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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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次の行事は修学旅行。

僕は行かない。

中学時代の修学旅行も当然のように休んだ。

身体が弱いのは担任も知っていたから驚きもしなかった。

「無理して来なくてもいい」とまで言わた。

「身体が弱い」

本当は友達がいないから。班が作れないから。

とにかく班行動ってやつが嫌いだ。

出席番号や席順で作られるのならまだしも

「好きな者同士」とか「適当に」とか

教師が無責任に丸投げする班には何処にも属せない。

1人残って佇んでいても

「どこか余ってる奴入れてやれ」だの

「仲間外れはよくないわ」だの傷付く事をさらりと言われる事もなく、

「全員決まったな。」と班作りは終了される。

小学生の頃、何度か学校の旅行で置いて行かれそうになったり

連絡事項が僕の元まで届いていなかったり、結構大変な目に合った。

皆はどうしていたのだろう。

彼女達も、それぞれ孤立していたような事を言っていた。

学校の旅行くらいは参加したのだろうか。

「行ったわよ。何処の班にも入れない余りモノの人達と班組んで。」

「そうそう。女子ってグループの入れ替わり結構あるから。」

「残酷よねー。昨日まで仲良かった筈なのに今日学校行ったら無視されるのよ。」

「あーまたやってるなーくらいにしか見て無かったけどな。」

「旅行の班より多いグループなんて大変よ。}

少し前から「絶対一緒の班になろうね。」なんて約束したのに

その約束した2人だけハブられた。

「だから結構班は組めたかな。それに班ってもその場だけで殆ど自由行動だし。」

蓮さんと葵さんは盛り上がっていた。

高校生になってもあるらしい。誰がどの班でどうのこうの。

ただ高校生にもなると溢れそうな者は

あらかじめ他の班に擦り寄ってアタリを付けておくのだとか。

なんとも面倒なコミュニティだ。

藍さんは何も言わなかった。

「私も行きませんでしたから。」

彼女の行かなかった理由は僕の事情とは異なる。

触れて欲しく無かった過去。知られたく無い過去。

それは親に見捨てられ、兄に殺されかけた彼女に追いうちをかけた現実。

そうなる前は、彼女は明るく優しい少女だった。

小学校にも友達はいた。特に仲の良かった子もいた。

家を出て、1人で暮らすようになった彼女はそれでも気丈に

学校では何も変わらずいようと明るく務めていた。

苦しかった。悲しかった。辛かった。

これからずっと一人ぼっちなのかと1人きりの家で泣いた。

定期的に藤沢家から使用人が世話をしてくれるから生活で困る事は無いが

小学生の女の子に「捨てられた」現実を受け入れろなんて無理だ。

同級生のその友達たちに、何かを期待したって当たり前だ。

現実はもっと残酷だった。

誰の親がどのような経緯で耳にしたのだろうか。

「あの子は捨てられた。」

子供達の間にその噂が広まるのは速かった。

「魔女の子だから捨てられた。」事実さえも、知られてしまった。

気が付くと誰もいなかった。仲良しだと思っていた子も恐れ逃げた。

それでも藤沢藍が魔女で有り続けたのは、

それだけが自分と母親を繋ぐたった一つの絆だったから。

彼女は僕以上に、「自分とそれ以外」を徹底していた。

僕には祖母がいた。僕を救ってくれる人がいた。

彼女はずっと1人だった。

中学生になっても孤立は続く。

美人な彼女は男子から声を掛けられるが冷たくあしらう。

それを知った女子達が「調子にのってる」と彼女を囲う。

藤沢藍はそんな奴らを魔女の力で黙らせた。

孤立している事を教師は把握していた。

だから彼女が「旅行には行かない」と言っても残念なふりをして喜んだ。

藤沢藍が、それを見抜けない間抜けなら救われもしただろう。

藤沢藍が、渡良瀬葵と神流川蓮を「友」と呼ぶのは2人が魔女だからではない。

彼女達が「傷みを共有しよう」としてくれたから。

「碓氷先生がこの学校に誘ってくれなかったら。」

「それは私も同じ。」

「私もな。」

それぞれがそれぞれに「まだ見ぬ友」に期待をしていたと言った。

その理由こそが「魔女」だから。

「自分と同じように魔女であるから孤立したのかも」ではない。

もっと単純だと笑った。

「マジョバナが出来ると思ったからよ。」

マジョバナ?魔女話の略?

「同じ趣味してるねー。的な事ですよ。」

ああそうか。3人が僕を「友」と言ってくれるのもそれが理由なのか。

「でも今年は行きなさいよ。」

はい?

「藍ちゃんも今年は行くって。」

「行く気はなかったのにリナちゃんが仕切って私も班に入れられてしまって。」

「私と葵ちゃん。カナちゃんに桃ちゃん。」

グレタは一緒じゃないのか。

「委員長と一緒に別の班よ。そうしてって頼んだの。」

短い留学期間でずっと同じ連中と一緒じゃ勿体ないと配慮した。

「それに班だけでの行動なんて無いしね。現地着いちゃえば皆一緒でしょ。」

「班なんて教師が楽したいから作ってるだけだ。」

「だから行きましょ。適当に班に入って着いたら一緒にいたらいいじゃない。」

ごめん。もう届出しちゃったから。

「なんだと。」

「何やってんのよっ」

僕も女子だったら良かったのにね。

「ちょっと今そんなのどうでもいいから。届け出したって何。」

何って、そのままだよ。不参加の届。

実はこの事で紹実さんとも少し揉めたりもした。

小、中学生の頃とは事情も違う。体力もそこそこ付いてきた。

「皆悲しむぞ。」と言ってくれた。

本当の理由と、

たまには皆に僕の御守りから開放してあげたいってのもあるんだ。

と言ってようやく納得してもらい、その届に印を押してもらった。

「班が作れないなら別に1人でもいいじゃないですか。」

藍さんが少しとんでもない事を言い出した。

「沖縄に一人旅ですよ。」

「飛行機も宿も私が用意しますよ。」

本当にできるのだろう。

有難いけど、予定は決めてあるんだ。


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