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事情を知らないのは友維も同様の筈なのに
前置きも前振りも無く葵さんより早く突然飛び掛った。
自らを炎に包み、重く深い踏み込みから
女性の懐目掛け一直線に突っ込んだ。
ほんの一瞬出遅れた葵さんは横に回り込もうとする。
「あらかわいい。」
受け止めもせず、避けもせず、そう言っただけだった。
友維は何に弾かれたのだろう。
空高く舞い上がった彼女の身体は、ぐにゃりと体の力が抜けている。
「ほらお兄ちゃん受け止めてあげなさい。」
友維は真っ直ぐ僕の元に落ちてきた。
目を離していたので判らないが葵さんも弾き返され、桃さんが慌てて止めに入る。
「きゃっ」
小さい叫びを上げながら受け止めるが2人とも勢い余って転がる。
すぐに立ち上がった。怪我は無さそうだ。
「こんな程度で返り討ちだなんて笑わせるわねお嬢さん方。」
「少なくとも私にホコリの一つでも付けないとそこの王子様を奪われるわよ。」
「言いたい事を」
「言ってくれますね。」
蓮さんが風を作り、藍さんがその通り道を作る。
2人の連携。何時の間にこんな事練習したんだ。
良く見ると葵さんもブツブツ言っている。
女性に向かって腕を伸ばし、その動きを封じようとしているのか。
細く尖った無数の風の槍が女性に当る。
弾かれたり外れたりした風が壁や電柱を削る。
こんなのに当ったら死んじゃうんじゃないか。
カナさんが慌てて周囲に結界を張ってそれ以上の被害は防いだが
同時に結界内に風でホコリが舞った。
「もう。ホントにホコリだらけにするって何よ。」
無傷だった。
笑ってさえいる。
蓮さんの起こした切り裂くような風はそよ風になり女性の周囲を回る。
「返すわよ。」
突風が飛んできた。
僕は妹を抱えたまま吹き飛ばされ転んだ。
「ホラ帰るわよ。」
と聞こえて、風が収まり魔女達が目を開けるともう誰もいなかった。
何とか友維を庇ったが肘と背中を擦りむいた。
「理緒っ。」
桃さんが慌てて助け起こそうとするが
それより友維が。
「んー。」
良かった。気を失っていただけだ。
友維。友維っ
「んーなんだよもう。うわっなんだ離せっ。」
どうして僕に抱き抱えられているかなんて判っていないので振り解いて逃げる。
それでようやく桃さんに手を取られ起き上がる。
皆怪我は?
「お前が言うな。」
「ホントよ。何勝手に転んでるのよ。」
相当イライラしている。
あ。
葵さん鼻血が。
「ん。」と袖で拭おうとしたので
ちょっ待って。ハンカ
「あるからイイ。」
彼女はポケットからハンカチを出して鼻に宛がう。
「ちっ。」
葵さんもかなりイライラしている。
ドシンと地面が揺れた。
蓮さんが電柱を殴って、それが揺れた。
ちょっと何して。
蓮さんの元に行って手を取った。
赤くなっている。
折れたらどう
「こんな程度じゃ折れないわよっ。」
と、その腕を振りほどいた。
「お前達理緒に当るなっ」
桃さんが一喝。
「そうね。悪かったわ。」
「ゴメン。」
いやいいんだ。僕は何もしていない。何もできない。
ただただ守られているだけ。
皆が傷付いても、ただ心配するだけだ。
「魔女は魔女を傷付けられない」なんて嘘じゃないか。
目の前の少女達は皆一様に傷付いている。
怒りの矛先が僕に向いているのでは無い事は承知している。
それでもその原因を作っているのは自分自身なのも承知している。
旅の仲間は、解散するべきなのではないだろうか。
「理緒君。」
え?あ。何?
「よからぬ事考えてそうだから言っておくわ。」
「私はこれで終わらせるつもりはない。」
「次は負けない。」
「そのためには理緒君の協力が必要なの。」
僕の?
蓮さんの提案に、藍さんも葵さもん同意した。
だが僕と、桃さんは乗り気では無かった。
蓮さんは僕が賛成しない事を見越して「協力」の要請をした。
僕は友達が傷付く姿なんて見たく無い。
それを知ったうえで「お願い」と言った。




