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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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少し穿った見方をする。そしてこれが真実だったりするのだが

この街の神社に嫉妬した何処かの誰かが

他の誰かを扇動してネガティブキャンペーンを張った。

とも考えられる。

この街に「人ならざる者」が集うのも、

この街の神社がその象徴になっているのも、

それを知る者でなければこんな事言い出す筈がない。

何より、「昔からこの街に住んでいる人」がそれを言い出したのならまだ判る。

他所から妖怪がこの街に流れ着いて悪さをしでかした。

だから退治して追い払おう。的な流れなら納得もできる。


この街では昔から両者が共に暮らしていた。

妖怪やら伝承の類は元々その土地に根差して発生する場合が多い。

開発によって住処を奪われ流れ着いた者を除けば

住み着いた土地から離れる事は稀だ。

他所からこの街に来た者は「それなり」の理由がある。

それでも街の人々は皆を受け入れた。

そもそも「人ならざる者」なんて言葉も「この街」には存在していなかっただろう。

異なる部分があるだけの「人」扱い。

迫害なり差別を受けた側による被害者としての自己否定的な発言が元かもしれない。


神社にどんな力があるのか判らないがこれだけは言える。

この街の人々は揃いも揃って「お人好し」だ。

その街中で

「化物は出て行け」と叫んだところで何の効果があろうか。

連中が見誤ったのは、この街の住人の絆の強さ、深さ。

ほぼ全ての住人が神社の氏子。

流石にこの街に宿を用意するような厚顔では無かったが

連日のように街宣する姿を見た。

幼稚園や保育園、小中学校の前。高校の前。

狙いは子供とその保護者にあるようだった。

「妖怪は怖い」「妖怪は危険だ」「この街にはたくさんいる」

と刷り込ませようとしているのは僕にも理解できる。

だから「アホがアホな事言ってるな」くらいにしか思わなかった。

だが桃さんが「アタシは何も気ににしていないよ。」と笑った顔を見て

僕は心が引き裂かれそうになった。

そして僕が子供だから気が付がなかった事を気付かせてくれた。

大人達は、子供達に笑って見せて、その裏でとても悲しんでいた。

そして必死にそれらを何とかしようと動いていた。

僕達子供にはそんな素振り全く見せずにそうしていた。

情けない事に、僕はそれを佳純ちゃんから聞いた。

橘さんも、小室さんと南室さんも他の大人達と一緒にその連中をどうにかしようと動くが

とても歯痒い状況に陥っていた。


連中の言う「人外」を認めた上で「差別主義者」だと訴えるのか

それともこの街には「人間以外の何か」などいない。と訴えるのか。

何より、その当事者達の苦しみを救わなければならない。

「動じる事はない。」と言う意見が最も多いのは頷ける。

僕もそれに賛成だ。

当事者の動揺に「私達は変わらない」姿勢を示さなければならない。

意識して無理に明るく務めるとか、過度に励ますような事をする必要はない。

大人達はそれでいい。

だが子供達はどうする?

「あの子は妖怪だけど仲良くしてね。」

なんて言うのか?

宮田桃は何も気にしてなんていない。ような素振りを見せていつも通り僕達と接している。

だがその目を見れば判る。彼女は深く傷付き、悩み苦しんでいる。

僕に出来る事は無いだろうか。

「蹴散らしてやりましょうよ。そんなクズ共。」

蓮さんの主張を止める者は誰もいなかった。いつも冷静な彼女が珍しく激高している。

魔女達の想いは僕にも判る。僕の知る魔女達は皆少なからず差別的な扱いを受けている。

魔女は出て行け。って言い出す連中が現れるよ。

「現場なんて見せないわよ。証拠も残さない。どうとでも」

それこそ思う壺じゃないか。妖怪の仕業だって言われるだけだよ

恐ろしい事だがこの魔女達にとっては、暴力的に力業で排除する事はとてもとても簡単だろう。

だがそれでは意味がない。

「だからって好き勝手やらせるの?」

そんな事させてたまるか。桃さんの沈んだ顔なんて見たく無い。

僕達が、何より子供達が、あんな連中の言う事には揺るがないと示す事なんだ。


アイデアを出したのは僕だ。

本当にただの思い付きだった。

それでも紹実さんが「面白そうじゃん。」と嗾けて

佳純ちゃんが「お兄ちゃん達が面白い事思い付いたって。」と橘さんに話してくれた。

皮肉な話だが、人権擁護のポスターで子供達が描いた絵。

地球の上に、肌の色の違う人達が民族衣装を纏って手を繋いでいる絵。

毎年のように同じ絵が提出されるらしい。

あれをそのまますればいい。

「どういう事?」

実際に皆で手を繋いで歩く。

子供の考えた馬鹿げた案だ。

何と言っても恥ずかしい。

男子なんて誰も手を繋がないかもしれない。

それでも大人達は僕なんかの意見をとても真摯に検討してくれた。

「要は、1人で歩く子を放っておかないって事よね。」

「そうね。口で言うだけじゃ無くて、行動させればいい。」

出席していた保育園、幼稚園、小学校の関係者が受け入れてくれた。

「子供達だけじゃなくてもいいでしょ。」

「商店街の夫婦も出掛ける時は手を繋ぎましょうよ。」

と誰かが言った。

「まあさすがに男同士はちょっとなぁ。」

「それが恋人同士なら堂々とすればいい。」

驚いた事に、結果的に僕の案は満場一致で可決された。


教育機関では早速その要綱をまとめ運動を始める。

小学生の高学年にもなるとさすがに恥ずかしいだろう。

男子は殆ど手を繋ごうとはしないが

仲の良い女子達で手を繋いでいたり、

大人達が手を繋ぐ場面を見るようになった。

子供が1人で歩いていると、それが例えただのおつかいだとしても

見掛けた大人がその手を取る事も増えた。

一歩間違えば誘拐やら性犯罪の温床になりかねないと非難されるかも知れない。

子供達から警戒心を奪うのだから。

そうならないのは、この街だからこそだと認識する必要はある。

そのためにも大人達は「あの人が誰か」なのかを認識している必要がある。

下手をすると、より封鎖的になる可能性だってあった。

それでも、僕なんかの提案に乗って、皆で手を繋ぐようにした。


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