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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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楽しかった海水浴から帰り、冷房の効いた工房でだらだらしていた午後。

練習終わりで寄った宮田さんから今度は「夏祭り」に誘われた。

「アタシも子供の頃舞った。」

まった?

巫女さん達が舞って、屋台があって花火があがって。

数年前にはテレビで放映されたとも言った。

「その神社で魑魅魍魎が集った。」だの

「絢姉ちゃんはその神社の神巫と親友でその席で巫女として舞を収めた。」とか、

「初詣の時に何処かの国のお姫様と一緒に手伝いをした。」だとか、

もう何て言うか出来の悪いラノベでも読まされているような。

「行くよな?」

皆さえよ

「行くに決まってるじゃないですか。バカでしょ。アホでしょ。」

「桃ちゃんも私達を直接誘ってよ。そしたらこのバカ引っ張ってでも連れ出すから。」

実際、夏休みに入り僕達の行動パターンは少々変わってきている。

誰かが何かの用事があるとその人に合わせて全員が行動するようになった。

元々出不精の僕なんかは「自分の用事」なんてあるはずもなく、ただ皆の後に付いて行くだけなのだが、

藍さんが「新刊出たから」と言えば皆で本屋に行く。

葵さんが「たまには歌いたい」と言えばカラオケに行く。

蓮さんが「甘い物欲しい。」と言えばカフェでパフェる。

実家に荷物を取りに行くとなれば皆でその人の実家まで行って挨拶する。

それはまるで「夏休みに友達が遊んでいるよう」であった。

「遊んでるのよっ。いつも誘えって言ってるでしょ。」

とリナさんに怒られた。

「海終わりで用事があるからしばらく無理ねって言ってたじゃない。」

「そうだっけ。」

「まあ忘れてたワケじゃないのよ?」

「まあって何だっ。」

どうして蓮さんはこんな言い方をするのかと言うとリナさんが友達だから。

出会った当初から、彼女は皆と分け隔てなくお喋りをしていた。

「お喋り」って表現は御幣があるか。

彼女から声を掛ける。

僕に声を掛けたのも、宮田さんにも。未だに指輪を狙っていると言い張る鏑木姉妹にも。

パッと見、全然そんな風に見えない。むしろお高く止まって澄ましているのが似合いそう。

発言も理性的と言うか理に適っていると言うか、正論を述べる。

だが時として、今みたいに相手が誰であろうと軽口を叩く。

もうずっと以前からの友達だったみたいに、そうする。


「何でそういうの気付くの?」

「藍ちゃんの言いぐさじゃないけどキモチワルイわよ。」

キモチワルイってどういう事だ。

気を使ってくれてるんだなって思ったから御礼を言いたかっただけだよ。

「いいのよそんなの。」

「あの二人が口数少ないのは薫ちゃんから聞いてたから。」

ああやっぱり。

でも鏑木姉妹とも仲良くなったよね。

「そうね。どうも目的が指輪ってわけじゃなさそうだからね。」

「それに2人共イイ子だから。」

「だから最初は気を使っていたけど最近はそうでもないのよ。」

うん。それならいいんだ。

「理緒君が察している通り私も元々口数多い方じゃないから無理もしたけどね。」

「今はペースが掴めたから。大丈夫。」

うん。

彼女はじっと僕を見て

「これか、あの二人が言っていたの。」

これって?

「いいわ。」

何が?


夏祭りの日。

僕は紹実さんに連れられ神社に行った。まだ祭りの準備さえ始まっていないようなとても早い時間。

朝靄に包まれた神社は何とも雰囲気がある。

雰囲気だけではない。何だろう。耳鳴りがする。少し喧しいくらい騒がしい。指輪が重い。

神主さんだか宮司さんだかに紹介された。

挨拶から互いが互いを尊敬しているのがよく判る。

「ご無沙汰してます。」

「全くだ。もっと遊びに来なさい。その子がそうか。」

「ええ。私の弟。ほれ。」

あ、はい。御厨理緒です。

「ん。よろしく。君のお姉さんには随分とお世話に、したのか?されたのか?」

「まあどっちもどっちって事で。」

その後姉がしばらく話をしていたが内容まで聞き取れない。耳鳴り?音がとても遠い。

きっと昔話なのだろう。僕が判ったのは知った名前が出たときだけ。

「生憎結は小室のところへ行ってて。南室の娘が帰ってきたとかで。」

「ちょうどよかった。もしかしてまた舞うの?」

「今年から佳純も舞うよ。」

「そうかぁ佳純ももうそんな歳か。つか帰って来たなら教えてくださいよ。」

「いや今年はただの帰省だ。今正式に迎える準備をしている。」

それから本殿へと歩きながら教えてくれた。

「本当はもっと早くここに連れて来たかったんだけどね。」

「理緒が晒し者になるのもどうかと思って。」

晒し者?

「ここは特異な場所でね。」

桃さんが言ってたな。魑魅魍魎がどうのこうの。

まさか本当に?

「そう、それそれ。あと私が吸血鬼燃やしたった場所。」

本当だったのかよっ

「三原紹実の弟がいる。なんて知れたらどんな騒ぎになるか。」

そうか、それでこんな朝早くに連れて来たのか。

夏祭りの本番は家でお留守番してね。て事だ。

僕はその事を言い出せずにいた。


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