53
年末年始の騒動は終わる。
1月4日。
新学期までの残り数日、魔女達は再び小室道場で過ごす。
普段道場に通う子供達と共に修練に励む。
午後、子供達が帰る頃僕が道場へ。
判ってはいだか小室絢に殴られ続ける。
学校が始まるまでこれが続くのだろうか。
もしかしたら学校が始まっても続くのだろうか。
1月4日
どうして朝から剣道の胴着を着せられているのだろうか。
相対する宮田桃は防具を付けていない。
代わりに竹刀を持つ。
僕に竹刀は?
「必要ない。」
「桃。遠慮とか手加減するなよ。理緒のためにならないから。」
桃さんは本当にイイ子なんだろうな。
殺気を纏い僕を襲う。
「よく見ろっ動けっ避けろっ。」
無茶言うなっ。
面付けてても意外と視界良好。なんて余裕ぶっこいてすみません。
面喰らうとクラクラする。
竹の棒のくせに痛いっ。
竹の棒怖い。
動きが止まって、追い討ちくらって倒れても
「休むな。立て。」
何で?どうして立つんだ?
「桃、構わないから打て。」
「でも。」
「理緒のためだ。」
桃さんは本当にイイ子だ。
棒立ちの僕を無遠慮に叩く。切る。
「手加減するなと言っただろっ。」
「はいっ」
多分、面だと思う。
意識を取り戻したのは
道場の子供達がお互いを斬りつけるために発する叫び声だった。
見上げると小室絢が覗き込んでいた。
「どうだった。」
怖かったです。
「それが判ればいいよ。」
小室さんは子供達を指差して
「戦うのは誰だって怖い。だから精一杯強がる。」
「お前を守っている魔女達もきっとそうだと思う。」
きっとそうだ。
彼女達はいつも余裕を見せている。
それがきっと精一杯の虚勢なのだめう。
誰かを守ると決めたから、弱い自分を見せまいとしているだけだ。
「少し休んだらまたやるぞ。」
はい?
「怖いのが判ったら次はその対処の仕方を学べばいい。」
「簡単な理屈だろ?竹刀で叩かれれば痛い。それが嫌なら避けろ。流せ。」
簡単に言ってくれますね。
「おう。人事だからな。」
酷い師範だ。鬼軍曹。
「年末姫んとこで親父さんに何も習わなかったのか?」
「基本は一緒だ。ただちょっとリーチが長くなっただけだ。」
ちょっと。か。
だからって漫画や映画のように簡単にホイホイと避けたり流したりなんて出来る筈も無い。
面が来るのが判っていても避けられない。
桃さんの打突が速いだけではない。
怖くて竦む。
恐怖が一瞬体を硬直させる。
考えてみれば、僕は怖さも恐ろしさも体感したことが無かった。
殴られ続けただけでも疲れる。
お昼なんて食べられそうにない。起きるのも辛い。
桃さんは申し訳なさそうに僕を介抱するのだが
「ほっとけ。本当に理緒の友達なら手を貸すな。」
「ほれ理緒。他の連中に心配かけるな。立って歩け。食事してこい。」
返事も出来なかった。口は動いたが声は出ない。
後ろで桃さんが小室さんに「厳しすぎませんか」とか「素人ですよ」とか言っているのは聞こえた。
とてつもなくゆっくり歩いていたのだろう。牛歩ってこんな感じかな。なんて思ったりもした。
広間には子供達もいて皆楽しそうに食事していた。皆お弁当持参だ。
て事は今日は午後も練習するつもりかこの子供達。
見慣れない高校生が重い身体を引き摺ってそんな場所に入れば皆不思議に感じるだろう
「宮田先輩にボコられてたのって兄ちゃん?」
そうだす。わたすだす。
「まあ皆通る道だからなー。」
と言い出した。
「オレ昨日やられた。」
どうして?
「来週試合だから。」
はて。僕は試合なんか出ないぞ?出るのか?エントリーとかしてるのか?
ほどなくすると「空手班」が戻ってくる。
魔女達も一緒の筈だけど。
「お姉ちゃんたちなら後から来るよ。」
途中で走れなくなって歩いたので遅れるようだ。
と言うか朝からずっと走ってたの?
「まさか。公園で遊んだりしたよ。」
丘の入り口から公園を抜けて神社まで(階段ではなくその先の道路が橘家まで続いている)を往復。
その途中の公園で「遊んだ」らしいのだがどうやら「遊ばないとだめ」なルールらしい。
しばらくするとグッタリしながら魔女達が戻った。
喋れるような状態ではないが僕同様「食事はしろ」と言われたようだ。
子供達は食事を終えると皆丁寧に挨拶をして帰った。
なるほど皆で食事するのも楽しいよな。
「うーん」
「あー」
唸り声だけがその広間にこだました。
誰かがそれを笑い出して釣られて皆笑ってしまう
「やめろっ痛いんだから。」「笑うの辛い。」等々言っていると小室さんが現れて
「お、余裕あるな。そろそろ再開するか。」
「ぎゃっ。」




