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開放感はあった。
守護者達と一緒にいるのが息苦しいとは言わないが
24時間見張られているような気はする。
今はそれがない。
周囲を警戒する緊張感も無い。
今僕が誰かに浚われても指輪は無事だ。問題ない。
何年ぶりだろうか映画なんて。
その後昼食を一緒にして、お互いの買い物に付き合って、
ゲームコーナーで遊んで。お茶して。
駅までのバスの中でもずっと喋っていた。
「女子校なんか行ってると男子と遊ぶ機会なんて無いから。」
「私理緒君以外の男子のアドレスなんてありませんよ。」
いつだったかファミレスで交換した互いのアドレスは後日とても役に立った。
彼女達が僕の守護者ではなく、僕に直接連絡してくれた事で
ややこしい事態を防ぎ、一つの真相を突き止めることが出来たのだから。
夕方、予定より遅くまで彼女達と遊んでいた。
本当はもっと早く帰るつもりだった。
お昼前後に帰えれば誰にも気付かれないだろうと思っていた。
それでもこの時間になってもメールや電話が一切無いのだから安心していた。
今日は皆忙しかったのだろう。
家に帰り、工房で荷物を降ろして、引き出しから指輪を取り出し首にかけ、
とドアが開く。紹実さんだ。
「理緒。」
うん?
驚いたような顔の彼女は僕に歩み寄り、突然抱きしめられた。
「何処行ってたっ。心配かけてっ。」
何処って、僕はずっとこの部屋に居た筈だ。心配なんて誰もしていないだろう。
友維の友人2人は土曜から来ていた。
3人の魔女は朝早くから全員出かけた。
紹実んが仕事に出たのを見てから抜け出した。
友維が昼食を差し入れようと工房を訪れた。
部屋には鍵が掛かっている。ドアを叩き呼んでも返事が無い。
アホな実験でもしてヤバイガスでも発生させて倒れたか。とか考えたようだ。
紹実さんに連絡を取り、合鍵で開けるが中は空。
魔女の誰かが連れているのかと連絡を取る。
それぞれの実家に帰っていた筈の3人は桃さんと一緒に橘家に居た。
何してたんだ?
さらには碓氷先生に連絡を取って僕の行方を捜していた。
大騒ぎだ。
携帯は鳴らなかった。当たり前だ。映画館に入る前に電源を切ってそのままなのだから。
怒られるのだと思ったら逆に謝られた。
蓮さんに至っては「無事で良かった」と涙さえ浮かべて僕に抱き付いてきた。
揃って
「1人きりにして済まなかった。」と謝った。
1月に小室さんと交わした魔女達の約束とはこの事だった。
「理緒を決して1人にするな」
正月に交わした約束を節分過ぎに破ってしまうなんて。
ああそうか。涙のワケはこれか。
小室さんに怒られるのが怖い。
引き替え、紹実さんと友維はずっと怒っていた。
「勝手にいなくなるなと何度も言っただろ。」
もっとも友維はずっと僕を嫌っている。
面と向かって「幻滅した」とまで言われている。
僕は嫌われて当たり前の事をしている。
今回の事も、心配して怒っているのではない。
嫌いだから怒っているだけだ。
他の魔女達もそうだ。小室さんに怒られるのが怖いだけ。
だから「何処へ行っていたのか」と聞かれても
ショッピングモールでフラフラしていた。としか答えなかった。
指輪を外して行ったのは賢明だけど今夜は熱が出るかもしれないから覚悟しておけと姉に脅され
その通り寝込み、翌月曜日は学校を休む事になった。
貧弱だ。
指輪が無かったら3日もすれば死ぬかも。
熱があったからだろうか、「それならそれでいいや。」と考えていた。
指輪を何処かに捨てて、一緒に消えても構わない。
食欲が無く朝も起きずにベッドの中にいた。
皆は学校に行っただろうか。
指輪守護の業務から解放されて気楽に過ごせるに違いない。
気付くと眠っていて、息苦しくなって目を覚ますとノトさんが胸の上で丸まっていた。
体を起こすと額から冷たいタオルが落ちた。
母屋に行くと紹実さんがいた。
すみません。また会社休ませてしまって。
「気にするな。それよりお腹空いたんじゃないか?」
少し。
紹実さんが話し始めたのは、食事を終えてお茶を飲んでからようやくだった。
「いつから考えていたの?」
ん、何を?
「1人で旅行するつもりなんだろ?」
ああそうか。リュックも靴も出したままだった。気付かれて当然か。
いつからかなんて覚えてません。
多分、彼女達がこの家に住み着いてすぐの事だったのだろうけど。




