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元日の夜。
19時過ぎた頃になってようやく人の列が無くなり
立札の案内も不要になった。
橘家に戻ると藍さんと佳純ちゃんがぐったりしていた。
自分達で作ったお節をつまみながら大人達に聞かされた話によると
どうやら2人共ほぼ無休で働き詰めだったらしい。
藍さんは初めての事で緊張もある。
何より巫女装束を纏って神社でのお手伝いをしている以上
「いつもみたいな口調」で相手を罵るわけにもいかない。
どうやら僕が一番楽してたみたいですね。
「まったくです。明日は理緒君がアレ着て境内に立っていてください。」
「そうだそうだ。」
「それも面白そうだな。」
佳純ちゃんも小室さんも揃って何をバカな事を。
1月2日。
朝から葵さんと蓮さんが家族を伴い参拝に来る。
この神社に初詣に来るのは初めてだそうだ。それもそうか。
それぞれの親達が橘家小室家の関係者に挨拶をする間、
二人は巫女装束でお手伝いをする藤沢藍に
「似合ってるわね藍ちゃん。魔女じゃなくて巫女さんになったら?」
「・・・」
葵さんも蓮さんもニヤニヤしている。
その後ろから小室絢が
「笑ってないで2人も着ろ。」
その言葉に彼女達の親達も「記念になるから」とか「面白そうだ」とか言い出す。
僕は知っている。
藍さんは事前に小室さんに頼んで巫女装束を用意してもらっていた。
2人の魔女が着替えると3人揃って神主さん(橘さんの父親)からお清めを受ける。
魔女が3人、日本の神社で何をしているのだろう。
藍さんの思惑と異なったのは2人がとても喜んだ事だった。
「一度着てみたかったのよねー。」
「何かこう、身が引き締まるな。」
僕は喜ぶ2人を見て悔しそうな表情を浮かべる藍さんを見て少し笑ってしまった。
「やっぱりあなたにも着てもらいましょうか。」
「そうだお前も着ろっ。」
勘弁してください。
結局2人も巫女装束のまま神社での手伝いに狩り出されてしまい親達は先に帰り
夕食後ようやく小室さんにそれぞれ送り届けられる。
その間僕は社務所で御守りの補充をしたり落ちた御神籤を結び直したりで1日境内をウロウロしていた。
途中何度か橘さんと佳純ちゃんが頭を撫でてくれたお蔭で無事に過ごせた。
1月3日。
町内の人達が初詣に現れる。
元日と2日はこの神社が忙しいのを承知しているのでいつの間にかそうなったらしい。
そしてそのまま橘家で催される新年会に参加する。
紹実さんとそのご両親が友維を連れて来た。
三原縁さん。この人も魔女。設定では僕と友維の母親でもある。
挨拶し、参拝後
友維は早速小室さんに捕まり巫女装束にされた。
「君にもずっと会いたかったんだ。」
「ホント、紹実ちゃんの妹ってねぇ。」
小室さんと南室さんに散々いじられる。
そして
「始めましてユイちゃん。私もユイって言うの。」
「知ってますお姫様。母はあなたから名前を貰ったって言ってたから。」
「そうなの?字も一緒?」
「いえ、友に維新の維です。」
「素敵ね。友達をつなぐのね。」
「そうなんですか?そういう意味なんだ。」
「あなたにはたくさんのお友達が集まるわ。そして友達がまた友達になってそれを繋げる。」
「だからってあなたが特に何かをしろって事じゃないのよ。」
「維という字には最初であるって意味と中心であるって意味があるの。」
「多分今までも勝手に友達が出来ていたでしょ。」
友維はこの時鳥肌が立ったのだと教えてくれた。
欧州各地で過ごした10年間。いつも自分の周囲には友達がいた。
見知らぬ場所のパーティーでも、気が付くと同年代の子供達が集まっていた。
あれは「名家の居候」に興味本位で集まった連中じゃないのか?
「素敵なトモダチに巡り合うのは何よりの財産よ。自分の名前を大切に想ってね。」
「は、はい。」
友維は橘さんに頭を撫でられて嬉しそうに、少し恥ずかしそうに頷いた。
葵さんのそれとは違う言葉の説得力。
橘結の言葉には「重さ」と「温かさ」がある。
友維は今、その名を付けてくれた母に改めて感謝しているのだろう。
紹実さん達はそのまま新年会に参加するため橘家に向かう。
友維と佳純ちゃんはカルタ大会のお手伝いに連れ出された。
その間僕と藍さんは新年会用の料理を手伝わされる。
お昼近くになると気の早い人達が橘家に集まり勝手に新年会が開始される。
そしてカルタ大会の後片付けを手伝う友維の元に、桃さんが3人の女性を引き連れて現れる。
桃さんのお姉さんとそのお友達。
その3人は佳純ちゃんやその祖父、関係者や参加者に挨拶を済ませると
「この子が紹実姉ちゃんの妹だ。」
桃さんが得意気に紹介する台詞に被せ気味に
「お前紹実の妹だなっ」
「小さい時の紹実ちゃんてこんな感じだったのね。」
「はあああん若いっ。」
揃って友維を撫で回す3人。
「ちょっ、何をっやめれっ。」
「おまえ達だなっ姉ちゃんの言ってたピー妖怪三人組ってっ。」
汚い言葉なので伏せよう。
「あのおばはん何て事を」
宮田杏の怒りに対し、なぜか友維が彼女を蹴った。
「いたっ何しやがる。」
「おばはん呼ばわりしたら蹴っとけって言われたんだっ。」
「あの野郎。お前ちょっとこっち来いっ。」
こうして我が妹友維が浚われた。
なんてことはない。
巫女装束のまま担がれた先は新年会の会場。
そこには僕が夏祭りで出会った人達も多くいる。
碓氷先生もいつの間にか宴席に加わり盛り上がっていた。初詣はしたのか?
最初は友維もイヤイヤだった。うざったそうで面倒くさそうだった。が。
縁さんが「私の娘よ。紹実の妹。去年まで私と一緒に欧州回ってたけど今年からここに居るからよろしくね。」
それを聞いた皆はどうして何の違和感や疑問を抱かず受け入れられるのだろう。
「おおそうか紹実ちゃんのねぇ。ほらお年玉だ。」
とポチ袋を受け取った瞬間から態度が一変した。
「いい風習だなお年玉って。」
新年の挨拶をするだけでお小遣いを貰えるのだから子供にとっては何とも有難い行事だ。
誰かが現れると率先して3人の誰かを引っ張って紹介させる。
そして僕がそうされたのと同じように皆一様に姉の名前に興味を示す。
年配の人からは「紹実ちゃんの妹さんかい。そうかい。」としみじみされたり
お喋り好きそうなおばちゃんからは「紹実ちゃんは小中高って私の後輩でねぇ。」など
共通していたのは「あの頃の紹実ちゃんはそりゃもう活発で元気でなんたらかんたら」
当の紹実さんも酔っているのか「私そんなに暴れん坊じゃありませんよ。」笑っている。
そしてその後は「絢ちゃんが立派に跡を継いで」と続き、
「今度はあんただねぇ。」




