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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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彼女達が再三「本気出してない」と言ったがそれが事実だと判った。

感心と同時に恐怖した。

今回は紹実さんの作った結界の中での戦いだった。

外でこんな事が起きたら?

「多分私がスカウトされた理由でしょうね。」

藍さんが答えた。


結界。

魔法としての起源は、

呪術師の類が「霊的な存在」から「自らの身を守る」ためのもの。

バリアとかバリヤーとか呼ばれるアレ。確か古いフランス語の「柵」が語源。

ともかく、自らを防ぐ手段でしかなかった。

それを結界として利用したのは実は東洋の魔女らしいのだ。

東洋の宗教ではあの世とこの世を隔てる境界線をそう呼んだ。

例えば神や仏、それに類する自然的な何かを祀る際、

「人」をその地に踏み入れさせないようにと、対象を取り囲む。

それは一本の線であったり、川であったり、岩や、杭であった。

「禁制」とされていただけで物理的な障害は何も無かった。(勿論罰はあっただろうが)

そこで神聖な地が荒らされぬように、呪術師がその周囲に「まじない」をかけ

人目から遠ざけたのが始まり。

多分。

これは僕がいくつかの書物から導き出した推測。

詳しくは知らない。歴史の授業じゃ教えてくれないし。藍さんも教えてくれない。

西洋の魔女は、その結界が自分達の使うバリアにとても似ている事を知る。

西洋では対象の内側を囲う。東洋ではその外側を囲う。

この概念の違いを受け入れ発展された技術。

魔女の自己防衛の基本技術だと言った。当然全員使える。

その中で藍さんは、その技術を徹底的に研究した一族の子孫。

おそらくは現在時点でその末裔。

彼女は1mm単位でサイズの調整ができる。

「六面体(立方体)だけではありませんよ。」

他の多面立方体。正多面体や一様多面体は言うに及ばす。アルキメデス双対からダ・ヴィンチの星

果ては錐体、双錐体。何だったらドーナツ型のトーラスからクラインの壺まで。

「計算するのに時間が掛かるから使わないだけ」で

直線曲線ほぼ無関係に対象物を囲める。

人型に囲う事も理論的に可能だが

多面体が複雑に絡まっているので座標の計算が面倒なのと、

止まっているならともかく動いていると移動(つまり時間軸)の予測を同時に行うから

「それだったら大きな箱に閉じ込めたら楽じゃないですか。」

ごもっともです。


魔法にも得手不得手があるらしいのだが

幼い頃から一つの魔法に絞って修練すれば「不得意」なんて言っていられないだろう。

紹実さんやその母親のように、「あらゆる魔法」に精通している魔女は少ないのだと言う。

器用貧乏になりがちなのと、そこまでの情報を後世に伝えきれないのと、

結局は専門家にその知識量で劣るので軽視されがちなのだそうだ。

彼女達が「伝説的な」と揶揄(!?)されるのは

その広く浅い筈の「知識」が、恐ろしく広く、そしてとても濃いからだと知られているからた。

僕としては魔女としてではなく、むしろ個人の資質によるのだろうと勘繰う。


葵さんが「言葉」による魔法を得意とする一族である事は知っている。

蓮さんは?

「私はそうね、四元素って知ってるでしょ?」

風林火山だっけ?

「そーゆーのいいから。」

その四元素が何なの?

「私はその4つの精霊と契約を結び超自然の能力を手に入れた精霊使い。」

そーゆーのこそいらないですよ。

「何でよ。こっちのがむしろ本当っぽくない?」

「まあ魔法に屁理屈並べて科学とかぬかす誰かの兄よりマシですよね。」

「誰かって誰ですか。言わなくても判りますが聞いてあげましょうか。」

仲直りしたんじゃないのか。

「最初から喧嘩なんてしてませんよ。ねえ友維ちゃん。」

「うん。まあでも兄に女子トーク理解しろってのも無理な話で。」

こんな緊張感のある女子トークはイヤだ。


神流川蓮や友維が用いる火炎等は

発火装置と可燃物が必要なのは間違いない。

氷にしてもあれは凝固剤により液体(水とは限らない)を固めているに過ぎない。

手品と同じだ。タネはある。

魔法と呼ばれるのはそれを「見世物」としているかどうか。

使用目的の違いでしかない。

「蓮ちゃんが凄いのはね、それを風として使える事。」

風は温度差によって生じる。

簡単に言うと、と前置きされた説明によると。

目の前に箱(結界)を作って右手を熱く左手を冷たくさせると中の空気に対流が発生する。

「あとはソレをフッと吹いてあげれば風になる。」

生じた対流は出口を与えればそこから抜けるのだろうが

ピンポイントで狙ったり風量を調整するのが難しそうなのは僕にでも判る。

葵さんと藍さんが蓮さんに「一目置く」ような感じなのも頷ける。

ところで神風の術って何?

「気にしないで。たまたまネットで昔のアニメ見てたら言ってたからマネしただけ。」

「今度教えてあげるわよ。女子のスカート捲り放題。」

犯罪じゃねぇか。

それに大体皆のスカートなんか捲ったらそれこそ後で何されるか。

「何もしないわよ。ていうかむしろ見ていいわよ。」

「知ってます?今私達この下何も着てないんですよ?」

「おいおい。」

皆の目付きが怪しくなったところで僕は工房に帰らされた。

「皆はもう少しお茶飲んでおけよ。」


翌月曜日、ペットボトルにその特製のお茶を詰めてもらう。

念のためにと宮田さんの分も預かった。

が、彼女は平然と、いつもと何も変わらない様子。

「おう。おはよう。」

拍子抜けしたような顔をした皆に

「どうした?」

と心配する余裕があった桃さんだった。

安心した僕が軽く挨拶した瞬間

彼女の鼻から一筋の赤い流れが。

「っ桃ちゃん鼻血が。」

「うっ。くっ。」

大慌てな魔女達。

ティッシュは何処だと鞄を漁り、その前にお茶をっ早くっと喚く。

ちょっとした見世物になってしまった。


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