるような笑顔で、後ろを振り向き挑発する


「お嬢様!お嬢様!お待ち下さい」

「おじょぉ!おじょぉ!待っちっち」


追いかける緑の髪と青い髪の少女たち。

もう息も絶え絶えだ。



ここはユークラリス伯爵邸。

フォラリス王国の王都フォラリアスから、馬車で5日の距離、伯爵領レデル地方にある本邸。 


午後のティータイムを家族団欒で過ごした美少女は、隙をみて脱走!もう20分も追いかけっこをしている。


ピンクの髪を靡かせ、頬を薔薇色に染めながら、ドレスの裾を掴んで両足をこまねずみのように(せわ)しく動かし、走り回っているのは


 アイリス・ユークラリス

 伯爵令嬢。


髪はピンクブロンド。

朝方丁寧に編み込まれた髪を


『頭が痛い!』


という理由で、ぐしゃぐしゃにしたばかり。

でも生来のストレートヘアはもうクセもなくなり、腰まで伸びた髪を風に精一杯なびかせている。

えっと、まだ走っている。


着ているドレスは大好きなピンク色。

所有しているドレスの半数もピンク色。

ドレスのシルエットラインやピンクの濃淡で工夫しているが、アイリス=ピンク女で定着している。


顔はすんごい美形で瞳はバイオレット。

紫水晶のように煌めかせ、やたら無邪気な光を目に宿し、突っ走りながらキョロキョロと目移りしている。


 お花が綺麗。

 草が青い。

 空ももっと青い

 ララの髪も青い

 リリは緑

 草もやっぱり緑

 雲が美味しそう

 あっ蝶々さんだ


思考と行動が幼稚な美少女はこれで15歳。

本日誕生日を迎えたばかりのホヤホヤだ。

でも、体は年齢相応。

胸は年齢不相応。

おでかいのですわ。

コルセットでビシッと締め上げて、ドレスも露出を抑えて首の辺りまで布に覆われているのに、なかなかの存在感。



アイリスは王都にある《白薔薇学園》の生徒。

今は、8月の長期休暇の里帰り帰省中。

5学年あるうちの2学年生で、休暇明けの9月から3学年生に進級する。


【白薔薇学園】は貴族の子弟が主に通う学園である。

平民も裕福な者や有力商人の子息、更に成績優秀者も奨学金を得て通う者も少なくない。

教養と社交が主な目的で、貴族の場合成績の良し悪しは進級に何ら差し障りもない。

有り体にいえば、テストも受けず勉強も何もせずとも卒業だけは出来る。

奨学金を受ける者は一定水準を維持しなければ、奨学金も打ち切られ卒業はおろか進級さえ危うくなる。


ちなみにアイリスは成績は言わずともがな、どんけつ街道まっしぐらで、テスト用紙にお絵かきするレベルである。提出という概念がなく、お絵かき終えたら遊びに行くお子様だ。

それでも勿論、余程のことがなければ進級、卒業まで確約されている。


もうお分かりと思うが、アイリスは心が幼女のまま成長した15歳の女の子でありんす。



 お世話係も大変だ。



「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、お嬢様ぁ~。もうダメです。疲れましたぁ~もう、走れませぇ~ん。はぁ、はぁ、足がつりそうでぇすぅ~」


アイリスを追いかけて、ふらふらと足取り覚束ないのはリリ。緑の髪に瞳、緑の侍女服を着た16歳の美少女だ。


「ほぉ、ほぉ、ほぉ、ほぉ、

おじょぉ~!おじょぉ~!待っちっち!もう止まるっち!

あっちはもう死んでしまうっち!」


ちっち、ちっち、うるさいのがララ。

舌ったらずのこちらは13歳、青い髪のこちらも美少女だ。

青いメイド服を着用している。

背丈は小さいのに巨乳。

走るたびにゆっさゆっさ揺れる。

容赦なく体力を奪っているに違いない。


─ほぉ、ほぉ、ほぉ、ほぉ。─


と訳のわからない息づかいで、三歩あるいて五歩走るを繰り返してる。



リリは侍女。


ララは侍女見習い兼メイド。


どちらも《白薔薇学園》に同行し、学園寮でアイリスと共に暮らす。学園生ではなく、あくまで使用人としての扱いだ。


「さあ早くぅ~!捕まえてごらん!

わたしを、アイリを捕まえたら、父様がお菓子をあげるわ!」


勝手にお菓子係を決めつけ、逃げ惑うアイリス。


その当のお菓子係は


「いやはや元気でなにより。我が愛しのアイリスは、こうでなくてはな」

 

愛娘にメロメロな視線を送るのは

ロベルト・ユークラリス伯爵。



「アイリスもう疲れただろう?

さあ父様とまた、ティータイムと洒落込もうではないか?先程アイリスが食べ尽くしたお茶菓子は、もう用意させたぞ。

もちろんリリやララの分もあるぞ」


親バカ甘々炸裂し、アイリスを目に入れても痛くないくらい可愛がりまくりの父である。

シルバーの髪にアンバーの瞳。

髪を後方に撫で付け右前髪を垂らし、口ひげを生やしている。

まさに貴族!結婚式でもないのに白いスーツに身を包み、それが小憎らしいほどに似合っている。もう40歳にもなるが、その爽やかな容姿は年齢を感じさせず美丈夫ぶりを発揮している。


その隣にはロベルトに肩を抱かれ、レースと刺繍で洗練された白い日傘を差して、アイリスを目で追う貴婦人がいた


「まぁアリーったら、相変わらずのお転婆さんね」


コレまたレースと刺繍で飾られた扇で口元をかくし、うふふと笑う

その姿はまるで、アイリスの生き写し。

ピンクブロンドの髪に、瞳もバイオレット。

端正な顔立ち。

目鼻口それぞれのパーツが自己主張しながらも、収まるところにキチンと寸分違わす鎮座まします、これまた見目麗しき美女。


 シェレイラ・ユークラリス伯爵夫人


アイリスの母である。


年齢はロベルトより半回り下の34歳ながら、その薔薇のような存在感と輝く美貌で、コレまた年齢を感じさせず一回りは若く見える美魔女だ。


かつてはロベルトと共に舞踏会の花形として、一世風靡し、令嬢貴公子共々羨望の眼差しを受けてきた。

そして今は舞踏会の一線かからは退いたものの、相変わらず注目の的となっている。


「貴方。昔を思い出しますわね。

あの頃は私がまだ12~3歳くらいだったかしらね。

今のアリーのように走って逃げる私を、いいお年をした貴方が追いかけてましたわ。

『捕まえたら姫の唇を奪わせていただく』なんて。

(わたくし)と致しましては、キス魔の貴方から逃れる為に走っていたのですよ。

もし捕まったら一時間も顔中キスされますので、それはそれはもう(わたくし)は必死でしたもの」


「懐かしいなぁ。

あの頃は可愛らしい(婚約者)が、早く成人を迎えてくれぬものかと随分首を長くしたものだ」

「その割には、その姫とやらを差し置いて、あちこちつまみ食いをなさっておいででしたが?」


シェレイラは悪戯っぽく微笑む


「それをいってくれるな姫よ、いや、今は我が女王様であらせられますかな?

つまみ食いのおかげでいささか、口が肥えましてな。今は目の前のメインディッシュ以外満足出来ぬ舌と相なった次第ですぞ」


とおどけて舌をだす。

そのロベルトの舌を摘まんでシュっとひっぱり


「でもこの舌もこの頃お痛が過ぎましてよ、メインディッシュ以外に(わたくし)のかわいいデザートにも舌鼓を打っておいでてすわね。

まぁそのデザートも満更でもないのが、なんともいえないところね……」


ロベルトはアイリスにも、キス魔は健在だ。

物心つく前からそうであるから、アイリスも日常の当たり前と化している。

当のアイリスはされるがままだが、何か興味を引く別の何かが見つかったら、ロベルトを一顧だにせず走り去っていく。


 それを見送る背中が哀愁を誘う。


「あらあら、あのふたり大変なことになっているわね。

後でちゃんと御褒美あげなくては」


シェレイラその視線の先には両足をつって、動くに動けないリリ。女の子すわりで両手を地面につき頭を垂れ、下唇を噛み涙ぐんでいる。


もうひとりはララ。

すぐ側で足が(もつ)れて転び、その胸部の膨らみが弾力となりケガから守ってくれたが、極度の疲労のためうつ伏せのままピクリとも動かない。

過ぎたる双丘のため顔が地につかず、代わりその頭の先が地面に置かれている。


そのふたりの周りを


「鳥さん鳥さん。アイリは鳥さん」


アイリスは両手を平行に伸ばしてパタパタと羽ばたき、ぐるぐる回っている。


姉様(あねさま)!そろそろ紅茶が入ります。

休憩がてら楽しみましょう」

「あっ、アラン!」


アイリスは鳥さんになって飛ぶのを止め、その場でピョンピョン跳ねながら手を振る


「父様がお菓子を用意してくれました。

 姉様の好きなマカロンも色とりどり沢山ありますよ。

 此方へ来ませんか?」

「うん、行く行く!

 リリとララも連れて行く」


リリとララが捕まえられなかったお転婆姫を、見事(おび)き寄せるこの少年の名は


 アラン・ユークラリス


次期伯爵だ。

ロベルトに良く似ているが、実の子供ではない。

他家を継いだロベルト伯爵の実弟エドガー・アラファルト子爵の次男である。

もしアイリスを嫁にと貰い手がなければ、そのままアランの妻女として伯爵夫人となる可能性もある。


 14歳。


明日8日8日で15歳になる。

たった1日違いで弟の身に甘んじているが、高身長と落ち着いた雰囲気、それとアイリスの幼稚さも相まって誰がどうみても兄である。


グレーの髪にアンバーの瞳。

ロベルトによくに似た顔立ちながら、繊細で線が細くどこなく守ってあげたくなる。

アランの前髪は長く、隙間から覗く切れ長の眼と長い睫毛。そしてアンバーの瞳は複雑な感情を秘めた深い色で憂いを醸し出す。

その瞳は魔力を帯びたかのよう、幾人かの学園の令嬢を本人の知らぬ間に恋の病に突き落としていた。


白薔薇学園では、精神年齢幼女のアイリスの保護者的立ち位置で、落ち着きのない姉の手を引き移動する姿を見ない日はない。


「姉様!お手伝いしましょうか?」


アイリスがリリとララ相手に奮闘する姿に、助け舟をだす


「だいじょーぶ、アイリひとりで出来るよ」


アイリスはリリの手をひっぱり立たせた。


「お、お嬢様。まだ、あ、足が……足が……」


つった足が治り切らないうちに無理に立たされ、生まれたての小鹿のように、足をプルプル震わせている。


それからうつ伏せのララの後ろにまわりこみ、無理くり立たせようとする。


 ほわっ!


海老ぞりになり変な悲鳴をあげているララを見かねて、リリが足を震わせながらも、アイリスとふたりがかりでララを(もうや)く立たせた


「父様ぁ~!母様ぁ~!アラン~!」


と手を振り、ドレスの裾を持ち上げる。

いかにも走りださんとする姿に危険を察知したリリは、その裾高々とあげる両手首をガシッと掴む。



 ゴン


 はぅ!!!



アイリスがいきなり頭突きを食らわした!


頭を抑えて前屈みになるリリ。


そして自由になった身を踊らせて、アイリスに手を振る三人の元へ向かう。

慌てて後を追うリリとララ。

ふらふらだ


屋敷に近い方の庭から、奥の方へ。

ここは高くなっていて、奥へ行くには途中で10数段ある階段をおりなければならない。

だがアイリスは減速もせず更に加速する。


アラン達三人からはいまアイリスの全身はみえない。

階段脇の垣根に隠れて、アイリスの頭半分だけが物凄い勢いで滑ってみえる。

垣根は緑々していて白い大輪の花が咲き乱れている。


その切れ目。

長々と続く垣根にポッカリあいた空間。

階段に至るそこへアイリスの全身が現れる。

得意満面の笑みで、ドレスの裾が太ももまであがり、下着のドロワーズが見え隠れしている。

アランが叫ぶ


「姉様!危ないよ!階段が!気をつけて!!!」

「大丈夫!慣れていますもの!!!」


そう、アイリスは全力疾走で階段を駆け降りる凄技を持っている。今まで何度となく披露してきた十八番(オハコ)だ。

だが、アランは嫌な胸騒ぎがした。


ふと一匹の蝶が目に入った。階段すぐ脇の垣根の白い花。ちょうど蜜を吸い終わったのかふわふわと羽をはためかせ、階段を駆け降りんとするアイリスの目の前に現れた


「わあ!綺麗!!!」


思わずアイリスは(てのひら)ほどもある青い蝶を捕まえようと、両手を差し出した。

自由落下したスカートの裾が、今まさに大きく踏み出された足に絡んだ




 宙に舞うアイリス・ユークラリス




アイリスはその身を縦に半回転させて、瞬く間に頭が下となる。そのまま垂直落下



 ゴンッ!



 嫌な音



 階段から伸びる石畳に頭頂からぶつかる


 体は地に突き刺さるように天に真っ直ぐ伸びていた。


 スカートの裾が捲れ


 ゆっくりと仰向けに倒れだす


 そして倒れたままピクリとも動かない


 まるで眠っているかのよう


 白い抜けるような肌




 赤い一筋が、小さな唇の端からツーと伝う





 アイリス・ユークラリス伯爵令嬢は


 

 この日 



 命を失った













はじめまして代千代みなみです。

よろしくお願いいたします。


読んでいただきありがとうございます。


乙女ゲームの舞台だけど、異世界の人々も悩んだり、恋したり、みんな一生懸命生きてるって姿を見てほしいな~と願っています。


もしよろしければ、ブックマーク登録やポイントをお願いいたします。



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