28
「理緒君は少し下がって。」
3人の魔女が僕の壁になってくれた。
昨日の今日でいきなり?それにしても僕を下がらせるなんて初めてだな。
それくらい緊迫した状況なのだろうかと三人を見ると
何とも不敵に、もっと言うと「ニヤついて」いた。
葵さんの先制。
「そこから動くな。」
「嫌よ。」
「動くなと言っている。」
「嫌だってばっ。」
葵さんの言葉にも少女は歩みを止めない。突風の中を歩くように頭から突っ込んで歩く。
「物理的に止めてあげます。」
「お断りしまっつっしますっ。」
少女は藍さんの作った見えない壁を押した。そして「だりゃっ。」と殴り飛ばした。
「熱いのと冷たいの好きな方選びなさい。」
蓮さんはそれぞれの掌に炎と氷を作って浮かべて見せた。
「私は最初から熱いですよ。」
立ち止まった少女は一瞬で炎に包まれた。
蓮さんの魔法ではない。少女は自らを炎に包んだ。
少女は3人の真ん中に飛び込む。その炎から反射的に顔や体を守ろうとする。
それを見越してのことなのか。
一瞬だった。3人の魔女がその熱気にたじろいだ瞬間。
それぞれの脇を擦り抜ける少女の後姿に手を伸ばすが誰も届かない。
少女は僕のすぐ目の前で止まり、僕の唇を
誰もがキスをすると思っていた。と僕だけが思った。
だが少女は僕にキスする代わりに、とても強く抱き付いた。
「会いたかった。ずっと会いたかった。」
少女は「市野萱友維」と名乗った。
久しぶり過ぎて他人でしかない。
面影。とかまったく感じない。
置いて行かれたあの日。
彼女は母と共にドイツの名家(魔女)に世話になる。
母はその後すぐに欧州を飛び回る。指輪の事、委員会の事、父の事。
友維もいくつかの国と地域を巡っていたが「高校は日本の学校に行きなさい。」と言われた。
「他に聞きたい事ないの?」
他って?
「ママの事。」
もう何も覚えていない。
「ママの事恨んでる?」
恨んでなんていないよ。事情は判っている。つもりだから。
だいたい10年も前の事だよ。
今更気にもしていないよ。
だから君も昔の事を
「何だよそれっ。」
妹は目に涙を溜めて顔をしかめた。
ああそうだ。こんな顔して泣くんだった。
当時の彼女の顔が重なり、ようやく懐かしさを感じた。
「ワタシはぁずっと会いたかったんだからなっ。」
「1日だってお兄ちゃんの事忘れた事無かったんだからなっ。」
「ママだってママだってずっと会いたがってたんだぞっ」
一緒にいた期間より、一緒にいない時間が長くなってしまった。
顔を見ても気付かないだろう。
それでも幼かったあの日のように、妹は僕の胸の中で泣くのだと思って
腕を広げた瞬間、パンチがっ鳩尾にっ
「もっとキツイのお見舞いしてやるっ。」
うずくまる僕に彼女は何か魔法を使うようだ
「わーっ死んじゃうからっ。本当に死んじゃうからっ。」
蓮さんが慌てて止めてくれた。
「ママがどんな想いでお兄ちゃんを独りにしたのか知りもしないで。」
そんな事言われてもっっううっ
わが妹はこんなにも凶暴だったのか。
「あなたたち。失礼ですががっかりしました。」
「私みたいな小娘一人止められないなんて。」
「だって。」
「ねえ。」
「何ですか。」
「紹実ちゃんから聞いてたから。」
なん、だとっ。うっ。
姉が僕にだけ黙っていたのは
「一目見れば気付くだろうと思ったから」だと笑った。
お陰で酷い目にあった。
3人は僕の妹がどれほどの実力なのか確かめたくてそうしたのだと言った。
僕を下がらせたのは、また迂闊に助けに入られるとかえって面倒なのでそうしただけだ。
それでどうなの僕の妹は。
「強いわよ。」
「私も事情は聞いてます。」
「ただ3人が聞いていた話と違うのでがっかりしました。」
友維はぐるりと3人を見渡して。
「で、どなたが兄の恋人なんですか。」
何を言い出すか妹よ。やめれ。
「私は愛人だから違うわ。」と蓮さん。
「私は僕だ。」と葵さん
「私はこの人の玩具ですから。」と藍さん。
この人達も何を言っているのか判らん。もう判らん。
キッと僕を睨み付けたところで妹よ、まさか本気にはしないよな。
「やっぱりこの兄はダメな兄です。私の手で」
「あら妹ちゃんも素直なイイ子なのね。」
そんな事言ってないで止めて。妹の手が何か光ってる。
「ゴメンね友維ちゃん。皆お兄さんのお友達ってだけよ。」
「本当ですか?」
「ええ。ただのお友達。」
「残念です。せめて恋人の1人でもいれば命懸けで守ってくださるのに。」
友維は決意した。
「判りました。今日から私が兄を守ります。」
面倒が増えただけのような?




