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ほどなく宮田さんの姉の「杏ちゃん」が戻る。
手提げ袋からたこ焼きがたくさん出てきた。
「ほれ、お前の姉ちゃんに世話になった礼だ。むしろ罰だ。受け取れ。」
あ、ありがどうございます。
「皆も食べて。」
「でその姉ちゃんは一緒じゃないのかよ。」
ん、何か後で来るって言ってましたよ。
「あの野郎宴会だけ参加するつもりだな。」
たこ焼きをご馳走になりながら、その3人に手を取られ縁日を回った。
ここの射的場はどうの。ここの焼き烏賊屋はどうの。
ここの金魚掬いはどうの。ここの焼きそば屋がどうの。
もう殆どの屋台の人と顔見知りなんじゃなかろうか。
その殆どの人に僕を紹介して回った。
「やっと会えたなー」「君がそうか。」「なるほど似てるなー。」
まただ。やっとって何だ?皆僕を知っているようだが紹実さんの弟ってだけでこんなに知名度があるのか?
(射的で「1発で3つの景品を落とす男だ。」と柏木さんが僕を紹介した。
店の人に訝しそうに「撃ってみろ」と言われたので大きな熊のぬいぐるみを狙った。
これならまあ落ちないまでも外れはしないだろう。とお気楽な感じで。
すると熊はぐるりと回りながら周囲の景品を3つほど巻き込みながら落下。
「ひぃ」と悲鳴のような声が聞こえた。そんなバカな。と案の定蓮さんがニヤリとした。
試し撃ちでお金も払っていないので景品は丁寧にお断りしたのだが小さな熊のぬいぐるみを押し付けられてしまった。
「やるなぁお前っ。」
いやあれはその
「それ私が貰っていいわよね。」と蓮さんがぬいぐるみを手に入れた。)
「面倒だろうけどもう一回神社行け。花火が綺麗だぞ。」
散々引っ張り回された挙句そう言って送り出された。
「悪かったな。姉ちゃんガサツで引っ張り回されて。」
楽しいお姉さんだね。
「しかし理緒は有名人なんだな。」
僕って言うより紹実さんだよね。
「晒し者ってこういう事だったのね。」
「でもどうして今日は許したのかな。」
さあ。どうしてだろう。態々早朝に挨拶に行ったのは何の為?
あの不思議な女性たちを思い出しながら長い階段を登った。
花火が始まった。
綺麗だ。
とても印象的な一日になった。
友達とお祭りに行って、たくさん笑って、知り合いも増えた。
皆の浴衣姿はとてもかわいかった。
彼女達が注目の的なのは誇らしかった。
もっと別の機会で来られたら良かっただろうに。
僕なんかの御守りなんて勿体ない。可哀想な事をしてしまった。
「どうしたの?疲れちゃった?」
カナさんはいつも僕の体調を心配してくれる。敵かもしれないのに。
こんなにも暗い夜なのに、顔色が見えているように。
ちょっとね。
「ホント体力ないな。やっぱり道場通うか?」
それもいいかもね。
実はもう倒れそうなくらい頭が痛かった。
家に帰る早々寝込んでしまい。翌朝熱を測ると「今日は寝てなさい。」と言われた。
「紹実ちゃんが予想していたより酷いみたいね。」
と仕事に出掛けた紹実さんに代わって、蓮さんがハーブティを持って来てくれた。
「もう少し体力あるかと思ってたって言ってたわよ。」
そうなの?
「あそこはイロイロと強い場所だから少々辛いかもしれないけど高校生なら大丈夫だろうって。」
「それも理緒を連れて行かなかった理由の一つなんだろ。」
「実際私も違和感ありましたから。」
藍さんは殆ど話さなかった。
ずっと何かを警戒していたようでもあった。
気持ち悪いとかじゃないんだよね。何かが違うってだけで。
「ええ。人のような人ではないような。私達とも違う何かってだけです。」
「そういった者達が集まり易い土地柄だって言ってたわね。」
「桃ちゃんも言ってたわね。」
「ちょっとアテられただけだからすぐに治まるって言ってたわよ。」
実際夕方にはすっかり熱は下がっていた。
ノトさんがお腹の上でずっと看病してくれたからかな。
夕方、皆が態々夕食を工房まで運んでくれた。
僕ももう起き上がれたので机の上を片付けて皆で食事をした。
「カナちゃんに看病してほしかった?」
何か言い出したぞ?早めに止めるべきか?面白そうだから聞いてみるか?
「理緒君はあーゆーかわいいタイプの子が好みなの?」
「てっきり桃みたいなタイプが好きなのかと思った。」
「どっちなんですか?はっきり答えてください。」
葵さんも藍さんも乗っかってきたぞ?もうちょっと泳がせてみようか。
「リナちゃんもイイ子よ。積極的だし。」
「グイグイ来られると弱そうだな。」
「まったく手当たり次第。本当コマシですねよ。」
僕は何も言ってません。
「じゃあ誰がタイプなのよ。」
藍さん。葵さん。蓮さん。リナさんもカナさんも、桃さんも皆タイプです。
「うにゃ。」
勿論ノトさんも好きだよ。
「あら。」
「ほう。」
「何それ。誰でもいいって事ですか?」
いや、
僕は皆の事好きだよ。
昨日の祭りで花火の時に思ったんだ。
皆には本当に申し訳ない事をしてるって。だから僕は精いっぱい皆のためになる事をしようって。
で、今日一日寝ながら何をしようか考えていたんだ。
「何するの?」
僕は何もしない。僕は指輪にその身を委ね、さらに自分を消す。
だから皆は僕を気にしなくていい。
学校に行く時も注意する。自分で何とか自分を守るよ。道場に通ったっていい。
それ以外の僕はいない。学校以外にはどこにも行かずここに籠る。
これからは僕を構わなくていい。
約束するよ。この家は安全なんだろ?なるべく外には出ない。
誰からも気付かれないようにするのは得意なんだ。
指輪の副作用とか言ったっけ?影が薄い理由も判ったから
この辺りまで話すと空気が張りつめたのが判った。
その後は自分で何を言ったのか覚えていない。




