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教室に戻ると蓮さんから
「あいつに近寄るなって言っておきながらどういう事なの?」
問い詰められた。説明するの面倒だな。
あの人は僕を守るけど魔女は狩るって言ってるから。
「なんだそりゃ。」
「あなた隠してる事あるでしょ。」
隠してなんかいないよ。言ってないだけで。
「一緒だろっ。」
葵さんにも怒られた。
何処まで知らせるべきだろうか。
個人的に魔女に恨みを持っているらしくてどうやら委員会と手を組んだ。
「はあ?ナニソレ大丈夫なの?」
紹実さんの知り合いで碓氷先生の紹介だから僕自身は大丈夫。
でも魔女達の安全の保証はしないって言われたから。
基本的に行動を共にするような事はない。
僕が危険な目に合って、いよいよの場合に駆けつけるって認識でいいだろう。
「いよいよの場合。ね。」
魔女達は先日の一件に対して「真剣に猛省している」と言った。
あのとき、3人の魔女と一人の剣士が僕の傍らにいた。
それでも僕が浚われ傷付いた。危うく殺されかけた。
まさに「いよいよ」な場面だった。
僕が消えて、ただ取り乱しただけだった。
でもあれは、僕が皆に何もするなって言ったから。
魔女達の責任ではない。僕の軽率な言動が元。
「それはそうなんだけどね。」
浚われた事も、
取り乱した事も、
魔女ではない他人に助けれた事も、
全てが許せないと言った。
「何のために毎日いつも理緒君と一緒にいるの?」
「この前1人にさせて怒られたばかりなのに。」
「あなたが私達に何を言ったって相手が誰であっても私達が守らないと意味が無いんです。」
僕が意識のないまま運ばれ、それでも命に別状はないからと寝かされ、
ようやく騒ぎが落ち着き、皆が帰ってすぐに3人は紹実さんに謝った。
「私達は何の役にも立っていない。」
「それどころか危うく。」
「理緒君に何かあったら。」
紹実さんはそこまで聞くと全員を抱き締めた。
「皆無事だった。それでいい。」
「これからも、ちゃんと皆で帰っこい。」
そう言われたからこそ、余計に情けない。
小室さんのところであんなに痛い思いをしたのは何の為だ?
その対象が「手を出すな」と言ったからって
目の前に敵がいて、何も出来ずに浚われて
挙句死にかけて戻って来た。
家に帰り、紹実さんを工房に招いて「部屋の見つけ方」を聞いた。
「そんなものは無いわ。」と笑われた。
知らない部屋は探せない。
それじゃあの吸血鬼はどうやって?
魔女にも似たような魔法があるような事言ってたけど?
「部屋じゃなくて人を捜すって言ってなかった?」
あ、うん。でもどうやって?
「愛だ。」
吸血鬼のソレは「敵」を捜す。魔女のソレは「愛」を頼りに探す。
残念ながら行き止まりだ。
「うーん。理緒君の事は好きだけど愛してはいないからなぁ。」
蓮さんの台詞がもっとも一般的な模範解答。
「そうなんですか?私は愛してますよ。もうラブラブです。」
「それにしても便利よねその部屋。」
「リナの壁穴と同じくらい便利ですね。」
リナさん聞いたら怒るな。
「この際だから理緒も部屋を作ったら?」
紹実さんは何を言っている?
ゲームじゃあるまいし部屋なんてそんな簡単に作れるものか。
「墓堀ステファン覚えてる?」
絵本のタイトルだ。
悲しい話だから覚えてるよ。
工房の書棚にまだある。その本を机の上に広げ、皆が覗き込む。
双子の少女がいた。
裕福ではない家庭に産まれ、父親はいなかった。
母は身を売って2人を育てた。
だがある日、母は大きな熊のぬいぐるみを一つ残し、姿を消した。
すぐに双子の姉が病気になる。だがお金も身寄りもなく、ほどなく亡くなった。
小さな妹は途方に暮れる。
そこに墓堀ステファンが現れる。
彼は庭に穴を掘り、姉と、大きな熊のぬいぐるみを棺に詰めて埋めた。
妹はずっと「埋めないで」と泣いて頼んだ。
「もう二度と姉に会えなくなるから。」
「私には他に誰もいないから。」
ステファンは少女に
「お姉さんに会いたくなったらいつでも会いに行けるように秘密の呪文を教えてあげよう。」
「それを唱えればいつでも好きなときに会いに行ける。」
ステファンは少女を施設に預ける。
だが少女は売られてしまう。傷付いた少女は逃げ出し家に戻るがそこには何もなかった。
彼女は秘密の呪文を唱え、そのまま戻らなかった。
「何これ。救いようの無い話じゃない。」
だから忘れられない。




