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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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宮田桃、小学四年生。

同級生の男子達から「イジメっ子」を退治して欲しいと頼まれた。

剣道は暴力の道具ではないと心得ている彼女は当然断る。

「イジメられないように道場に通え」とその子達にも言った。

ある時、その「イジメられている側の子」たちが猫と遊んでいた。

やっぱり優しい子達だからイジメられるのかな。と思って見ていた。

が、彼らは猫のしっぽを掴み逆さに振って笑った。

猫を投げ合って笑った。

「あれがキレるって事なんだと思う。」

気が付くと5人の男子が怪我だらけで伸びていた。

「よくやった。猫をイジメるような奴はぶちのめせ。」

「ホントよ手足折ったって足りないわっ。」

後日に判明するのだが「イジメた側」と言われていた子達も

イジメられた子達が同じような事をしているのを目撃し

注意した事を逆恨みされただけだった。

正しい事をしたと今でも思っている。

しかし既に決まっていた県の強化選手としての資格は無くなり

大会への出場も辞退せざるを得なかった。

いちばん辛かったのは「この道場の生徒が半年間の対外試合を禁止」された事だった。

「それで絢姉ちゃんの全国大会出場も取り消された。」

彼女は「私でも同じ事をしたよ。」と笑って許してくれた。

道場の他の子も、事情を知って褒めてくれさえした。

「小室さんのご両親が言ってくれたんだ。」

道場の外で、しかも試合でもない。まして素手の相手に竹刀を振って怪我をさせた。

どんな事情があろうと罰は受けなければならない。

だが、良くやった。動物がイジメられて見て見ぬふりなどしていたら君も同罪だ。

「君は正しい事をした。これからはあまりやりすぎないようにな。」

そう言って笑ってくれた事で救われた。

それでも彼女は自分のした事でたくさんの人に迷惑を掛けた事実に責任を感じていた。

彼女は他者を遠ざける。同時に他者も彼女を遠ざける。

ほどなくして子供達の間で「宮田桃最強説」が流れる。

一番酷い噂は、彼女が「イジメられっ子を半殺しにした」。

イジメっ子を殴ったと噂されるならまだ良かった。

彼女は(事実はどうあれ)イジメられっ子に暴力を振るった子と認識されてしまったのだ。

中学生になってからも学校ではあまり人と関わらないようにしていた。

道場で汗を流している時だけが救いだった。


「少なからず皆経験しているんだな。」

宮田さんの告白に渡良瀬さんが呟いた。

彼女1人に告白させるのは悪いと思ったのだろうか。

僕達は渡良瀬葵の過去を知っている。

「蓮と藍だって、何かやらかしたからここに居るんだろ?」

「まあね。」

「否定はしません。」

鏑木姉妹はお互いの腕を強く抱き締め合っていた。

彼女達にも何かあったのだろう。

魔女と言うだけで、それがバレると言う事はそれだけで恐怖の対象になる。


「そうか。アタシ時々忘れるけど、皆魔女なんだよな。」

ここにいる女子はその宮田桃以外全員が魔女。

僕は魔女じゃないけどね。

「でも魔法使えるんだろ?」

「スゴイのよこの子。」

「一回で壁抜け成功させたんですよ。」

「壁抜け?」

「言葉通り壁を抜けるんだ。」

「うそっ。私全然出来ないのに。」

「それって凄い技っていうか魔法なんだ?」

「私出来るようになるまで2年掛かりました。」

「2年でも早いわ。」

「それをこの子一回目で完璧に抜けたんですよ。ムカつきますよね。」

「普通は何度も引っ掛かるのよ。最初は手が抜けなくなってパニックになるんだから。」

「あー私も泣いた。だから最初は薄い板とか紙で練習するんだ。」

「リナの時は壁壊したもんね。」

「やっぱり抜けなくなったの?」

「違うの。リナは最初から家の壁に。ぷふっ」

「イイのよソレ言わなくてっ。」

「何よ。何。」

「「私練習ナンかしなくてもすぐにできるもんっ」って部屋の壁に突進してドーンて。」

小さな鏑木リナちゃんが壁に体当たりするシーンが皆の脳裏に共有され、皆で笑った。

家の壁に大きく穴が開いて以来そこにはポスターが貼られる事になった。

「何かあるとね、ふふっママが「悪い事したらリナの壁穴にしまっちゃうからねっ」とか。」

「「そんな悪さしてるとリナの壁穴から怖いお化け出てくるわよ。」とか。」

「見たーい。リナの壁穴見たーい。」

「超見たいです。」

「何それかわいいな。」

「あーもうっイイのよそんな昔の事っ。」

皆はとても笑った。楽しそうだ。

だからこそ。

「どうしたの?」

考え事をしている僕に鏑木カナさんが気遣って声をかけてくれる。

ちょっと疲れただけだよ。

「そうね、そろそろ戻って休みましょうか。明日もあるし。」

「14時って言ってたっけ?」

「うん。予定はね。お昼食べて遊ばせてからって言ってた。」

「帰りたくないなー。」

「また来年来ましょうよ。」

「そうですよ。」

来年。か。

指輪の問題が片付いてしまえば、僕がこの輪の中にいる理由は無くなるんだ。


翌日は、ずっとそんな事を考えていた。

少々不謹慎な事さえ過ってしまうほどだった。

「この問題が片付かない限り、彼女達は僕の傍にいてくれる。」

でもそれは僕が彼女達の自由を奪う事になる。

今現在だってそうなんだ。つい先日神流川さんに叱られたばかりじゃないか。

女子高生を、楽しい盛りの彼女達をいつまでも僕の護衛なんかさせていいはずがない。



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