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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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「これって紹実にプレゼントした熊よね。隣のを使えばいいの?」

「いやそれは藍のだ。理緒は私の使えばいいよ。」

「あ、私も持ってます。」

蓮さんは夏祭りのイカサマで取った熊を取り出した。

「それじゃあ貴女はこれを使って。」

三姉妹の1人がトランクを開け同じような熊のぬいぐるみを取り出し葵さんに渡す。

「このリボンに名前を書いて。」

と色違いのリボンを受け取りそれぞれが名前を記入し、

熊の首にタイのように巻く。

「へー。今はリボンなんだ。私の頃は熊の背中切り裂いて」

なにそれ怖い。

棚を一列整理し、熊達の居場所を確保。

そしてようやく儀式を行うのだが

1人ずつ順番に工房で行われる。

詳しい説明は避けよう。これは彼女達一族の秘密。

こうして我が工房は、皆の秘密の部屋としての機能も併せ持った。

3姉妹はもう1泊して、「何日かトキョ見物」してから帰るらしい。

「ママに伝言があるなら預かるわよ。こっちにいるより連絡はとりやすいでしょうから。」

気を使ってくれるのは有難いが僕には何も無い。

「こっちも適当にやってるからママも適当にやって。って。」

友維のこの伝言だけで充分だろう。

「ユイ。もうレディなんだからあんな事しちゃダメよ。」

「それは言わないでっ。」

何をしたんだコイツ。


一年も経ったからだろう。僕の唇を狙う魔女は殆ど現れない。

悪く言えば退屈な、しかし穏やかな日々が続いていた。

これが当たり前の高校二年生の生活。

担任が吸血鬼だろうと、それは何も変わらない。

それは僕の問題ではなく、彼が吸血鬼だからこそ。

4月末のGWの初日。

僕は彼に呼び出された。と言うか彼が迎えに来た。

何かあると面倒なので家には上がらないと言ったのは彼の方だった。

気を使っている。友維から聞いた話と大分違う。

彼は僕に「これから神社に一緒に行って欲しい」と言った。

言い方で気付くべきだったのだろうが

この時は僕の事で彼の手を煩わせたのだと思っていた。

一度母屋に戻り皆に説明すると予想通り

「私も行く」と皆言い出した。

心配しないで。用事が済んだらすぐ戻るから。

僕としては、皆が付いてくる事のがよほど不安だ。

紹実んさも「そうだな。1人で行って来い。」と面倒を避けた。

GWだがまだ朝も早いので観光客はいない。

境内ではいつか僕がそうしていたように佳純ちゃんが掃除をしていた。

「いらっしゃい。結姉ちゃんもすぐ来るよ。」

やはり話は通っていた。

「始めましてオジサマ。」

「おじさま?」

「結姉のお友達って聞いてたからお兄さんですかね。」

「あ、いやまあそうだが。お前は俺が」

「お久しぶりです。」

橘さんが現れる。

代理担任は、吸血鬼が、膝を折った。

「ご無沙汰しております。プリンツェシン。」

不思議な光景だった。

誰に言っても信じてもらえないだろう。

吸血鬼が、巫女装束の女性に膝を付いて頭を垂れている。

橘結は何者なんだ。

橘さんは彼を立たせ、握手を求め、しっかりとその手を握る。

「あなたが教師だなんて。」

この一言に彼の顔が赤くなる。

佳純ちゃんが指を立ててチョイチョイと合図する。

僕は彼女に頭を下げて撫でて貰う。

「それが日本式なのか?」

「違うのよ。理緒君はここに来ると乱されるの。」

「そうなのか。」

えっとそれで、どんなご用件でしょう。

頭を上げて橘さんに聞くと

「いや、済まない。俺の用事だ。」

は?

それじゃ何で僕をここに連れて来たんだ?

「1人で来るのが恥ずかしかったんじゃない?」

佳純ちゃんは笑うが実際どうなのだろう。

彼の用事とやらに、僕も付き合って話を聞く限り

全く無関係な話では無かった。

「プナイリンナ家からの話だ。」

「エリクって言いなさいよ。」

彼はわざとらしい咳払いをしてから

「奴の知り合いのヴァラヴォルフから伝わった話だ。信頼できるだろう。」

「そう。」

「お前の、いや失礼プリンツェシンの知り合いで誰か、どなたか」

「いいわよもう。普通に話して。」

「んんっ。知り合いで顔の広い奴がいるだろ。何か知らないか。」

「ええ。今朝届いたわ。ややこしいからメールしてらもらってプリントアウトしたわ。」

「英文にしちゃったけど日本語のが良かった?」

「あ、いや英文のが助かる。すまない。」

「気にしないで。これは貴方達だけの問題じゃない。」

一緒に聞いていた佳純ちゃんが隣で解説してくれなければ

何の話なのかさっぱり判らなかった。

「あの人吸血鬼なのは知ってるんだよね?」

うん。(首をへし折られそうになった)

「プナイリンナ家ってのは結姉ちゃんのお友達のおうち。」

「確か友維ちゃんもお世話になってるフィンランドの人。」

そこのエリクって人が吸血鬼の一族の王子様。

でヴァラヴォルフってのは多分狼男の事。

この人も結姉ちゃんのお友達。でエリクの親友。

吸血鬼と狼男が親友なの?

「そうだよ。」

誰がこんな話を信じる?

吸血鬼と巫女さんが狼男の話をしている。

で、その狼男が何を伝えたって?

「アメリカに住んでいる本物の吸血鬼の一族が裁判を起こしたの。」

アメリカでは以前から「ヴァンパイアブーム」なのだそうだ。

映画やドラマが流行り、ティーンエイジが憧れる存在ですらあるらしい。

まあ目の前の吸血鬼は確かにイイ男だとは思うが。

で、どんな裁判なの?

魔女狩りみたいな事をされたのだろうか。

「それがアホな話でね。」

我が一族は本物のヴァンパイヤだ。

だからこれまでの映画やドラマの収益の一部を受け取る権利がある。

「その全ては我々がモデルになっている。だってさ。」

えーっと

「開いた口が塞がらないのは判るよ。でもね。」

問題は、その一族が「本物の吸血鬼一族」な事。

ドラマや映画のように青白い顔をした美青年が少女とロマンスを起こすような話ではない。

特異なその体質や能力は、もっと単純に人間の脅威と見做される。

現在、他の吸血鬼一族が彼らを説得している最中だと言うが

それが失敗した場合、本人達だけではなく、

他の一族の名が語られない保証は無い。

「同じ目」で見られたら。

「それで、佳純ちゃんのお姉さんとどんな関係があるの?」

「うん。多分」

佳純ちゃんはとても悲しそうな顔で教えてくれた。


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