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Kiss of Witch  作者: かなみち のに
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テストも無事に終わり、夏休みになる。

この町の高校生の伝統行事らしいのだが

「小学生と朝のラジオ体操」「小学生の宿題の手伝い」を7月中やらされた。

おかげで健康的な日々を過ごし、自分達の宿題も捗り、その殆どが終わってしまう。

それにしても高校生にもなって夏休みの宿題があるとは思わなかった。

そして海への出発日。結構立派なバスが目の前にある。

中型バスらしいのだが詳しくは知らない。

道場の前に着く。宮田さんとその隣にその師範の小室絢(こむろ あや)さんとその父親。そして子供達。

後から2列目と3列目の座席が90度回り、最後尾席の5つと合せると

丁度13人分がテーブルを囲めるようになっていた。

サロン状態とか言うらしいがこれも詳しくは知らない。

とにかく当然バスの中から子供達は大燥ぎだった。

バスの中で朝食を済ませ、到着すると子供達は早速砂浜を走らされた。

宮田さんと小室親子が面倒を見る。

僕達は荷物を運ぶのを手伝う。

が、気付くとバスの運転手が殆どの荷物を運び終えていた。

「あなた今日はどうするの?」

「お嬢様のお手伝いをするように仰せつかりました。」

「近くに宿も用意していただきましたので存分にお手伝いできます。」

「助かるわ。ありがとう。」

藤沢藍は何者なんだ。

僕達はあくまでも食事や荷物運びの手伝いなのでそれさえ済ませれば自由行動。

なのだがここでも気付くと作業の大半を運転手さんがこなしてくれた。

「藍は海に入らないのか?」

「日焼けしたらどうするんですか。」

「何しに来たんだよ。」

「葵ちゃんこそ肌キレイなんだから水着になるならしっかりオイル塗った方がイイですよ。」

「水着は持って来たんだろ?」

「そりゃまあ一応。」

「じゃあホラ着替えに行こう。

「仕方ないですね。」

ダメだ。ニヤニヤが止まらない。

「何だそのイヤラシイ目付きわ。」

「ほんっと変態ですよね。」

「紹実ちゃんの水着姿も観たかったなぁとか思ってるんでしょ。」

否定はできない。

姉は仕事の都合で来られなかった。

「ノトの世話もあるからな。」

と言いつつも散々愚痴を聞かされた。

「言ってもまだ高校生だからな。ハメを外し過ぎるなよ?」

「でもまあ何だ。チャンスがあればモノにしろよ?」

と煽られた。何のチャンスだ。

お昼はカレーを皆で食べて、その後は子供達も自由時間。

中々水着にならない宮田さんに魔女達が強引に更衣室に連れ込んだ。

これまたニヤニヤしてしまう水着姿だった。

真っ赤になって僕に殴りかかってきたのが可愛かったので避けられなかった。

引き籠りの僕はもうどうにもならないくらい白くてヒョロイ。

「うちの道場来い。鍛えてやるから。」

と小室絢さんに起こされた。

宮田桃が尊敬する小室道場の次期当主。

背も高くてモデルさんみたいな人だな。かっこいいな。

「それにしても紹実ちゃんの弟になるとか。」

「知らないってのは幸せなんだな。」

なんですと?

ひとしきり遊んで子供達が夕陽に向かって何か叫んでいる。

これも恒例行事のようだ。

僕達はその間に皆の夕食の支度をするのだが

ここでも運転手さんが大活躍で僕達は殆ど何もしてない。

その席で小室さんはいろいろと姉の事を教えてくれた。

巫女さんと吸血鬼と狼男がその話に登場するのだが

一体どこまで真実なのだろうってくらい現実離れしていた。

紹実さんは重要な役割を担っていたようで

「何度も救われた」と言いつつも

「あの人が騒動の元凶だった事もあったけど。」と笑った。

「今ここでこうして笑っていられるのも、紹実ちゃんがいてくれたからなんだ。」

三原紹実。自称僕の姉は一体何者なのだろう。


魔女達は本当に燥いでいた。

きっと今は「指輪の守護」を忘れている。

夕食時には道場の子供達の面倒を良く見て、

夕食後には皆で花火。

皆笑っている。

魔女達は今ただの女の子になっている。

本当に、楽しそうだった。

僕には友達と遊んだ記憶が全くない。

それどころか祖母と外出した記憶すらない。

身体の弱かった僕は夏休みに出掛けるなんて有り得なかった。

皆は、子供の頃ももこうして友達と笑っていたのだろうか。

あれ?

勝手に友達扱いしているけど、彼女達は僕を友達だと思っているのか?


子供達が寝静まり夜の海の散歩に出かける事にした。

小室さんも誘ったのだが

「お前達だけで行ってきな。子供達見てるから。」

じゃあ僕も残りますよと言い掛けたら

「お前が行かなくてどうする。」と結構本気で怒られた。

波の音と、遠くで聞こえる笑い声。

僕達はしばらく誰も何も言わずに歩いていた。

それから横に長い階段に座ってただ潮風を感じていた。

「楽しかった。」

ぼそりと渡良瀬さんが呟いた。

「ふふ。そうね。ちょっと飛ばし過ぎたかもね。」

神流川さんが笑う。

「桃ちゃんのお蔭ですね。」

藤沢さんが御礼を伝える。

「私達まで誘ってもらって。」

鏑木カナさんもそれに続く。

「誘わなかったら一生恨んだところよ。」

鏑木リナさんなりの感謝の意。

「いやコッチこそ助かったよ。」

「白状しちゃうけどさ、理緒を誘えば皆付いて来てくれるかなってのが思い浮かんじゃって。」

「結構策士なんだな。」

「あ、いやごめん。こんな事頼める人他にいなくて。」

「それでなくてもアタシ今まであまり友達とかいなかったからさ、ホントに助かったよ。」

「でもコイツがいなくても私達誘ったでしょ?」

「リナちゃんちょっとおかしな事言ってるわよ。」

「なによ。」

「この子が居なかったら私達だって知り合って無かったんだから。」

「それもそうか。」

「でも意外ね、桃ちゃん面倒見もいいしお友達多いんじゃない?」

「うーん。どうかなー。」

何か訳がありそうな口ぶりだった。

聞いて欲しいのだろうか。それとも言いたくない事なのだろうか。

「他のクラスメイトは私に遠慮してるって言うか、やっぱりまだ怖がってるようにも感じる時があるんだ。」

やっぱり?まだ?

「皆は他所から来たから知らないんだ。私小学生の頃ちょっとやらかして。」



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