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紹実さんは何か心当たりないの?
「お姉ちゃんて呼べよ。」
今それ言う?
「まあ無くは無いわ。」
いつの時代も人は人を妬み恨む。
但し知っている限りではその全てが闇討ちや服毒等
仕掛けた側も非難されるような方法で」
「態々正面から戦って道場破りみたいな話は聞いた事ないな。」
道場破りって言うよりまさに「魔女狩り」じゃないか。
歴史的な意味での魔女狩りではない。言葉通りの意味。
僕達はまだ知らなかった。
この時既に全国各地で同じ事件が起きていた。
その事実が伝わらないのは
敗れた魔女は口を閉ざすから。
魔女は誇り高い。
復讐のために牙を研ぐか、諦めて牙を抜く。
今日僕を尋ねた四人の魔女は、友が魔女としての誇りを捨てる姿に耐えられなかったのだろう。
情報を仕入れようとうそれぞれが動き、出会い、僕の元に現れた。
僕に何が出来る?
彼女達に希望の光を与えられない。
彼女達の恐怖を拭ってはやれない。
「魔女である事を隠す」以外対策は無い。
僕達のように複数の魔女が常に一緒にいられる環境は特殊だ。
彼女たちは怯えて過ごさなければならない。
魔女以外の誰に相談しても対応はできない。
失意のまま彼女達を帰さなければならない。
気休めだが僕達は互いの連絡先を交換した。
情報の共有。
この先一人でも犠牲者を減らすよう魔女同士協力を約束した。
申し訳ない気持ちでいっぱいだった。何にも力になれなくて。
僕は今までに接触した魔女達に連絡を取った。
そのネットワークはまだまだ近くて至極狭い範囲だ。
幸いと言うべきか誰も襲われていない。その噂を耳にした者もいなかった。
僕達の警告でどうやら皆その活動を自重していた事も奏功したのだろう。
友維はずっと怒っていた。
「何だ日本の魔女は。そんな最低野郎がいるのか。」
蓮さんはずっと落ち込んでいた。
元々自分が流した噂によって余計な期待を抱かせてしまったのではないか。
そんな責任は全くナンセンスだ。
1つ、仮にそんな噂が無くても魔女は襲われていた。
2つ、その噂を信じ、僕達の前に現れ警告できた。
3つ、魔女同士の情報共有。
逆にもっと早くこの噂を聞き付けて僕達の前に現れていたなら。
「それはそうだけど。」
それに彼女達には悪いけど、僕は救われたんだ。
あの噂が無ければ、僕は唇ではなく指輪を狙らわれていた。
仮に奪われていたなら、体の弱い僕は今頃こうして
蓮さんを励ます事もできなかったんだ。
僕は腕を広げて彼女を慰めようとした。が、友維がその間に割って入る。
「やっぱり天然じゃねぇかこいつ。」
こいつってのは僕の事か妹よ。
「そうです兄上。貴殿は天然のスケコマシです。蓮ちゃん離れて。ソレは危険な害虫だ。」
害虫扱い。
「だいたい日本人のくせにハグとかするなキモチワルイ。」
兄に対して敬意を抱けとは言わないが少しは遠慮してくれても
「うるさい黙れ。どさくさまぎれに女子高生に抱き付こうとか甘いんだよ。」
と友維は僕を押しのけ蓮さんに抱き付く。
「みっともない兄に成り代わって感謝します。貧祖な兄を守ってくれてありがとう。」
「私のオモチャを壊さないよう守ってくれてありがとう。」
藍さんが後ろから蓮さんに抱き付く。
「私の下僕を盗まれないよう守ってくれて感謝する。」
葵さんも抱き付いた。
「例えばネットで集めるとか。」
「魔女募集って?どうやって本物か確かめるの?」
「注意喚起だけならできない?それが本物だろうと偽者だろうと。」
「つぶやくだけで広まればいいけど。」
「ただ魔女の存在が表の事件に取り上げられるのも面倒だぞ。」
元々魔女はその存在を隠している場合が多い。
その名のイメージから忌み嫌われ迫害を受ける者もいる。
事実、守護者達もその影響を受けている。
隠れている筈の魔女が炙り出される可能性がある。
「だからこそ薫ちゃんは「噂」程度にしたんだと思う。」
その翌週、鏑木姉妹にいつものように絡まれる。
僕達は遠くから来た魔女達の話をした。
「知ってるわよ。」
「先生から聞きました。」
じゃあしばらく自重しないと。
「それはそれ。」
いやいや。魔女だってバレて襲われたりしたら大変だよ。
「返り討ちにしてやる。」
「魔女として黙っていられません。」
鏑木姉妹は事態を軽く見ている。
「そうね。私達の存在を知らしめたら狙いに来るかもね。」
蓮さんまで。
皆を危険な目に合わせたくはない。
「返り討ちですって?」
鏑木姉妹の後ろから現れたのは
いつかのあの女性。僕の敵と称した魔女。
「先生っ。」
「監視?私達が真面目に戦ってるかの監視ですか?」
「んー。ちょっと違うわ。監視はいつもしてるもの。」
「ぎゃっ。」
守護者は僕の壁になり前に立つ。
あ、あのちょっとお話が。
と言ったがかき消された。
「ショッピングモールでの借りを返さないとね。」




