26
皆、今までありがとう。でもこれからは。と言い掛けた時だった。
蓮さんが立ち上がり僕の前まで来た。何だろうと思った瞬間殴られた。
グーで。右拳で左の頬をフック。
ノトさんは驚いて飛び上がり、葵さんが蓮さんを止め、藍さんがノトさんを受け止めた。
僕はそのまま椅子から転げ落ちた。
「いったー。」
殴った蓮さんが手を押さえた。
「何やってんだお前。」
「2人の想いも込めたから力入ったのよ。」
「離して。私もう部屋に戻るから。」
肩を落として、静かにドアを閉めた。
「お前が悪いぞ。」
「見損ないました。」
葵さんも藍さんも殴られ転がった僕に手を貸すこと無く怒る。
僕が悪いなんて、最初から判っていた。
ずっと判っていた。ずっと考えていた。
本当は、二学期が始まってすぐに碓氷先生に伝えるつもりだった。
彼女達を解放してくれないか。と。
僕はもう大丈夫だから。指輪は隠したから。だから心配要らないと。
彼女達は5ヵ月間、しっかりその役目を果たした。約束は守られた。
これ以上彼女達を束縛するのはあまりに残酷だ。
「束縛された覚えはない。」
いつも穏やかな葵さんの口調も強い。
「蓮さんも言った筈ですよ。自分の意志でそうしているって。」
確かに言ってたね。
「だったらどうしてあんな言い方したんですかっ。」
いつも冷静な藍さんも、口調がキツイ。
皆が友達になってくれたから。
目の前の2人の魔女も。神流川蓮も。
桃さんも。リナさんもカナさんも。
皆がトモダチになってくれたから。
だからもう止めて欲しい。
今後、また僕が襲われて、今までみたいに勝てればいい。
でも皆より強い魔女だったら?
最初から。ずっと考えていたんだ。
君達に何かあったら。僕はどうやって責任を取ればいい?
僕は真剣だった。
本当に、真剣だった。昨日一日と言ったが、最初からずっと考えていたんだ。
結論を出したのが昨日ってだけで、皆が僕の守護者になったあの日からずっと。
だからこんな事を言われるなんて思いもしなかった。
「そういう事か。」
「らしいですね。」
「ちょっと蓮呼んでくる。説明しといてくれるか?」
「仕方ないですね。」
葵さんが部屋を出る。
「チョット立ってください。
と藍さんが促すと同時に自分も立ち上がった。
藍さんは深いため息を吐きながら僕に歩み寄る。
「腫れますよ。これ。」
彼女は僕の頬に手を添えようとする。
魔法で治してくれるのだろうか。
そんな便利な魔法なんて無い。
え?何?
彼女は僕を抱き寄せた。
結構力強くぎゅっとされた。
ぎゅっとされたと同じくらい強くバッと突き放して
「こんなことを言うのは本意ではありませんが。」
「あなたは本当にいい人なんですね。」
「私、好意が人を傷付けるのを始めて見ました。」
「ただの勘違いで人はここまで人を怒らせてしまうんですね。」
勘違いって、何。
「簡単に言います。」
「魔女は魔女を傷付けらません。」
なんですと?
1つは魔女の魔法はもう対処法が確立されている事。
もう1つは仮に知らない魔法で攻撃されてもそれなりに防御ができる事。
以前葵さんとリナさんが戦った時もそうだった。殴り合いをしたにも関わらず無傷。
「魔女が恐れられる所以でもあります。」
「本物の魔女は何者にも傷付けられません。」
どうしてこの3人が僕の護衛なのか、本当の理由が判ったような気がした。
「説明したのか?」
葵さんの確認に藍さんがこくりと頷く。
葵さんの後ろから真っ赤な目をした蓮さんが入ってきた。
「紹実ちゃんに泣き付いていた」と言った。
僕は藍さんに「蓮ちゃんが来たらあなたから謝るんですよ。」と言われてたから
顔を見てすぐに謝った。
ごめん。蓮さん。あの。知らなかったと言うか。その。
「聞いたからいい。」
あ、はい。
「殴ってごめん。」
いや、その。いえ。はい。
蓮さんはゆっくりと僕に近寄る。
藍さんがそうしてくれたように僕をギュッと包んでくれた。
「もうあんな事言わないで。」
うん。ごめん。
「ううん。ありがと。」
そして同じようにバッと突き放す。
「藍ちゃんの匂いがするわよ。」
えっ。
「えっ。」
驚いてつい藍さんと顔を見合わせてしまった。
「私達がいない間に何やってたのよっ。」
「この人ったら急に。」
なっ。何もしてないっ。
「やっぱりもう1回殴っておこうかしら。」
ええっ。




