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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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僕はサンドバッグではない。

突っ立って殴られ続けるつもりは無い。

小室絢が怪獣の如き強さだとしても

相当手加減をしているのは僕にも判る。

小室絢の考える手機嫌は

僕にとってはまだまだ「怪獣なみ」の強さでしかない。

魔女達に対しての攻撃の見本。

なのだと思い、覚悟を決めて受け続けていた。

「受けろ。躱せ。」

簡単に言う。

こんな程度で。と小室絢はきっと呆れているだろう。

幸い骨は折れなかったが顔以外痣だらけになった。

昼食を挟み午後、橘家に戻る。

橘姉妹の父親から稽古を受ける。

橘家の広い客間なら大取物も可能だろうが

使用する畳は僅か二畳。

足捌きと呼ばれる足の運び方と、それに連動する体捌き。

手足バラバラのようで、その動きはな滑らかで滞りがない。

身体と同時に頭が疲れる。

こんな1日が3日続いた。


12月28日。

午前中は神社の作業の手伝いに全員が集められた。

橘家の広間で新年のお配り物と袋詰めや御守りの準備等々。

「一つ一つ、丁寧に、参拝に来てくださった人に一年無事に過ごせますようにって思いを込めて。」

と小室さんが言うので皆あまりに真剣になりすぎた。

「もう少しリラックスしてよ。」

橘さんは笑いながら続けた。

「参拝者の方々の無事を祈るのは私の役目だもの。皆は楽しい事を考えながら詰めて。」

「皆で楽しくお喋りしながら。その楽しさも一緒に詰め込んでよ。」

談笑しながらの「和気藹々」な作業なのだがいかんせん数が多い。

そんなに初詣客が来るのかこの神社。

昼食を挟み16時過ぎに全ての作業が終了した。

「さすがに人数いるだけ速いな。」

「大助かりよ。」

3日間の修行でボロボロだった身体は休めたものの

全員集中力を使い果たし伸びている。

「とりあえず第一次合宿はここまで。」

「こっちも年末年始忙しくて相手していられないから。」

重くて痛い身体を引き摺りながら時間を掛けて三原家にようやく辿り着く。

「せっかく面白くなってきたのに。」

蓮さんがぼやく。

「もっともっとたくさん教えてもらいたい事がある。」

葵さんは同意しているが

「マゾですか貴女達。」

藍さんは本気で呆れる。

「違うわよっ。」

「年明け冬休み終わるまでまたやるってんだからそれまでゆっくり休みましょうよ。」

久しぶりってほどでもないのにとても懐かしく感じる我が家には

紹実さんの両親が帰国していて

「おかえりなさい。やっと息子に会えたわ。」と出迎えてくれた。

ああそうか。紹実さんが姉ならこの人達は両親なんだ。

「娘もこんなに増えて。お土産足りるかしら。」

3人の魔女達の事を言っている。

友維はこの人達と面識があるようだった。

仕事であちこち回ると言っていたから欧州で会った事があるのだろう。

夕食を共にしながら世界中の話をしてくれた。

世界が本の中にしか存在しない僕にとっては

この2人の話はファンタジーでしかない。

夕食後久しぶりに工房に戻る。当

たり前だが何も変わっていないその部屋はとても落ち着く。

今日は皆もそれぞれの部屋でくつろぐのだろうと思っていると

3人が揃って現れ、いつものように藍さんがコーヒーを淹れた。

今日くらい部屋でゆっくりすればいいのに。

「ここが落ち着くから。」

「ここにいると自分が魔女だって実感できるのよね。」

「そうですね。どうしてでしょう。私はじめてこの部屋に入った時とても懐かしい感じがしました。」

高校生男子としては特殊な部屋だとは思う。

(当たり前のように藍さんが膝に乗せた大きな熊のぬいぐるみもそうだ)

紹実さんと、その両親によってつくられた「魔女の部屋」

学校の勉強に関する諸々は端に追いやられ、

およそ日常ではない書類や文献や装置の数々。

それらは彼女達が幼少の頃から目にしてきた諸々と相違ないのだろうか。

「学生」と「魔女」の両立。そのバランス。

頑張って、魔女になったからって、その先は?

部活やクラブで頑張ってその先にプロになれる子供達がどれほどいる?

まして「魔女」なんて職業は存在しない。

それは現代社会においてただの呼称でしかない。

(しかも世間的にはマイナスイメージを持たれている)

履歴書に「趣味・魔女。特技・魔法」なんて書いたらどうなるか。

早い時期から「魔女」を捨てる者も多いらしい。

親が子に願う事すらしない。

「魔女なんか」にならず、普通の勉強をして社会に出て欲しい。

「魔女」と言うだけでイジメられたりしないで欲しい。

と願うのは親として当然なのだろう。

それでも彼女達は自らを「魔女」と呼ぶ。

こんなワケの判らない男子1人守るためにだって

その存在意義を否定したりしない。

傷付き、苦しみ、どれほど孤独であろと、彼女達は魔女であり続けた。

この先の事は判らない。

いつか諦めてしまうのかも知れない。

僕は彼女達が「魔女」であり続ける理由なんて知らない。


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