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大通りを山車が通る時間になって、皆がそろそろ行こうかと言いだして
行ってらっしゃい。と言うのが精いっぱいだった。
「は?」
「何言ってるの?」
合流した鏑木姉妹も驚いていた。
僕はここで留守番なんだ。楽しんできて。お土産待ってるから。
「ちょっとどーゆー事よっ。」
と蓮さんが怒って、僕に詰め寄るのではなく母屋に向かった。
その間僕は残った皆に事情を説明した。
「そんなの私達が守ってやる。」
「そうよ。晒し者なんかにさせないからっ。」
でも皆に何かあったらそれこそ大変だよ。それに折角のお祭りが台無しになる。
そんな言い訳をしていると蓮さんが紹実さんを連れて来た。
「理緒何で行かないの?」
え?だって今朝。
彼女は僕の勘違いを正してくれた。
「今朝行ったのは今日は理緒も参加するからよろしくねって挨拶に行ったのよ?聞いてなかったの?」
なんだと?
「ほら早く着替えて行ってきなさい。皆、理緒をお願いね。私も後から行くから。」
慌てて着替えて山車を追掛けた。
街を回って、神社に行って、小さな巫女さん達が舞って公園の屋台。そして花火。
お祭りの手伝いでまだ合流してない桃さんが教えてくれたルート。
山車の後ろを歩くとクラスメイト達の顔も見えた。
それにしても。
浴衣姿の美少女5人の真ん中に普段着の冴えない自分が何とも情けない。
お祭りなんて初めてだ。
「私達は理緒君を見失ったりしないわ。安心してね。」
「そうですね。こうしていればもっと安心です。」
藍さんが僕の手を取った。
「何それ。あんたたちそういう関係だったの?」
「煩いですね。あまりガタガタ言うとリナの壁穴にぶち込みますよ?」
「なっ。」
「反対の手が空いてるって言ってるんです。」
「はぁ?何言ってるのよ。何でこんなのと私が手を」
「じゃあ私が。」
何故か鏑木カナさんが手を取った。
「両手に花だな。」
「うーん。でも何かしら。姉2人がフラフラしちゃう弟を必死に抑えている図にしか見えないのよね。」
「ああそれだ。」
本当はこのまま山車に付いて行くのが正規の(?)ルートらしい。
僕達は道を外れ山車を追わずに神社に向った。
神楽殿で行われる御神楽の場所取りをしろと宮田さんから言われていたから。
そこで合流する。
「大変だったのよ。この子行かないとか言い出して。」
「何だと?」
いや事情があったんだよ。もう。
蓮さんは深刻な話をとても簡単に軽くしてしまう。これが彼女の思いやり。
「ところで何で桃は浴衣着て無いんだ?。」
「着られるかこんなヒラヒラした物。」
「あーあマイナスよ。まあライバル減るからいいけど。」
何の話だ。
「おう。来たな。」
神楽殿に現れたのは小室絢さん。
緋袴の巫女装束がとても似合う。
同じように巫女装束の2人の女性を連れていた。
「紹介しとくよ。この神社の神巫とその巫女さんだ。」
「こんにちわー。」
「皆魔女でな。」と小室さんが2人に魔女達を紹介している。
やっぱり少し耳鳴りがして皆の声が遠い。
2人共綺麗だな。特に神巫と呼ばれた女性には不思議な魅力がある。
うっかりすると見惚れてつい凝視してしまいそうになる。
「やっと会えたわ。」
「随分と待ったのよ。」
2人は僕にそう言った。やっと?待った?
「うん。弟って言われても違和感ないわね。」
「あ、姫も?私も思った。結構似て無い?目元とか。」
「そようね。実は本当の姉弟なんじゃない?」
「少し前の私達みたい。」
この2人も僕の事情を知っている。
皆が紹実さんに協力している。
不意に神巫さんが僕の頭を撫でた。
「どう?」
え?あ、はい。あの。
「ゆっくり楽しんで行ってね。桃ちゃんもお疲れ様。て貴女浴衣は?」
「持ってませんよそんなの。」
「やっぱりな。そんな事だろうと思った。ちょっと来い。」
3人は桃さんを連れて行ってしまった。
「何だったのかしら。」
「さあな。でも何か。」
「ええ、何か。」
僕だけでは無かった。皆が皆、特別な何かを感じていた。
「嬉しそうですね頭ナデナデしてもらって。」
はい?
「顔がにやけてますよ。」
「確かにかわいかったな。」
あ、いや違うよ。いや違わないけど。なんだか不思議な感じがしたんだよ。
「不思議って?」
どう言ったらいいのだろう。
一瞬魔女なのかと思ったけど、どうも違うみたいだし。
もっと何か、触れてはいけない存在のような。
不思議な事に、耳鳴りが止んでいた。




