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僕のそんな思惑は予想外の一言で白紙にされてしまう。
「秋分の日に」と約束した翌日、そのグレタは別の相談を僕に持ち掛けた。
「何とかならない?」
その人は足が悪いってだけで外出そのものは出来るんだよね?
「うん。そう言ってた。」
方法が無いわけではない。その旦那さんの予定さえ合えば。
丘のふもとまで連れてくればいいだけだ。公園まで僕が車椅子を押して行ったっていい。
今までそうしなかったのは、彼女自身の遠慮にあるのだろう。
「車椅子の自分が人混みに出掛けたら邪魔になるだけだ。」とでも考えているのかもしれない。
他所はどうか知らないが、この街では有り得ない。と思う。
僕は橘さんに電話して、縁日を取り仕切る人を紹介してもらった。
その日の夕方、早速皆を引き連れて(そうするしかないから)そのお宅を訪れる。
屋台で射的場を出店している人だ。彼は全然問題ないと言ってくれた。
話をしているとネット通販で一財産作っているらしいその人は
僕の予想以上の提案をしてくれた。
僕としては、屋台の方たちに話だけ通してもらえればそれで良かった。
迷惑になるかも知れないがよろしくお願いします。と伝えたいだけだった。
それを、「屋台を少し下げよう。バックヤードを縮めて通路部分を広げる。」
今も充分広いと思う。夏祭りの時にそれは見ている。
「草むしりと石やらゴミやら事前に片付けさせよう。」
その上「専用駐車場を用意する。」とまで言ってくれた。
行事がある日は屋台関係者以外の車両は丘のふもとで引き返してもらう事になっているのだが
身障者マークを付けた車は侵入可能にする。
「どうして今までそうしなかったのか。」と憤っていた。
「赤ん坊乗せた車の乗り入れも良しとしよう。」
「ベビーカーだろうが車椅子だろうが街の人間が街の祭りを楽しめないなんて道理はない。」
それならいっその事、施設の御爺ちゃん御婆ちゃんを招待するのもいいかもしれませんね。
「それだっ」
彼は立ち上がり電話を始めた。
その週末。橘家で臨時会議が開かれ、僕も出席させられる事になってしまった。
養護老人ホーム、デイサービス。幼稚園、保育園の各施設長が呼ばれ、
今度の縁日に屋台を出店する人達と同席した。
その中に何故か僕がいる。
護衛の魔女達は橘家のリビングでくつろいでいる。
お祭りの世話人を務める射的場の彼が司会をする。
「祭りを二部構成にしたい。」
第一部は午前から昼過ぎまで。参加者を限定する。
この街の幼稚園や保育園に通う園児。そして同じくこの街の施設に通うお年寄り。
お年寄りは各施設で送迎してもらいたい。園児は保護者同伴。
そして議論が始まる。
送迎に問題はない。屋台側も問題ない。
町内会費の援助を受けて露店商品も特別価格にしてくれる。
何だかどんどん話が大きくなるな。
「しかし」
と誰かが言った。
「言っちゃなんだが年寄と子供ばかりじゃ祭りが盛り上がらないんじゃないか?」
「それは心配するな。」
司会が僕を見る。
「高校生がいる。」
一斉に僕を見た。
完全なボランティアに参加者がいるだろうか。
祭りの実行委員から「1人500円の商品券」を付けてくれる事にはなった。
その祭り限定でお釣りはでないからどれだけの魅力なのか未知数ではある。
学校に頼んで募集をかけて人数集まり過ぎても問題だ。主役が変わってしまっては意味がない。
それに大体僕が複数の高校生相手に指示なんて出せない。
僕の今現在の知り合い。藍さん。葵さん。蓮さん。カナさん。リナさん。桃さん。
グレタ、は世話をするだろうから数にいれない。
友維は友達2人連れて来ると言ってくれた。
10人。か。足りるだろうか。
園児たちには保護者も来るだろうから問題はないとして
お年寄り相手と賑やかしでもう数人欲しいところだ。
そこに佳純ちゃんからの提案が加わる。
いつもは御神楽で行われる奉納の舞を
第一部のみ公園で行う。神社の階段の上り下りは大変だし
車で行ってまた戻っても面倒だろうと、佳純ちゃん自身が橘さんに提案してくれた。
(舞が終わったらそのまま手伝いをするとまで言ってくれた)
その上さらに、桃さんのお姉さんの宮田杏さんが
「何かあったら呼べって言っただろっ」と僕を叱ってくれた。
(宮田さんは「賑やかしなら任せとけっ」と中学生の妹とその友人1人を連れて来てくれた。)
ちょっと泣きそうなくらい皆イイ人だ。
連絡した通り、皆浴衣で集まってくれて実に華やかだ。
お年寄りたちが集まり、園児とその保護者。
何だ賑やかしなんていらなかったな。てくらい盛り上がった。
屋台の人達は屋台の前に出て車椅子の人や子供の目線に合わせて接客をしてくれて
ボランティアなんていらなかったんじゃないかってくらい丁寧に応対している。
公園での小さな巫女さん達の特別公演では大きな拍手が湧き
泣いているお年寄りの姿もあった程だ。
ここにいる園児達はいずれこの舞を皆に披露するのだろう。
その席で、僕は橘さんにグレタを紹介した。
彼女はホームステイ先の奥さんと一緒にいる。(旦那さんが車椅子を押している)
橘さんはグレタに挨拶する前に、その奥さんに近寄り、しゃがみ
「お久しぶりです。おばさん。」
「ゴメンなさいね結ちゃん。中々お参りできなくて。」
「こうして来てくださったじゃないですか。」
橘さんが彼女の手を取ると、彼女はボロボロと泣き出した。
橘さんは彼女の頭を二度三度撫でる。
「ああ神様。」
ふと口にした言葉。どんな意味が込められているのか僕には判らない。
「これからはいつでもいらしてくださいね。」
「ありがとう。ありがとう結ちゃん。」
彼女も橘さんの手を取って何度もお礼を言った。
橘さんが立ち上がり、グレタに目を向ける。
「貴女が今年の留学生ね?」
「はっはい。えっとグレタです。いやあのマルケータ・スヴェトリークて言います。」
「うん。こんにちはグレタ。短い期間だけどおばさまと仲良くしてね。」
「はっハイっ。勿論です。」




