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買い物中に友維がお腹を抱えて蹲った。
「な、何者なんだお前っ」
笑い過ぎて辛いらしい。
おかしい事を言ったつもりはまるで無いのだが
「はー、ひー」
ショップの店員さんが僕達の元に歩みより
「失礼ですけどファッションコーディネーターとか何かそういったご職業の方でいらっしゃいますか?」
と聞いて来たので
はい?いや。普通の高校生ですけど。
どうしてそんな事を聞くのか友維が問いただすと
そもそも平日の昼間にウロウロしている挙げ句
「連日モデルさんのような素敵な方とご一緒に御来店なさって。」
「いろいろとコーディネートしているようでしたので。」
この時点で友維はもう笑いを堪えていた。
「いろいろって?」
「何に合せて着るのかとか。似たような色で持ってないかとか。結構細かく。」
バッと僕を見る。もう完全に呆れていた。
「ど、どうでしたプロの店員さんから見てこいつのコーデ。」
「え?ええ素敵でしたよ。流行りもちゃんと取り入れてましたし。」
「何で。何で流行りとか知ってるんだよっ。」
何でって。3人の魔女がファッション雑誌見て研究しろって
それぞれが好みを押し付けてくるからつい楽しくなって。
とは言えない。
いやまあホラ、イロんなショップ見てると何となくこれ推してるんだなぁが判るから。
と、こんな経緯でもう堪らずしゃがんで笑い出した。
驚いたのは店員さんだった。
すみません。笑ってるだけなんで。
「だって。だって。こんな地味な引き籠りの蝙蝠野郎が。」
「調子に乗ってよりによってあの3人にファッションコーデとか。」
「何者なんだってか何様なんだよっ。」
酷い悪口を言われている気がする。
店員さんは「モデルのような」中身を差し引いても
僕の選択肢については「素晴らしかった」と褒めてくれた。
やはり初日の絢さんのスタイルには店員さんも注目した。が、
逆に「ヘタな物を勧めると店のブランドイメージが下がる」的な意識が働き
積極的に声を掛けなかった。
小室さん本人に「理緒はどう。どっちが好み。」と聞かれたら
魔女達に教わった知識を総動員して応対するのは当然だ。
「ちょっと参考にしようかって店員同士で話してたくらいで。」
とまで言ってくれたので友維がまたお腹を抱えた。
「ちょっやめっ。」
ひとしきり笑い倒して
「あーびっくりした。まさか兄にこんな才能があるなんて。」
「折角だから私にもコーデしてよ。」
好きな服着ろよ。
「何だよ面倒臭がるなよ。」
そうじゃなくて。先ず好きな服選ぶのが先。
本当は他人がどう思おうと本人がそれを気に入ればイイ筈なのに
どうしてこうも人の目を気にするか。
「ブツブツ言ってないでホレ。」
妹と2人で過ごすなんていつ以来だろうか。
再会して1年。まだまだ「身内」に戻れていない。
時折無理矢理「ため口」を使うのだがどうにも慣れない。
当初「今更妹と言われても」と皆に打ち明けたら
「馴れ馴れしいと思われるくらいでちょうどいい。」と言われた事がある。
友維はそれを実践している。多分誰かに言われたのでもなく
そうする事で10年分の距離を縮めようとしているのかもしれない。
同時に何が原因なのか突然僕を突き放す事もある。
「憎み」や「恨み」なのではないかと気に病むと
今度は突然抱き付いてくる。どう対応しろって?
夕方。食材も買って帰宅。魔女達はまだ帰宅していない。
指輪の事は皆には言わないでね。
「んー。まあ判るけどさー。」
友維はそこまでする必要があるのか。と聞いた。
本当はね、1人で出掛けるつもりだったんだ。
紹実さんにバレていて小室さんと橘さんに引き合わされた。
あの2人なら僕の「しようとしていること」を理解するだろうから
あの2人ならきっと引き留めてくれるだろうから。と。
僕はまんまとその策略に乗った。
既にたくさんの人を巻き込んでしまっている。
今更1人でどうこう出来る状況ではない。
ただ、最悪の事態には備えないと。
指輪が奪われたら僕はどの程度で動けなくなるのか。
それを知るためだけにも続けたい。
魔女達に見張られていたのではほんの僅かな体調の変化でも心配するだろう。
「そんなん指輪してようとしてなかろうと心配するだろ普通。」
だからこそ、注意を逸らし続ける必要がある。
嫌われているくらいが丁度いいんだよ。
「友維も皆に合せて僕を嫌ってくれると助かる。」
とは言ったのだが
魔女達は実に晴れやかに、にこやかに帰宅した。
出発前数日僕を無視していたのは何だったのかってくらい
馴れ馴れしく、親しみを込めて接してきた。
修学旅行で何かあったのだろうか。
お土産(と一部の荷物)が明日届くので話はその時に。
と、魔女達は夕食を済ませると早々に部屋に戻った。
「何か予定と違ってないか?」
友維も戸惑っている。
そう、なんだよね。どうしたらいいかな。
「私に聞くなよ。」
「黙ってればいいじゃん。お前得意だろ?」
紹実さんは意地悪だ。
単純に修学旅行が楽しかっただけかもしれない。
僕の存在を忘れて遊び倒しただけかもしれない。
「全部話せよ。いい機会だろ。」
何の為に修学旅行をさぼったのかまるで意味が無くなるような。
「どっちにしたって行かなかったんだろ?」
僕は修学旅行に行かない理由が欲しくてこんなバカな事をしているのか?
男子の友達がいなくて、どこの班にも混ざれなくて
それを拗ねて「もっともらしい理由」としてこんな事をしたのか?




