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気付くと葵さんもいる。
「何だよお前らゾロゾロと。」
「おかしな事言いますね。理緒がいるところが私たちの居場所ですよ。」
葵さんが僕の胸倉を掴んで引き寄せた。
「お前、勝手にいなくなるなって何度も言ってるだろ。」
寝てたから。
「その事じゃ無い。」
皆頭がオカシイ。
こんな怪獣みたいな人にボコボコにされてまでする事?
僕は結構真剣に言ったつもりだった。
「酷いなお前。化物扱いするなって言ったら怪獣扱いかよ。」
「みたいなって言うより怪獣そのものじゃない。」
「そうだそうだ。」
「人間の怪獣だ。」
「魔女共が何言ってやがる。炎吐いたりお前達のが怪獣じゃないか。」
「吐いてはいないわ。その魔女達足蹴にしておいて何言ってるんだこの人。」
「ホントですよ。指輪なんか付ける必要無かったでしょ。」
「付けなかったら道場ヤバイかと思って。」
小室さん個人的には「魔法そのものを打ち消す力」なんて必要無かっただろう。
炎が飛んできて避けたら道場が燃える。とかそんな心配だ。
そこまで考える余裕があった。
魔女達の完敗だった。誰かに言われるまでも無い。
魔女達は言い訳をしなかった。
「体調が万全なら」とか「疲れていなければ」とか一切泣き言は言わない。
どんな状況であろうと「指輪を守らなければならない」と知っているから。
多分、小室さんはそのつもりでそうしたのだろう。
だから「明日はゆっくり休め」と言った。
小室さんは魔女達の覚悟を見た。それで充分だった。
魔女達は「物足りない」と言った。
自分達が弱いのだと思い知った。
「おまえ達は充分強いよ。」
気休めでは無い。小室さんの強さが特別だから言っているのでもない。
「でも勝てなかった。」
「負けてもいないだろ。私はこいつの唇奪えなかったんだから。」
冬休みは残り3日。
その気があるなら特別に道場は使っていい。どうせ子供達が練習する。
「私がお前達に教える事なんて最初から無かったんだからな。」
紹実さんは気付いていた。魔女達は目的を見失っている事に。
小室さんはそれを察してくれた。
仕返しだとか復讐だとかではない。大事な者を守る強さ。
見極めたかったのは覚悟。
寒いからと皆で広間に戻って、小室さんも一緒に一晩中話をしていた。
小室さんは魔女達に乗せられて彼女の学生の頃の話をしてくれた。
橘結さんが話してくれた物語を少し異なる視点からなのが面白かった。
朝方になってようやく少しだけ眠った。小室さんには悪い事したな。
僕達はその日のお昼ご飯まで小室家で過ごした。
「お前達、約束忘れるなよ。」
約束?
「そうだよ。昨日の夜私は魔女達と約束したんだ。」
何の?
「それは言えない。それも約束だからな。」
その約束を聞いた桃さんは皆を気遣って確認までしてくれた。
「いいんですか?魔女達との秘密の約束なんじゃないんですか?」
「何言ってるんだ。お前も最初から頭数に入ってるじゃないか。」
「頭数?」
「それとも桃は理緒が嫌いなのか?」
「え?あ、いやその。」
「まあもっとも桃には約束ってよりお願いだな。」
桃さんは答える。
「絢姉ちゃいえ先生。約束します。先生のお願いじゃありません。アタシが先生に約束します。」
桃さんもその約束を教えてくれる事は無かった。
三学期が始まっても、目新しい動きは何も無かった。
週末に魔女が現れる事はあっても「最強の魔女」の噂を聞き付けただけだった。
僕達は「魔女を狙う者かがいるから気を付けるように。」とだけ注意し引き取ってもらっていた。
それが何者なのか聞いてくるのだが「委員会」の名以外僕達にもまだ判らない。
女子校に通う双子の魔女は姿を見せなかった。
彼女達に「先生」と言われていたあの女性もだ。
僕は何度か直接学校に行って話をしたいと皆に相談したが揃って止められた。
「女子校だぞ?」
女子校だから何です。
「理緒が行ったら通報されかねない。」
最近は葵さんまでこんな事を言い出す。僕が何をした。
それで担任の碓氷先生に相談した。となりの町だが魔女として交流は無いのか。
「昔は魔女同士交流もあったみたいだけどねー。」
「それに私余所者だから。」
もしかしてこの人は僕のために態々この学校に来てくれたのか?
「気になるならそれとなくあたってみるよ。」
魔女としてではなく教師としてのツテが何処かしらにあるかもしれないから。と言ってくれた。
「約束はできないから気長に待ってろ。」
すみませんご迷惑かけて。よろしくお願いします。と帰ろうとすると
「待て待て。こっちの要件がまだだ。」
何かイヤな予感がする。
「年末年始はどうだったよ。」
どうって、何。
「進展はあったのか?」
何の。
「ずっと一緒だったんだろ?」
あー・・・
聞いているか知りませんが、もう滅茶苦茶大変でしたよ。
「その話はいいや。」
聞けよ。
「イイよ別に。小室道場でしごかれたんだろ?」
「県外からも態々入門にくるくらい有名な道場だからな。それなりの収穫はあったんだろ。」
僕には無い。魔女達にはあったようだけど。
「そうなのか?お前が一番頑張ってたって聞いたぞ?」
僕はただ殴られてただけですよ。
魔女達は立派だった。とても。あの場面を思い出すと胸の中が痛む。
先生。彼女達を僕から解放してあげてください。




