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今回の縁日のお蔭でグレタはすっかり皆に馴染んだ。
それどころかグレタは僕の守護者達に
「失礼なことを言って本当にごめんなさい。」と頭を下げた。
それに対して「気持ちは判るから。」と彼女達は本場の魔女に敬意を表した。
それは毎晩のように行われる工房での小さなサバトで
紹実さんが魔女の歴史を語ってくれるからだ。
実際「僕達」に馴染むのは少々時間を要すると思っていた。
僕はこのクラスにおいてかなり奇怪な存在。
かわいい魔女達に囲まれているものの、クラスメイトに僕は映らない。
浮いているのではなく、沈んだ存在。
単純に「留学生」としては、僕とは距離を置くべきだろう。
僕はグレタに「指輪」の事は伏せておいた。
自ら話すべきような事柄でもない。
秘密でも内緒でもない。彼女の留学に面倒や問題を増やしたくない。それだけだ。
「それで、誰がトトのドロシーなの。」などと皆をからかったりもするが
僕達の関係はこのくらいが丁度いい。
彼女は他国からの留学生で、半年後には帰らなければならない。
間違っても巻き込むような事があってはならない。
祭りの日から、グレタが魔女達と談笑する姿を見ながら考えていた。
答えは実にシンプルだった。
魔女達も一緒に、クラスに馴染んでしまえばいい。
守護者達は、僕に気を使って普段から僕の周囲に居てくれる。
休み時間になると僕の席の周りに集まってくれる。
それはこの学校で「他の魔女にさらされる脅威」があったから。
でも今はその心配は極めて少ない。
習慣は変わってもいい。
グレタ共々、他のクラスメイト達と一緒に楽しい高校生活を過ごすべきだ。
「またこいつ。」
葵さんがイラっとした。
「判って無いのね。校内で他の魔女がどうとか今更どうでもいいのよ。」
え?そうなの?
「ちょっと教室内ぐるっと見渡して。」
うん?
ぐるりと見渡す。いつものクラス。いつもの日常。
蓮さんは「指差すと気付かれるから」と僕のノートを取って一番後ろのページに長方形の枠を描く。
「こっち黒板ね。」
教室。「今私達がここ。」と長方形の端、通路側の部分に○を描く。
「で、ここと、ここと、ここと、ここ。」
と教室に、不規則に○を描いた。
「もう一回教室見渡して。」
ぐるりと見渡す。さっきと変わらない。
「気付けよ。このクラスの人口分布図よ。」
「理緒君て、もしかしたら私達以外全員いつも一緒にいるとか思ってた?」
カナさんも驚いている。
違うの?
「何言ってるんだこいつ。」
「男子とか女子とか関係ないわよ。混合のとこもあるでしょ。」
言われてみると確かに5,6人ずつくらいの塊が点在している。
「本気で言ってるのか?」
「まあまあ。仕方ないわ。この子ずっとボッチだったんだから。」
「いやそれにしてもさぁ。」
自分と自分以外。
僕にとってクラスメイトとはつまりそんな程度の関係だ。
小さな集団を形成していようと、その中で誰がどうなっていようと
僕には関係の無い世界での出来事。
文化祭。今年は各クラブが主催する。
基本、生徒はクラブに所属しなければならないが
僕達のように外部の道場に通っていたり
市や県のスポーツクラブに所属していたり、
または家庭の事情で参加できない者は当然帰宅部扱いとなる。
だからそれほど仕事は無い筈。
帰宅部の参加は自由なので自ら好んで面倒を増やすことも無い。
が
「グレタの為にも何かしたいの。」
と委員長が「最近いつも一緒にいる」魔女達に相談を持ち掛けた。
この時期に留学生が来るのはむしろ行事が多いから。
タイミング的に「クラスでの文化祭」なら何の問題も無かった。
もしくはグレタが今から何処かのクラブに所属するか。
グレタが魔女だから他の魔女と一緒に居るのも判らなく無いが
だからと言ってよりによってどうしてこの魔女達を頼るか。
いや、まあ僕だってそうする。園原さんは責められるべき何事も行っていない。
その日の道場で何となく、小室さんに尋ねた。
おそらく彼女は道場の事があるから帰宅部だっただろうと。
小室さんはどうしました?
「うっ。」と言葉を詰まらせた。すると彼女の母が
「歌って踊ってたじゃない。」
「踊ってねぇっ。」
「DVDあるわよ。」
「うわっ言うなっヤメロっ。」
小室家の広間を借りて、ノートパソコンまで借りて
「私は見ないからな。」
「何でよ。いいじゃない。久しぶりに見ましょうよ。」
佳純ちゃんを迎えに来た橘さんは結構ノリノリだ。
バンド?
うわっ橘さんカワイイなぁ。隣のお人形さんみたいな美少女は誰だ?
「杏ちゃん」と「椿ちゃん」がいる。
「うわーっこれっ、もしかしてこれっ」
友維が騒いだ。
「だってこれもしかしてっ」
橘さんはコクリと頷く。
「先生も恰好いいじゃないですか。何でそんなイヤがって。」
「恥ずかしいだろうがっ。」
「このモデルみたいな男子は誰です。何これ。CG?」
「こっちは吸血鬼の王子様。こっちは狼男。」
友維の指摘に橘さんも驚く
「グンデにも会ったの?」
「あの煩いの何度か遊びに来たから。」
そう言えば橘さんも言っていたな。吸血鬼と狼男が親友だとか。
友維が知っていてもおかしくはないか。
何だこのバンド。神巫に吸血鬼に狼男に猫娘と雪女。
バンド名ってもしかして魑魅魍魎?もしくは百鬼夜行。




