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やれやれ。と思う間はあった。
だからその自称教師とやらが蹴り倒した男たちの様子を伺う余裕があったのだから。
そんな余裕が無ければ、僕が撃たれずに済んだ。
数発の銃の発射音。
確か銀の弾丸で狼男を殺す映画があったよな。
紫外線入りの弾で吸血鬼を殺す映画もあったような。
どうしてだろう。彼の背に向けられた銃口と、その彼の背の間に割って入ったりした。
皆に怒られるなぁ。そう言えば前にもこんな事して怒られたっけ。
ああこれ、死んじゃうパターンかも。
2人の男から発射された5つの銃弾のうち、3つが僕の身体に命中し、2つは壁に穴を開けた。
想像していたより痛くない。
何てことはない。
この吸血鬼、センドゥ・ロゼは「最強の魔女」と囁かれる僕の姉が選んだ最強の守護者。
「バカな奴だ。俺は吸血鬼だと言っただろう。怪我をしてもすぐに治る。」
ああ火傷が治るの見たな。
「たかが人間に身体を張って助けられたのは二度目だ。」
「いいか。俺がお前の盾だ。お前が俺の盾になってどうする。」
僕は守られている。
いつもいつも。
だからって僕が誰かを助けてはいけないなんておかしい。
そう言おうとしたのだが口から血が泡のように溢れた。
「人間に血を分けるのも二度目だな。」
彼は僕の口元に拳を突き出した。ぐっと強く握ると、そこから数滴の血が滴った。
四人の男に凄む吸血鬼。
「さあ神に祈れ。」
「ヴァンパイア如きが神を語るなっ。」
「なら悪魔の力を思い知れ。」
銃が炎に包まれた。
残念ながらそこで意識が途切れてしまった。
僕のした事は何の意味も無かった。
意識を失ったまま僕は家に連れて行かれた。
蓮さんと葵さんが既に到着して紹実さんに報せていた。
藍さんと桃さんが再び橘家に戻り事情を橘さんに伝えた。
僕が消えて、男達が消えてすぐにそうしていた。
僕が帰宅してすぐに蓮さんが藍さんに連絡してその口で橘さんに無事を伝え
町民によって捜索隊が準備される前に騒動は落ち着いた。
僕の傷付いた組織が全て回復するのは1日半掛かった。
(その内の一発が肺を貫き致命傷になっていた)
普通の人間だ。加えて元々身体が弱い。
吸血鬼の血液が体中に巡り、回復を促すのにそれだけの時間が必要だった。
体内の異物に拒絶反応を起こすかも知れないと、紹実さんが指輪を外した以外、
意識的に眠らされていてその1日半に何があったのかは後日知る。
僕達を襲った5人が、例の「街宣」連中の一味である可能性は捨てきれず、
魔女達は翌日その連中の集う場所に乗り込んでいた。
傷害事件として訴えるなんて甘ったれた手段を取ろうなんて最初から考えていなかった。
見付け次第死なない程度に苦しめ続けるつもりだと言った。
だが、「狐につままれたとはあの事だ。」と葵さんが言った。
その団体はご丁重に彼女達を迎えると、登録者名簿と、今回の件に参加した者のリストを用意し
参加者全員を揃えてくれた。
その団体は
「交通事故によって孤児になった子供達を支援する団体」
で、その啓蒙活動で各地を訪れている。
僕達の街にもそのビラ配りをしていただけだと言った。
魔女達は違う人達を追って来たのかと、間違ったのかも。とも思ったそうだ。
だがそこには、学校の前で声高らかに叫んでいた者がいる。
「その時間は確かにその場所にいたけどビラを配っていました。」と言った。
「お父さん、お母さん、ご家族の人に見てもらうには子供達に渡すのが早い。」
「それに子供の内からそういう子もいるのだと知って欲しい。」
とその趣旨を説明され、配ったビラは確かに「支援のお願い」だった。
葵さんは当然「真実のみ語れ」と語らせていた。
本人達は何も知らず、僕達の街でヘイトスピーチを行っていた。
きっとあの魔女の仕業なのだろう。
「取り繕うのが大変だったわよ。」
「最後は私達も協力します。て言うしか無くて。」
と、後日大量のチラシが送られてくるそうだ。
僕達が襲われた日がこの町での活動の最終日だったようで
彼女達が訪れた時は片付けの最中だった。
それもそうだ。2週間もあればこの街の規模の全員に行き渡るだろう。
僕達を襲った連中がタイミングを合わせて最終日そうしたのだろうか。
今回の騒動はこうして収束する。
問題は、
この街の大人達には全ての事情を説明するべきか
それとも真実を知る者は一部で良しとして、
「手を繋ぐ」事によっていなくなったとするべきか。
僕にとっては両極端の結論だ。
前者の場合、全ての責任は僕にある。
その全てが、僕の指輪を奪うための陽動の可能性だってある。
街の住民に溝を作り、魔女を含めた危険な連中を排除する。
街の協力を失くし、その上で僕の指輪を奪う。
仮に奪えなくても、この騒動の全てが僕の責任だと判れば
僕はこの街を出ていかなければならないほどの非難を浴びるだろう。
後者の場合、逆に僕はヒーロー扱いされる。
それが例え真実でなくても。
僕はそれを受け入れなければならない。
「理緒君は、どうしたい?」




