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僕個人は「秘密の部屋」を使う魔女の一族の話は知っていた。
利根先生も使っていた(入院した僕を連れ去ったあの部屋)ように
知識と技術と、その「部屋」があればいい。
所有者はその所在を文字通り「秘密」にする。
なのに
「あの実習生はどうやって突き止めたのかしら。」
三人の魔女は本気で彼にその方法を聞き出そうとしたので慌てて止めた。
僕が聞いて来るよ。
助けてもらった礼もまだ伝えていないからねと口実を作ったが
本心は魔女達にはあの吸血鬼との接触を極力避けたいからだ。
彼を信用していないからではない。
彼の発する言葉を信用しているからこそだ。
言いたくないので言っていないのだが
あの吸血鬼は、5人の魔女(妹含めて6人だとしても)が一度に相手にしても余裕で勝てるだろう。
それは魔法の能力とか力量とかが弱いからではなく、所謂「慣れ」だ。
「戦い」や「争い」を何百年と繰り返してきたような連中。
友維の言った、遺伝子に滲み付いた血の匂い。
僕はどんな事をしても、僕を守る魔女達を守る。
僕は「あなたに魔女達をなるべく合わせたくない」とはっきり宣言してから質問をした。
吸血鬼の魔法のようなモノらしい
個人に限定されるが、その「匂い」でだいたいどの辺りにいるのか判るのだそうだ。
「俺たちのような吸血鬼だからこその能力だろうな。」
標的にされ続け、仲間を失いながらも、種を守るため。
もう魔法って言うより超能力だ。テレパシーって。
「魔女にも似たような魔法があると聞いたぞ。」
あるのかよ。
皆には何て説明すればいいんだ?後で紹実さんに聞いてみよう。
そんな事より聞きたい事が。
「何だ。」
僕を襲った連中の事です。
まさか殺してしまった?
「殺す価値はない。生きる価値もない。」
「死にたいって言いたくなるくらいの苦痛を与えてリリースした。お前にも方法を教えてやろう。」
結構です。聞きたいのはその連中の正体。
僕の予想は2つ
1.指輪の存在を知っている魔女の単独犯
2.指輪を狙う「委員会」
「どっちだと思っている。」
委員会でしょうね。
「どうしてそう思う?」
タイミングが良すぎる。碓氷先生と、利根先生がいなくなって準備して丁度のタイミング。
そして何より、指輪の存在そのものではなく、その秘密を知っていた。
最初から唇ではなく指輪を狙い、さらに所有者の変更にはその手続きが必要な事も。
考えたくなかったのですが、委員会側に魔女がいる。
僕を守るためだとか情報を仕入れるための囮ではなく、
本当に魔女が魔女を狩る者に協力しているのだろう。
「正解だ。」
はっきり言い切れるのはつまり。
何より屋上での自己紹介で「魔女を狙う連中と組んだ」と言われた。
「ボケっとしているようだが勘はいいな。」
「俺は委員会に雇われた。」
ある日、何処から話を聞いたのか男が現れ、
「魔女に恨みを持つ吸血鬼ってのはあなたか。」
と尋ねられた。
「一度殺されたからな。」
と答え、その組織と契約した。
何処からか、と言ったが多分紹実さんか碓氷先生だ。
利根先生を経由したのかも知れない。
でも。
「何だ。」
あなたと利根先生が入れ替わったわけじゃありませんよね。
「まだ子供だな。」
彼は僕の見落としを指摘した。
「トネなんてヤツは知らない。俺が接触したのはお前の母親だ。」
え?
「ツグミの紹介だと言って会いに来た。」
「プナイリンナ家に居候している魔女は娘だとも言った。」
「俺が契約した委員会とやらの奴は俺と同じルーマニア人だ。」
「俺が魔女狩りを依頼された事と、お前の指輪云々は全く別の話だ。」
「俺はお前から指輪を奪えなんて一度も言われていない。」
そうか。
僕はいつからか勘違いしていた。
「勿論指輪の存在は認識している。」
「だからと言って俺が契約した委員会がそれを欲しているとは限らない。」
委員会はそれほど大きな組織なのか。それとも同じ名前の別物?
「元は欧州の何処かで発生した組織だろうな。それが日本に渡り独自に動いているだけだ。」
広く密度が薄い。
お互い情報の共有が密に行われているとは言い難い。
何だったらお互いが協力し合ってなんかいないのかも。
「ツグミが俺を日本に呼んだ本当の理由ってのは多分」
「欧州の委員会が本気で魔女狩りを始めたからだろうな。」
彼は僕が思っている以上に欧州では魔女が危険な立場にいると教えてくれた。
「お前の母親のお節介で各地の魔女が結束した。」
相手だって対抗手段を講じる。
魔女にとって危険な吸血鬼を日本に送り出し、余計な脅威を減らすと同時に
「魔女」と「吸血鬼」の繋がりを薄める効果もある。
おそらく、利根先生は「正式に」業務上の手続きを経てベルギーに渡っている。
日本の委員会が彼女の代わりに別の魔女を雇っても不思議ではない。
指輪を交換条件に魔女を消せと依頼されたのかも。
「まあそんなところだな。」
あれ?でもどうして先生は日本の委員会の事までご存知なんですか?
「リリースする前にイロイロと教えてくれた。」
ぎゃっ
協力者がいなくなってしまったなんて嘆いている場合では無かった。
僕を守ってくれていた2人の魔女は僕の母の手伝いで欧州の魔女を救いに行った。
余計な心配が届かないようにするべきだ。
先生。ひとつお願いがあります。
「何だ。」
今後僕の唇狙いに来る魔女は僕達で対処します。
「俺としては仕事を全うできる。食料にもなる。ついでにお前も守れる。約束はしない。」
だめだこりゃ。




