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「皆も同じ気持ちなのね?」
紹実さんは念を押した。
僕は彼女が反対すると思っていた。
実際一度断られていた事を僕も知っている。
僕への「お願い」と言うのは紹実さんへの口添え。
多分僕のお願いなら彼女は聞いてくれるだろう。と。
高校一年の女子にとってのクリスマス。
それは魔女とか剣士である前に女子高生として欠かせないイベントの筈。
3人の魔女はその全てを放棄する覚悟だった。
なのに紹実さんからの提案に魔女達は嘆く。いや驚く。
「先方には私が話をつけておくから。」
紹実さんの提案とは
「しばらく小室家に行け。」
そして小室絢の出した条件が僕を含め魔女たちをさらに困惑させた。
僕達は道場に通う小学生相手にクリスマス劇を披露する事になった。
なぜ?
どうして物語を作らなければならない。
「理緒君文化祭で劇のシナリオ作ったよね。」
「そうですよ。毎日のように図書館通ってるし。」
こうして押し付けられた。
オーギーレンのクリスマスストーリーのような気の利いた話が作れるといいのだが
魔女とクリスマスに関する文献はそこそこ見つかった。
ベファーナとエピファニアの話なんて面白そうだ。
イタリアでは魔女がプレゼントを配る。悪い子には靴下に炭を入れる。
サンタなんて居るかどうかも判らないし
「いるって。フィンランドにはたくさん居た。あ、これ言っちゃダメなやつだったかな?」
見たの?
「見たってかサンタの家に行って遊んだよ。」
フィンランドにはそんなものがあるのか。
劇。か。
紙芝居って言うか人形劇って言うか、書き割りでどうかな。
これなら皆はアテレコだけで済む。
役割分担も出来る。
「で、物語はどうするの。」
子供が楽しめるように単純にしましょうよ。
ナレーション。
「皆さん知ってますか?
イタリアではクリスマスになると魔女がプレゼントを配ります。
今年もサンタさんのお手伝いで良い子にはプレゼントを配るように言われました。
でもいたずら好きの魔女は悪い子には靴下に炭を入れるのです。」
背景・夜の町。人物・3人の魔女が箒に乗っている。
魔女A「たくさん配ったなー。」
魔女B「もう疲れたよー。」
魔女C「でももうすぐ終わるよ。」
背景・男の子の部屋。暗い。ベッドに寝ている。 人物・3人の魔女が立っている。
魔女A「この子はどうだ?」
魔女B「悪い子だ。」
魔女C「道で立小便をしてた。」
魔女C「猫に石を投げた。」
魔女B「なんだと?こいつの上に石を乗せてやる。」
魔女A「あーダメダメ。起きちゃう。」
魔女B「炭だな。」
魔女C「炭で。」
魔女B「もう顔に炭って隅々まで炭で描いてやる。」
魔女A「だから起きちゃうって。」
ナレ「魔女達は靴下にこれでもかと炭を詰めました。」
背景・夜の町。人物・3人の魔女が箒に乗っている。
魔女A「もうすぐプレゼント終わるかな。」
魔女B「今度の子はどっちだ。」
背景・女の子の部屋。暗い。ベッドに寝ている。 人物・3人の魔女が立っている。
魔女C「この子は良い子だ。」
魔女C「お花にお水をあげていた。」
魔女C「ママのお手伝いをしていた。」
魔女A「良い子だ。プレゼントをあげよう。」
魔女B「でも待った。」
魔女B「良い子にプレゼントを渡したら私達の分が無くなるよ。」
魔女A「ああホントだ。どうしよう。あと3つしかない。」
魔女C「でもこの子は良い子だよ。プレゼント入れないと。」
魔女A「うーん。うーん。この子が悪い子なら良かったのに。」
魔女B「そうだそうだ。悪い子なら良い子なのに。」
魔女C「良い子だから悪い子だ。」
魔女A「そうだそうだ。良い子だから悪い子だ。」
ナレ「魔女達はその子の靴下にプレゼントを入れませんでした。。
その代り、たくんさの炭を入れたのです。」
背景・夜の町。人物・3人の魔女が箒に乗っている。
ナレ「サンタの家に戻った魔女達は「プレゼントを配り終わりました。」と言いました。」
背景・暖炉のある部屋。白いヒゲのと赤い服のサンタ。 人物・三人の魔女が立っている。
サンタ「お疲れ様。お前達のプレゼントもちゃんと用意してあるよ。」
魔女ABC「やったー。」
魔女ABC「もうけもうけ。」
ナ「でもサンタさんは全部見ていたのです。」
サンタ「悪い魔女へのプレゼントはこれだー」
ナレ「サンタさんは3人の魔女に炭を塗りました。」
魔女ABC「わーわー。やめてー。ゴメンなさーい。」
サンタ「プレゼントはちゃんと配ってきなさーい。」
魔女ABC「ハーイ。行ってきまーす。
ナレ「魔女達はもう一度皆のところへ行きました。」
背景・昼の町。人物・空飛ぶ三人の魔女。
魔女ABC「よーし皆にプレゼントを配ろーう。」
書き割りの後ろから3人の魔女が袋を持って登場。
道場の子供達にプレゼント(お菓子)を配る。




