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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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30

僕を守護する魔女達は最初から押され気味だった。

「あら休みボケ?」

圧倒していたのは鏑木リナ。

人数的にはこちらが多いが

1対1の構図が出来上がっている魔女同士の戦いに割って入ると

「予想外」の事態が生じて敵味方関係なく悲惨な状況になりかねない。

それだけ魔女の戦いは思慮深いと言えなくもないが

目の前の肉弾戦を見ているととてもそうは思えない。

葵さんは決して肉弾戦が得意ではない。

「調子に乗るなよ。」

2人の魔女の戦いは格闘ゲーム(した事はないが)を見ているようでもあった。

「魔法は知性に比例する」

と祖母から聞いたような気がするがこれはどうなんだろうか。

リナさんは葵さんを攻撃しながらも早口で次々と捲し立てた

「動くな」「伏せろ」「振り向け」「手を上げろ」「手を下げろ」「回れ右」「撥ねろ」

人の動作に関する動詞を次々と立て続けに、しかも誰彼構わず命令する。

その一つ一つを拾い上げ、相対する言葉、相殺する言葉を葵さんは唱え続ける。

リナさんに対するただ一言「黙れ」を言う機会を与えてはもらえない。

「お兄ちゃんちょっと下がった方がいいよ。」

と友維が言った。

どうやら藍さんも押されている。

鏑木カナさんの作る結界?の数があまり多く対応が間に合っていない。

友維が下がれと言ったのは、カナさんはそのたくさんの結界すら陽動に使って

狙いを僕に定めている事を正確に把握していたからだった。

守護者達は完全に後手に回っていた。

「でもこれって。」

蓮さんがボソリと呟いた。

「やっぱり違和感があるのよね。」

とても悠長な事を言っている。

手助けしなくていいの?

「ん?いいのいいの。2人ともまだ本気じゃないから。」

「まあでももういいかしらね。」

「友維ちゃん、ちょっと理緒君抑えておいてね。」

と蓮さんが一歩前に出る。

「かーみーかーぜーのっ」

顔の前で交差させた両腕をバッと開く

「じゅつぅーっ」

言った途端に強い風。下から舞い上がるような突風。

女子高生のスカートが漏れなく捲れ上がる。

「きゃあっ」とか「ひゃあっ」とか「うわっ」とか悲鳴が聞こえる。

「わー見るなー」と友維が僕の目線を奪おうとするが当人のスカートも捲れるのでそれどころではない。

バッと後ろを振り返って見ないようにしないと。後が怖い。恐ろしい。

女性がいた。

いつだったかショッピングモールで会った人だ。

30mくらい先の、さらに通りの向こうの、通勤通学中の人に紛れて、確かにこちらを見ている。

僕を指差している?

「バン」

口元がそう言っていた。

コツンと額に何かがあたったような。触るが何ともない。

皆の声が聞こえて振り返ると蓮さんが責められている。

「何が術だこの野郎。」

「ちょっと髪が砂だらけじゃないっ。」

「あーお嫁に行けなーい。」

何をやってるのやら

もう一度通りの向こうに目をやるが女性の姿はない。

それどころか、その通りの人の顔なんてまともに見えはしない事に気付く。

なのにどうして判った?

「黙ってたわね。」

蓮さんはどうやら先日のお泊り会で2人が何も言わなかった事を責めた。

「夏休み知らないとこで特訓してたんでしょ。」

「ええ。貴女達がのんびり海になんか行ってる隙に」

「それは私達も行ったじゃない。」

「じゃあ、じゃあ夏祭りなんて行って」

「それも行った。」

姉妹で漫才始めたぞ。

ファミレスに場所を移し話を聞く事になった。

何というか部活の対外試合終わったから打ち上げ的なノリ。

それとも「タイマン張ったらダチ」的なアレ?

「その例の先生が教えてくれてたの?」

「そうよ。1週間合宿まで張ったんだから。。」

「出掛けるって行ってたのってそれね。」

「よくそんなのする気になったな。」

「だって夏休みの宿題免除するって言うから。」

「ちょっと聞きなさいよ。酷いのよ。結局全部やらされたのよ。」

「合宿中空き時間にする事ないなら宿題でもやっときなさいって態々持って来て。」

「3年の担任とか言ってなかった?」

「そうですよ。でも見込みのある魔女だから特別にって。」

「本当に強くなっていたわ。驚いた。」

「ふふん。」「えへー」

と蓮さんの褒め言葉に素直に照れているが

それでも蓮さんがかなり上から言っている事に対しては何も思わないのだろうか。

「特にリナさんの口撃。あなた元々打撃系でしょ?」

「まあそうなんだけど、打撃を極めたいなら口撃も頑張りなさいって。」

そもそも「魔女は魔女を傷付けられない」事への措置。

同じ肉弾戦が得意な魔女同士で戦った場合、

勝敗が決する事は殆ど無い。

であれば、別の一手が必要になる。

一瞬でも相手の動きを封じる事ができれば。

「ただそもそも命令系の魔法って魔女には効き難いでしょ。」

「だから数撃つしかなくなるのよね。」

どうして効き難いの?

「聞こえないフリができるから。」

「余計な情報を意識的にカットするような訓練をするんだよ。」

じゃあリナさんが発していたのってもしかして全部僕に対してそうしていたの?

「んーちょっと違うわ。2人に対してよ。」

リナさんは僕と葵さんに対して「命令」を発していた。

葵さんは両者に対して対応した「命令」で解除しなければならない。

ああそうか。僕がまた足を引っ張ってたのか。

「待て。そんな考え方はするな。」

「そうですよ。大体あなたは守られるべき立場なんですから。」

「私達がそれに対応した措置をとるのは当然なのよ。だからそんな事でいちいち凹まないで。」

そう言ってもらえると少しは気が楽になる。がやはり僕は守られるだけか。

無意識に額をポリっと掻く。

隣に座った友維がその腕を取った。

「何それ」

と僕の額に目をやる。

何って?

「赤くなってるよ。何だコレ。小さなハートマークみたいに。」

ハートマーク?


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