09
HR終わりで早速碓氷先生を訪れると
「さあな。グローブ以外の増幅アイテム使っているか、」
彼女はニヤリといかにも悪人のように微笑み
「お前らより強い魔女か。だよな。」
うわあ煽ってるよこの人教師のくせに生徒を煽っている。
反論する一瞬前に
それより気になる事がありますっ
慌て話題を変えた。
あの子達たはどうして僕の指輪を知っているのでしょう。
「噂流したからに決まってるじゃん。」
噂?じゃんて何だ?
「理緒の指輪にキスすると最強の魔女になれるって噂。」
は?ナニソレ。この人は何を言っている?
狙われているのではなく、狙わせている?
もしかして噂を流したのは近場の魔女の所在確認したいから?
「うおっお前はエスパーか。」
簡単な推理だ。対象を魔女に限定した噂。
僕は囮にされている。
「そんなに怒るなよ。」
僕の事じゃない。
守護者である3人の魔女が危険な目に合わされている。
「こいつらはそれも承知の上だよ。なあ?」
「まあそうね。」
どうして態々魔女に襲わせるのか理由を教えてください。
「本当に指輪を狙っているのは魔女じゃない。」
本当にこの人は何を言っている。
「放課後ちょっと残れ。」
放課後を待たず、僕は全てを知る事になる。
2時間目の授業中だった。
校内放送で職員室に呼び出された。
「送っていく。乗れ。」
碓氷薫のこの顔は見た事がある。
祖母が亡くなったあの日、僕に向けた顔。
イヤな胸騒ぎ。
だが彼女の言葉は僕の予想とは全く異なっていた。
「お前の父親の形見が届いた。」
形見?形見って何だっけ?
紹実さんは僕を抱き締めてくれた。
ノトも僕の足ににずっと体を摺り寄せてくれた。
僕は寂しいとか悲しいとかは無かった。ただ混乱している。
父の事なんて殆ど覚えていない。顔どころか、名前さえもパッと出なかったほどだ。
あの日家を出てから一度も「その後」を気にした事は無い。
一体何がどうなって
ある時期からスイスの製薬会社の下請け企業で研究者として働いていた。
通勤途中に事故に巻き込まれた。
既に葬儀も埋葬も済まされている。
「保険の調査で受取人にお前が指定されている。」
苗字の変わった僕との繋がりがどうして判った?
「私の母が確認した。お前も一度会っている。」
何処で?
「あの日、お前を迎えに行ったのは私の母だ。」
母が妹を連れて、僕の前から消えたあの日。
僕を絹代さんの家に届けてくれたあの女性。
それでその、形見って?
「裁判で遅くなった。」
父は偽名を使ってスイスで過ごしていたため、
その保険金は無効なのではないかと裁判が起きて今まで掛かった。
掛けた保険金は効力があると認められ、
それが僕の元へ届いた。
実際には1通の封筒。中には文字と数字の羅列。
「プライベートバンクの口座番号だ。俗に言うスイス銀行。」
僕は高校1年生にしてスイスに口座を持つ身分になってしまった。
つまりそれだけのお金があるって事?
別の意味で狙われるんじゃなかろうか。
何かもうワケが判らない。
顔も覚えていない父が亡くなっていた。
スイスに口座がある。しかも相当な大金。
何だこれ。
何から驚けばいい?何に驚いたらいい?
「ドイツにいる紬さんが引き出して貴方の口座に入れてくれた。」
紬って言ったか?母の名。
僕が知らないだけでこの人は母と連絡を取り合っているのか?
「ごめんね、理緒。」
「本当にごめんなさい。」
「あの時あなたを守るためには仕方なかった。」
何を言っている?
「紬さんは私の母の妹。つまり私はあなたの従姉。」
もしかして、もしかするけど
絹代さんて
「そうよ。私達の本当のお婆様。」
父の死よりも、
大好きだった祖母が本当のおばあちゃんだった事がショックだった。
僕はずっと知らされていなかった。
僕はずっと騙され続けていた。
どうして、どうしてこんな。