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姉の宮田杏には余りある力を持て余している同士がいた。
発散させて、それを受け止めてくれる友達もいた。
宮田桃には誰もいなかった。
ただひたすら道場で汗を流した。塾生達では誰も叶わない。
それどころか「私相手でも本気だしてないよ。」と小室さんは言った。
相手がどうなるのか怖くて抑えてしまう。
ではない。
自分がどうなるのか判らないから怖い。
破壊的な暴力衝動を抑える事が出来るのか。
人を叩き斬る感触に快感を覚えてしまわないか。
何か、何か僕に出来る事はありませんか。
「どうかな。私には判らないよ。」
「それに、それにな理緒。」
魔女の魔法と違って、桃の力はやがて失われる。
「普通の人と変わらなくなるんだ。」
培った剣道の技術が失われたり、極端に体力が失われるような事はない。
それでも「まるで化物」のような驚異的な身体能力は、ある日突然ゆっくりと下降を始める。
早い者は10代中盤から。遅くとも20代中盤。
「桃はこれからその恐怖とも戦わなくちゃならない。」
「それを受け止める覚悟がなければ、簡単にあれしろこれしろなんて言えないよ。」
「お前にできるのは、友達を続ける事だけだ。」
宮田桃が何者であろうと、何者になろうと。
強かろうが弱かろうが、変わらず宮田桃と友達であり続けると証明する事だけだ。
「と言ってもお前はもうそれを証明したんだけどな。」
え?いつ?
その後、僕は素敵な女性とのデートを満喫していた。
ショッピングモールでただフラフラしただけだったが
男女問わず目を向ける人の何と多い事か。
小室さんは全く意に介さず僕なんかを相手にとても楽しそうに笑ってくれる。
帰って友維に「いつまでニマニマしてやがる」と言われるまでずっとニヤけていた。
「そんな締まりの無い顔晒してたのかよ。」
「そんな事じゃいつまでたっても絢姉ちゃんとは釣り合わんな。」
釣り合うって何だ。そんなつもりは無い。
「じゃあどんなつもりなんだよ。」
どんなつもりもない。小室さんがどんな人と結婚しても祝福できるし、同時に嫉妬もする。
勿論祝福のが大きいけどね。
「じゃあ兄ちゃん本命誰なんだよ。」
本命とかいないっつーの。
「より取り見取りだからって調子こいて油断してると皆すぐに」
友維の言葉が止まった。
どうした?
「いや、なんでもない。」
なんなんだ?
帰宅した紹実さんと夕食を共にして今日の行動を報告した。
勿論神社での一件も含めて。
紹実さんは心配(もしかしたら興味かも)するが
「結いる時にでも試すんだな。」
あまり深刻には捉えていないようなので問題ないだろう。
「で、ニマニマしてるのは何が原因なんだ?」
「絢姉ちゃんとデートしたってんで舞い上がってるんだコイツ。」
デートのような。だろ。
「アイツな。スタイルいいし美人だしよく笑うし。」
素敵な人ですよね。
「お?本気か?本気なら手を貸すぞ?アイツの弱みとか教えてやるぞ?」
何ですかそれ。脅迫のタネなんて要りませんよ。
「憧れでいいんだってさー。」
「何だそりゃ。ヤメロそんなの。恋愛なんてもっと単純でいいんだよ。」
「ホントだよ。もっと言ってやってよ姉ちゃん。」
「より取り見取り何だからとっとと手ぇ出してモノにしちまえよ。」
何て事を言うんだ。しかも姉妹で似たような事言いやがって。
実は本当に姉妹なんじゃないか?
フと、
三原紹実。市野萱友維。そして僕、御厨理緒。
長女、次女、長男。の設定なのに皆姓が異なる事に改めて気付く。
以前紹実さんが魔女の自己紹介は「○○家の誰それ」って名乗り方が一般的だと言っていた。
それは魔女が(基本的に)血統による継承者が多いから。
子に名乗らせて恥ずかしくないような家名であろうと
代々、「魔女」として正しい事をしてきた誇りの証でもある。
ただ僕にとって「姓」はただの記号でしかない。
素敵な姉と頼もしい妹がいるものの、2人とは異なる姓。
僕がどの家の誰であろうとそれは変わらない。
もっとも僕は魔女ではないが。
ん。そんな事より。
「そんな事ってお前。」
いやそんな事より。ですよ。
箸を置いて、改めて紹実さんに感謝を伝えた。
紹実さんが小室さんに連絡してくれたんでしょ?
「え?いやまあ。」
ありがとうお姉ちゃん。
「ぐあっ。」
ぐあ?
「こ、こいつ。」
「うっ姉ちゃんもしかして。」
「ちょっとやられた。」
「だから注意しろとあれほど。」
「姉まで落とそうとするとか正気かコイツ。」
「だからオトスとかそんな気が毛頭ないから天然なんだってば。」
「ああそうか。ああそうだ。なんだこいつ。性質悪いな。」
「だから害虫だって言ってるじゃん。」
害虫呼ばわりしているのはきっと僕の事なんだろうな。
「いや違うぞ友維。コイツはやっぱり魔女だ。」




